魔王の友を持つ魔王
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§69 殲滅戦
「マジなんとかしてコレ」
弱気な発言と共に逃走の一手をとる黎斗。背後をチラ見しながら逃げるのはしょうがない。普段なら切り裂く追撃の弾丸も、汚物となれば切り裂くのに躊躇してしまい。避けるしかない。それも服につかないように逃げるには、いつものように紙一重で避けたら駄目なのだから。
「ふっ――――」
振り向いて、飛び上がる。三昧真火。神魔すら焼き焦がす紅蓮の焔が視界一面を覆いつくし、糞尿の一切を焼き尽くす。ついでに反動で黎斗の身体は更に後方へ。
「聊か気は進まないけど」
ヴォバン侯爵に変化して。
「みんな、頑張れ!!」
狼を召喚。無数の狼が怠惰の魔神に襲いかかろうとして――――何もできずに倒れ伏す。
「はぁ!?」
動揺した黎斗の頬を掠める、茶色の弾丸。その臭いに顔を顰めて納得する。
「……ギャグかよくそ」
神獣の狼ともなればさぞ嗅覚は強いだろう。それが権能の糞尿に接近すれば、こうなるか。これはカイムの権能で他の動物に助けを求めても無理かもしれない。狼に比べればマシかもしれないが索敵依頼はだせそうにない。オマケに質量・速度ともに申し分ないそれらは単純に弾丸としても十二分な威力を持つ。癪な事だが攻防一体、ふざけた能力だが厄介な事この上ない。
「ふざけんのか真面目にやるのかどっちかにしてくれよ……」
しかも町中いたるところにある絵が、黎斗の動向を監視している。看板や標識を逐一破壊しながら逃げるのは骨が折れる。おまけにさっき、たまたま民家の窓を見たのだが、カレンダーの中のキリンと目があった気がする。つまり、監視の目を完全に潰しきるのは更地にでもしない限り不可能だ。
「絵によるこちらの位置把握と、超長距離からのウンコ爆撃って最悪すぎるだろ」
これらに加えて都市の人間全員を暴徒と化す力。なんだコイツ。都市を壊滅させるためだけに出現したかのような権能の数々ではないか。
「これはミスったか……?」
逃げたのを追いかけてきてくれれば、美術館外に誘導しようと考えていたのにアテが外れた。しかも事態は悪化している。
「破壊光線は……ダメだ。撃ったら都市が壊滅する」
護堂の”白馬”を借りても良いが多分結果は同じだろう。範囲が多少狭くなるが、それでも民間人虐殺コースになるのは変わりそうにない。
「どうしようかな……ってうそだろぉ」
街角から出てくる、戦車たち。一つ一つからとんでもない呪力を感じる。それが、一斉に砲撃してくる。なんだこれ。
「まぁ、大便じゃないだけマシか」
威力は大便より大きいだろう。だが、汚物でない以上黎斗が苦戦する道理は無い。そこらの民間人の服を拝借し解体した長い糸が、汚物と一緒に砲弾を引き裂く。戦車内部に人がいる場合を考えて、キャタピラの部分だけを破壊。糸が切れるのにも構わず捨てて非難。即座に物陰に逃げ込み爆発する砲弾と飛散する汚物から身を守り小休止でため息をつく。
「戦車を操る? どういうことだ?」
思い出すのは、邇藝速日命。彼は飛行機の神として飛行機を使役していたが。ならばこの悪魔は戦車の悪魔とでもいうのか。
「戦車とウンコと人間暴走の悪魔ってなんだよぉ……」
戦車を悪魔が操った人間が操縦しているのか、悪魔が遠距離から直接操っているのかでだいぶ戦略の立て方が変わるのだが。無人ならば、こちらも飛行機召喚からの絨毯爆撃で殲滅出来る。
「戦車vs飛行機ってもはや戦争じゃないか……」
と思っていれば、爆音が四方八方から聞こえてくる。
「は?」
慌てて周囲を見渡して、愕然とする。
「なんでもアリだなコイツ……」
空を大量の戦闘機が哨戒し、湖には何故か軍艦が浮かんでいる。絵画の死角になる場所に逃げ込んでいるとはいえ、これでは見つかるのは時間の問題だろう。
「って思ってる傍から!!」
戦艦からの砲撃が、黎斗の隠れていた地点へ飛んでくる。ナイフを投げて迎撃するも、戦闘機が上空から雨霰とミサイルを撃ってきて。時たま降ってくる糞尿爆弾。
「なんで一軍相手にする羽目になるんだよ――――!!」
これでは、悪魔を探しに行けない。というか、この惨状で移動しようもんなら本当に死人が出る。ここが無人エリアだから良いものの、移動する先には間違いなくバトロワしている人間がいる。
「僕らの戦いで被害を出すのは避けたいんだけど、コレだとマジで無理っぽくね……?」
ドニはどこいったドニは、と思った所で名案が閃く。
「僕は僕に――――」
ドニに変化。右手に持つのはテーブルの脚。だが、それで十分だ。神さえ葬る銀の腕は得物の質を選ばない。
「ハァッ!!」
気合い一閃。それだけで大地が割れる。"距離"を切り、斬撃は瞬時に戦車に届く――――!
「おっけー」
笑みを浮かべる黎斗の視線の先には、解体された戦車の勇姿。台座には当然いるべき存在の姿など無く――――
「容赦しなくて良いわけだ。カモン」
刹那、空間が歪んで。
「さて。とりあえず美術館まで戻りますか」
周囲一帯を荒地にして、黎斗は清々しい笑みを浮かべる。黒い煙とともに軍艦が沈み、戦車が崩れ落ち、爆撃機が墜落して轟音が響く中、黎斗は自分の機体に乗る。前方から来る糞尿の一切をガトリングで迎撃し、次々くる戦闘機のミサイルを掻い潜り、こちらのミサイルで始末する。
「これ絶対神と神殺しの戦いじゃねーよ」
戦艦や空母級になると、流石に一撃では破壊できない。ミサイルを何発もぶち込んでようやく沈黙させることに成功する。空母を撃沈させて、戦闘機が出てこないことを確認して即美術館へ。糞尿の弾幕をガトリングとミサイルで捌ききる。
「これ以上は機体が汚れる、か」
機体をしまい降下する。四方を囲む大便小便の攻撃は。
「死し去らば、誰に憑ってか報ぜん!!」
借り受けた、羅濠の権能で吹き飛ばす。
「本日の天気は晴れ時々汚物でーす……ホントごめんなさい」
非常事態だ。このくらいの被害は許してほしい、と切に願いつつ美術館へ侵入に成功する。
「ここの絵画って絶対高いよなぁ……」
破壊したら悲鳴の声が大変なことになりそうだ。かといって保護する時間もなく。
「敵を前にその態度。不快だな。それほどまでに私は容易い相手かね」
背後に人影。出てきてくれたか。願ったりかなったりだ。
「難敵だと思うよ。ただこっちが縛りプレイしてるだけで」
「……君たちは闘争に際し手段を選ばない筈ではないか。そんな中で縛りプレイは我々に対する侮辱であろう」
一理ある。本当に接戦ならば、確かにそうだろう。手段を選んでいる暇などある筈ない。死闘ならばなおのこと。だが、それでも。
「僕は手段を選ぶんでね。それで死んだら、それはそれだ」
我を通すだけの力が無かっただけだ。魔神来臨も破壊光線も。殲滅権能は最後の最後のとっておき。犠牲者の数を最小に出来る時にしか使わない。
「……不愉快な小僧だ。あまり私を舐めるなよ」
苛立った声を聴きつつ、黎斗は僅かに、左足を後ろに隠す。ほんの少し。自然な体を装って。
「ほぅ……」
目ざとく気づいた悪魔が嗤い、黎斗の顔が微妙に歪む。
(なんてね)
安堵と焦燥。安堵は相手が偽装に引っかかってくれたらしいことに。これで足の方に気が言ってくれればいい。焦燥は肩の痛みに。肩に受けた傷の治りが遅い。----それは呪力が尽きかけていることを。黎斗の身体が屍に戻ることが近いことを示している。
「さて。意地でも本気を出してもらうぞ――――!!」
茶褐色の水流がうねり、彼の悪魔を取り囲む。
「……別に手加減してるワケじゃないんだけどなぁ」
説得力無いんだろうな、などと思いながらも黎斗は一応弁明する。
「ロンギヌス。頼む」
ジュワユーズに念話を繋ぎ、預けていた相棒を陰から取り出して。ロンギヌスの治癒能力でも誤魔化せるのはわずかしかない。神憑りした分の呪力はとうに使い切って、自前も雀の涙。調子に乗って権能を乱発しすぎたか。
「でも調子に乗ったつもりはないんだよなぁ」
護堂の山羊で呪力を辺りから拝借する。魅力的な考えだが、周囲にいる発狂組から呪力を調達できる気がしない。本来の使い手で無い分どうしてもそういうところでは一歩譲る形になるのだが、その差がこういう場面で顕著に表れてしまっている。
「あと2、3回の権能で仕留められないと撤退だな」
回復や撤退を頭に入れなければもうちょっと近く出来るかもしれないが。それらを念頭に置けばそんなものだろう。更にこうやって時間を浪費していく間にも呪力は着々と消費されているわけで。
「今回は翠蓮に頭があがらんな」
背後に具現化するは金剛力士。
「はぁああ!!!!」
巨大な像が、神速で踏み込む。
「ぬぅ!!」
巨体の割にそんな動きをするとは思っていなかったのか、悪魔の反応が一拍遅れて、
「捕まえた!!」
暴風を纏った拳は汚物を容易く吹き飛ばし、件の悪魔を捕獲する。
「私を捕まえた程度で勝った気になど……ぐっ」
捕まえた時点勝てるなど思ってるわけがない。どれだけ修羅場を潜り抜けてきたと思っている。そっちこそ、こっちを舐めすぎだ。
「残念ながら、こんくらいで油断はしないよ」
黎斗の右手が、強く握りしめられる。黎斗の動きを模倣する金剛力士も、右手を強く握りしめる。仁王の右手は、あらゆる悪鬼を粉砕せんと。その強大な力を十二分に発揮する。
「が、がぁあああああ!!!!」
剛力という単純な権能であるが故、その最大出力は規格外。更に八雷神によって僅かでも強化している一撃。借り受けていて弱体化しているとはいえ、それでも、その掌は。
「終わりだ」
――――まつろわぬ神すら握り潰す。
支配者を喪った糞尿が、落ちてくる。右手の中で何かが消失した感覚と共に。
「っとと」
金剛力士が消えていくのを見つつ、落ちてくる汚物を回避する。とりあえずは被害軽微、といってよいだろう。次まつろわぬ神きたら本気で死ぬけど。もう呪力ないんでホント勘弁してください。そんなことを思っていれば。
――――べちゃっ
「ん?」
なんか嫌な音が聞こえた。待て待て冷静に考えよう。落ちてきた汚物を自分は回避した。じゃあ、回避した汚物は何処へ行く? 消えるなんてご都合主義な事は起こりえない以上。下に落ちる。
「ちょっと待ってちょっと待って」
顔を真っ青にして、黎斗が恐る恐るしたを覗く。
「……」
眼前には汚物の流れる、美術館の廊下。壁にも茶色の染みが大量についていて。これは名画の数々が無事だと考えるのは流石の黎斗もちょっと出来そうにない。
「しらねーよこんなんどーしろってんのさぁ……」
盛大にやる気を失った黎斗は、屋根の上に倒れ込む。
後書き
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ベルフェゴールの権能の盛りっぷり、自分でもやりすぎだと思います(爆
伝承から飛躍させすぎですが、反省も後悔もしていない!(死
糞尿&バアル繋がりで蠅の王さん呼ぶ案もあったのですが、キャラ増えて収拾つかなくなるので没に
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