FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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終幕
前書き
今回は少々ジュビアの妄想劇が入ってきています。妄想というか・・・なんというか・・・
『決着!!大魔闘演舞優勝は・・・妖精の尻尾!!』
観客たちの歓声で激しく揺れるドムス・フラウ。歓喜に湧く妖精の尻尾。そして、それを成し遂げた6人の妖精たちは互いに視線を交わらせ、ついにたどり着いた栄光に満足気な表情を浮かべていた。
その内の1人。妖精女王のエルザがゆっくりと目の前でガックリと手をついているスティングのそばに歩み寄る。
「スティング。なぜ向かってこなかった」
親友のために全員まとめて倒すと息巻いていたスティング。それなのに、彼は突然膝をつき降伏したのであった。それがなぜなのか、エルザたちには理解ができない。
「会えない気がした・・・」
項垂れたまま、彼はそのように答えた。
「勝てば会えると思ってたのに、なぜか・・・会えない気がしたんだ・・・」
彼が一体何を言っているのか、まだ把握しきれていないエルザはただ次に発せられる言葉を待ち構える。
「自分でもわからない。あんたたちが眩しすぎて、今の俺じゃ・・・会えないって・・・」
仲間のために、例え傷だらけになろうとも挑むでいった妖精の尻尾。スティングはそんな彼らの姿を見て、自分のことしか考えていなかった自分では、レクターに会えないと感じ、戦う意欲が失せてしまったのだった。
「会えるさ」
「エルちゃ~ん!!」
優しく声をかけたエルザ。彼女の後ろから、聞き覚えのある声がエルザのことを呼び、そちらに皆視線を向ける。
「?・・・あ・・・」
ようやく顔を上げたスティング。彼はエルザを呼んだその女性を見て、目を見開いた。
笑顔で緋色の髪の女性に手を振っているのは彼女と楽園の塔からの友人であるミリアーナ。そんな彼女の手の中には、ぐっすりと眠っている赤茶色のエクシードが大切そうに抱えられていた。
「あ・・・あぁ・・・」
スティングはそのエクシードを見たと同時に立ち上がり、すぐにその元へと駆け寄っていく。ただ、気持ちばかりが先を行き、足がついてこずに何度も何度も転びそうになってしまう。
「んん・・・」
彼が必死に近づいてくるのを感じたからなのか、ミリアーナに抱えられていたレクターがゆっくりと目を覚ました。その彼の瞳に真っ先に飛び込んできたのは、言うまでもなく、自分に駆け寄ってくるスティングだ。
「ん!!んん!!」
近づいてくるスティング。待ち焦がれていた青年の姿を見たレクターは、寝起きとは思えないほどの速度でミリアーナの手から抜け出そうとしている。それに気付いたミリアーナは、レクターを地面へとゆっくりと下ろし、彼の一番の親友の元へと送り出す。
「レクター!!」
「スティングくん!!スティングくん!!」
「レクター!!ああっ!!」
2人とももう会えないかもしれないと思っていた大切な人に出会え、目から溢れ出るものを拭うことすら忘れ、早く・・・少しでも早く友の元へ行こうと駆けていく。
それを見ていたシリルたちは、彼がなぜレクターの名前を挙げていたのかを理解し、2人の再会に思わず嬉しそうな顔をしていた。
スティングの胸にダイブするレクター。それを彼は受け止め、愛おしそうに抱き締める。
その映像を見ていた全ての人たちが、感動的な2人の再会に胸を熱くしていた。中でも三大竜のローグとグラシアン。彼らはただ静かに魔水晶ビジョンに映し出されている仲間たちを、口元を緩めて見つめているのだった。
そんな2人の感動の再会も束の間、観客たちのボルテージが高まっていく。
「にしてもすげぇな。ここまで聞こえるぞ」
「まるでクロッカス全体が、妖精の尻尾コールで揺れてるみたいですね」
遠く離れているはずなのに、はっきりと聞こえてくるドムス・フラウの観客たちの大歓声。それを耳にしたグレイとジュビアは笑みを浮かべながらそう言う。
「ったく。うるせぇんだよ。傷に響くだろうが」
「そんなこと言わないでくださいよ。最高の舞台なんですから」
傷だらけのガジルはいつも通りのキャラで、沸き上がる観客たちの声にそんなことを言っており、その隣にいたシリルはフラフラの自分がなんとか立っていられるよう、ラクサスにしがみつきながらそう言う。
「全くだな。これでマスターにいい報告ができるな」
「ま、じじぃはともかく、7年の苦境に耐えた仲間たちのためにはなったな」
エルザとラクサスがそう言う。ラクサスにしがみついているシリルは、普段笑顔なんかなかなか見せないラクサスが笑っていたことに、内心驚いたような顔をしていた。
「グレイ様!!優勝記念デートに行きましょう!!今から!!」
「今からって!?」
傷だらけのはずなのに、グレイの腕にしがみついてラブラブ感を醸し出しているジュビア。彼女のまさかの提案にグレイは思わず驚愕の表情へと変化してしまう。
「「ん?」」
そんな2人であったが、スティングがレクターとの再会にいまだに嬉しそうに涙している姿を見て、意志がシンクロしたかのように微笑んでいた。
その頃大魔闘演舞のメイン会場となっていたドムス・フラウでは、最後の優勝を決めた瞬間の、妖精の尻尾のメンバーたちの真剣な表情が大きく映し出されていた。
『お聞きください!!この大歓声!!最強ギルド妖精の尻尾!!完全復活!!』
『よかったな、マー坊』
いつまでもやむことのない妖精の尻尾コール。それにはチャパティもヤジマも興奮している様子だった。
『カボ・・・最終日を無敗で乗り切るなんて・・・カボ?』
誰1人として倒されることのなかった最終日。マトー君はそれに言葉を失っていたのだが、その後ろから王国の兵隊たちが現れ、そちらに視線を向けていた。
『いやぁ、最下位スタートからのまさかの逆転劇。そういえば、最初はAチームBチームに別れていましたよね?』
『最終日はナツくん不参加だったけど、結果的にはギルドの結束力がものをいったのかも知れないねぇ』
大会の当初を振り返っている実況席。妖精の尻尾の優勝を見ていた今大会の出場者たちは、その魔水晶ビジョンを見上げながら、なぜだか笑顔になっていた。
「さすがだね」
「あぁ・・・かなわんな」
1人では立ち上がることもままならないソフィアをおんぶしているリズリーと、アラーニャとベスに支えられているカグラがそう言う。
「やれやれ。結局今年も2位止まりになってしまったか」
今年も優勝を手にすることができなかった蛇姫の鱗のリオンが少し残念そうに、しかし、ライバルであるグレイの勝利に少しだけ喜びを感じているような、そんな表情をしている。
「ごめんね、リオン」
彼と一緒に飛ばされ、その隣に座っているシェリアが頭を押さえながら、申し訳なさそうに謝罪する。
「あっぱれ」
同じく蛇姫の鱗のジュラは、どこか満足気な表情で一言そう呟く。その近くで倒されていたオルガは、今さらではあるが、ようやく意識を取り戻して体を起こしていた。
「ま・・・天狼組の復帰祝いってことで」
「大きなプレゼントになったね」
「優勝おめでとう」
「最高のギルドだな、グレイさん」
リオンに倒されたタクトを迎えにきた青い天馬の面々。イヴとタクトに肩を貸しているヒビキとレン、そして肩を借りてようやく立っている長身の男が、それぞれ妖精たちに祝福の言葉を贈る。
「妖精の尻尾すごい!!」
「ああ」
ピョンピョンと音を立てて跳ね回っているフロッシュとダメージが大きくまだ座っていることしかできないローグがそう言う。
「クス」
すると、いきなりローグが小さく笑う。
「負けたのに、こんなに気分が晴れたのは初めてだ」
「ローグ」
破れてしまったはずなのに、嬉しそうにしているローグを不思議そうに見上げるフロッシュ。
「フロッシュ・・・俺は・・・」
「ん?」
「俺は、仲間を大切にする男になりたい」
「フローもそーもう!!」
爽やかな笑顔を相棒に見せるローグ。それを見たフロッシュも同じように笑顔になり、手を挙げて返事をした。
「くっ・・・いってぇ・・・」
「グラシアン・・・」
かなりの衝撃を受けてしまったためにまだ立ち上がることもままならないグラシアン。キセキは彼を支えてあげたいのだが、自分の背丈では到底彼に肩を貸すことなどできるはずもなく、ただ応援することしかできない。
「グラシアン!!」
「!!」
なんとか上体を起こすことに成功したグラシアン。そんな彼の元に剣咬の虎のギルドマークを入れた魔導士たちが駆け寄ってくる。
「お前ら・・・」
「みんな!!」
自分のことを心配してやってきた仲間たち。今までそんなことがなかった彼にとっては、それは驚いても仕方ないような光景だった。
「大丈夫か?」
「肩貸してやる。しっかり捕まれよ」
グラシアンの腕を自分達の首に回させ、ゆっくりと立たせる魔導士たち。それに対して呆気に取られていたグラシアンは、いつの間にか立つことが出来ていたことにこれまた驚愕している。
「なんで・・・ここに・・・」
仲間なんか意味がない。力こそがすべて。そうやってギルドを作り上げてきた彼にとっては、みんなの行動は理解しがたいものだった。
「なんでって・・・」
「んなの、仲間だからに決まってるだろ」
仲間・・・今までの剣咬の虎だったら絶対に出てこない単語。それを聞いたグラシアンはわずかに目を潤ませていた。
「ローグやオルガたちのところにも手分けしていってんだ」
「早く治療しねぇとな。特にお前はケガひでぇし」
歩くのがやっとのグラシアンに合わせてゆっくりと歩を進める仲間たち。グラシアンはそんな彼らの肩にかけている腕に力をいれる。
「ありがとうな、みんな」
その日キセキが見たグラシアンの表情は、彼の記憶の中で一番の輝きを放っていた。そしてこれからは、その笑顔が何度も見ることができるのだろうと感じたキセキは、彼らと同じように笑顔になっていた。
シリルside
「終わったな」
「とりあえず大会は」
「エルザ、足はどうだ?」
「これしき、何ともない」
ガジルさんとジュビアさん、グレイさんとエルザさんがそう言う。
「シリルくんとガジルくんも大丈夫?」
俺の顔を覗き込むように見つめてくるジュビアさん。あなたも人の心配できるような格好じゃないと思いますけど・・・
「ギヒッ。これくらい余裕にごばばばば・・・」
「おま・・・大丈夫なのか!?」
大丈夫だというところをアピールしたかったガジルさんは、カッコつけてポーズなんか取って見せたが、その部位があまりにも痛かったらしく、うずくまって奇声のようなものをあげていた。
「シリルくんは?」
「大丈夫だと信じたいです」
大丈夫だとはとてもとても言える状況じゃない。まだ左手の感覚がさっぱり戻ってこないし、はっきり言って実は相当ヤバイ状態なのかも知れないから。
「ガジルはこんななのに、よく立ってられるな」
「ラクサスさんに全体重かけてるもので」
「え?全然気付かなかったぞ?」
エルザさんの言葉にちょっとしてやったりの顔で答えてみたが、ラクサスさんは全然気付いてなかったらしい。まだ成長期来てないんだよ!!仕方ないんだよこれは!!
「・・・」
すると、ジュビアさんが俺とラクサスさんを交互に見つめて、何かをじっと考えている模様。どうしたんだ?
「シリル、こっちに来なさい。ラクサスさんじゃ危ないから」
「そりゃあどういう意味だ!?」
何のことかはさっぱりだが、とりあえず言われた通りジュビアさんの元へと移動する。もちろん立っていることもままならないくらいの状態なため、申し訳ない気もしたが彼女に全体重を掛けさせてもらっているが。
「あぁ・・・シリルくんってやっぱり・・・」
何やらうっとりした様子でグレイさんと俺を交互に見比べるジュビアさん。彼女が何をしているのか俺やエルザさんにはさっぱり理解できない。
「おい・・・ジュビアの奴、まさか・・・」
「確かにグレイとジュビアを足して2で割ったらシリルみたいなができるかも知れねぇが・・・」
コソコソと何かを話し合っているラクサスさんとガジルさん。なぜか俺やグレイさんの名前まで出てきているのがかなり気になったが、気にしたら負けだと考えてあえて触れて置かないでおこう。
「ところで、信号弾を見たものは?」
真剣な表情でエルザさんがそう言う。その言葉を聞いた時、思わず俺は目を逸らしてしまう。
「いや、聖十の化け物に伸された時とあの吹雪の時以外は、一応気にかけてたんだがなぁ」
「あの吹雪の時にも上がってなかったぜ。なぁ?シリル」
「え!?」
グレイさんから話を振られて思わず反応してしまったが、怒られそうな気がしたので聞いてなかった体にして顔を背ける。
「シリル・・・まさか、お前・・・」
「忘れてた・・・なんて言わないですよね?」
「ギクッ」
グレイさんとジュビアさんに図星を突かれてしまい、何も言えなくなってしまう。だってしょうがないじゃん・・・俺危うく死ぬところだったんだよ!?皆さんより遥かに危険な状態だったんですよ!?忘れるのも無理ないじゃないですか!!
「お前なぁ・・・」
「確かに強敵ではあったけどよぉ・・・」
グレイさんとラクサスさんが呆れたような声でそう言ってくる。く・・・そんなに攻めなくてもいいじゃないですか・・・
「しょ・・・しょうがないじゃないですか・・・?」うるうる
「「!!」」
少しだけ見上げるような感じで2人を見ていると、なぜかパッと視線を外されてしまう。何?そんなに忘れてたのがいけないことなのか?
「パパ!!むすm・・・シリルをいじめちゃダメですよ!!」
「誰がパパだよ!?」
ジュビアさんがいきなり俺を抱き締めてグレイさんにそう言う。なぜパパと呼ばれたのかわからなかったグレイさんは素早く突っ込みを入れる。
いや・・・待てよ?ジュビアさん今娘って言おうとしてなかったか!?どっちかと言うと息子ですからね!?
「どっちも間違ってんぞ、おい」
「心読まないでください」
俺が心の中で突っ込んでいると、ラクサスさんにそう言われる。あれ?そういえばレオンにも心読まれてたような・・・もしかして俺って顔に出やすいのかな?
「つーかよ、火竜が合図とか覚えてるはずねぇだろうが」
「いやいや、ウェンディとミラさんもいますからそれはないでしょ」
いつの間にやら復活していたガジルさんに対して俺がそう言う。ナツさんは覚えてなくとも、ウェンディやミラさんもいるし、リリーやシャルルもいるんだから誰か1人くらいは覚えてると思いますけどねぇ。
「信号弾?」
「スティングくん、一体・・・」
俺たちがルーシィさん救出に向かったウェンディたちからの合図を見ていないことを話していると、それを聞いていたスティングさんとレクターが訝しげな表情をしている。
「あのさ」
「ああ!?」
俺たちが何を話しているのか気になったスティングさんがこちらに声をかけてきたのだが、ガジルさんが彼にメンチを切るような感じで接近していく。
「辛気くせぇ顔すごはっ・・・」
「ちょっと!?ガジルくん!?」
スティングさんに殴りかかるのではないかという勢いで向かっていたガジルさんだったが、先程と同じように転倒してしまった。それを見たジュビアさんが彼女に掴まっている俺をグレイさんに預けると彼の元へと駆け寄っていく。
「それで・・・どうしたんですか?」
グレイさんに掴まりながら俺はそう言う。足がプルプルしてるのはきっと気のせいだと思いたい。
「いや・・・なんでナツさん、出場してなかったの?」
「「「「「「・・・」」」」」」
スティングさんの素朴な質問に対し、迂闊に答えることができない俺たちは押し黙ってしまう。
「何かあったんですか?ナツくんに」
心配そうに俺たちの表情を伺うレクター。俺とグレイさんは、ナツさんとウェンディが向かった華灯宮メルクリアスを見上げる。
(無事なのか?ナツ、ルーシィ)
(大丈夫だよね?ウェンディ、ミラさん)
いまだに信号弾が上がってないということは、まだ城の中にいるはず。だけど、俺たちが乗り込むと後々大変なことになってしまうため、気掛かりではあったが、一先ず応援してくれた仲間たちの待つドムス・フラウへと戻ることにした。
俺たちがドムス・フラウにたどり着くと、そこでは王国軍の兵隊さんたちが待ち構えていた。
「優勝、おめでとうございます!!」
「「「「「おめでとうございます!!」」」」」
「あ・・・あぁ・・・」
あまりの声にちょっと押されてしまった様子のエルザさん。ちなみに俺もそんな感じになっている。
「まもなく表彰式が行われますので、闘技場の方へ向かってください」
表彰式?そういえばこれって大会だったんだもんな。入場もしたし、閉会式もあるのが普通なのか。
「んなことより、とっとと治療させてくれねぇかな・・・」
「ですよね・・・」
身体中傷だらけのグレイさんがそう言い、俺も同意する。しかし、そんなことなど聞き入れてもらえず、俺たちは戦いを終えたそのままの状態で闘技場へと向かった。
『やって来ました!!最強ギルド妖精の尻尾!!皆さん!!拍手でお出迎えください!!』
俺たちが闘技場に入るやすぐさま大歓声と共に大勢の人々の拍手が鳴り響く。1日目の入場の時は、ブーイングだったはずなのに、今ではそんなことなど全く思い出すことができないくらいの大声援だ。
「よくやったぞ!!ガキども!!」
「シリルお姉ちゃん!!」
応援席からマスターと、彼に肩車されたアスカちゃんの声が聞こえる。だけど、なんで俺のことをお姉ちゃんって呼ぶんだ・・・ほら、グレイさんとかエルザさんとか失笑してるよ。
『では、大魔闘演武優勝の証としまして、『国王杯』を解説者のヤジマさんからお渡ししようと思います!!代表者は1名、前へ』
実況席の真下の方向に置いてある表彰台。そこではハッピーやセシリーよりも明らかに大きな優勝カップを抱えた、ヤジマさんがこちらに視線を向けていた。
俺たちはそれをもらいにいく代表となるべく人物へと視線を向ける。皆さん考えることは同じだったようで、向けられたその人を除いた全員が、彼女の方を向いていた。
「わ・・・私か!?」
もらいにいくのはこの人、エルザさんしかいないだろう。なんたってこの纏まりが持てるのかわからないチームの中心にいたのだから。
まさか自分が選ばれるとは思ってなかった彼女は、顔を赤らめながらヤジマさんの元へと向かう。そして、彼女の手に国王杯が渡されると、盛大な拍手が巻き起こった。
「こうしてると、本当に優勝したって気になってくるな」
「そうですね。なんか、本当にやったんだって気がしてきます」
グレイさんと彼にしがみついている俺が国王杯を掲げているエルザさんの方を見ながら染々と優勝の余韻に浸っていると、予想外の表彰が始まる。
『続いて、今大会で最も活躍した選手に、MVP賞をお渡しします!!』
「「「「「MVP賞!?」」」」」
いきなり出てきた単語に妖精の尻尾の大会参加者全員の声が見事にハモった。しかも驚いているのは俺たちだけ。つまり知らなかったのは俺たちだけということで・・・そう考えるとなんか恥ずかしくなってきた・・・
「なんだグレイ。知らなかったのか」
「毎年あるんだよ。大会の運営と、観客たちの投票で決めてるんだよ」
隣にいたリオンさんとシェリアがそう教えてくれる。そうなんだ。でも、これはちょっと・・・いや、かなり期待できるぞ!!
「マジか。心の準備が」
「「お前は絶対ねぇよ」」
自分が呼ばれるものだと勘違いしているガジルさん。そんな彼にラクサスさんとグレイさんが冷静に一言。ガジルさんは絶対ないですよ。だって乗り物酔いしてたじゃないですか。
『今年のMVPは・・・』
突然電気が落ちるドムス・フラウ。すると、人1人を照らすほどの大きさのライトが縦横無尽に闘技場の中を駆け巡る。
『妖精の尻尾・・・』
これは本当に自信ある。だって伏魔殿もトリプルバトルも頑張ったんだぜ?最終日はパッとしなかったし初日も負けてるけど、それでもお釣りが来るぐらい活躍しただろう。
妙に自信が湧いてきている俺は、胸を張ってライトが自分を照らし出すのを待ち構える。それなのに、ライトは俺ではなく、そのすぐ近くの人物を照らしていた。
『エルザ・スカーレット!!』
そのコールと共に、俺とガジルさんが思わずズッコける。
「「俺じゃないんかい!!」」
息ピッタリで同時に声を張り上げた2人の竜は、互いに顔を見合わせた後、ガッカリと肩を落とした。
『伏魔殿の完全制圧に最終日のカグラ、ミネルバの連戦。素晴らしい活躍を見せた妖精女王に、記念の盾が授与されます!!』
「す・・・すまんな、シリル」
国王杯をラクサスさんに預けた彼女は俺にそう言うと、再びヤジマさんの元へと向かっていく。むぅ・・・納得いかない。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
エルザさんに国王杯の半分ほどの大きさの盾が渡される。それを見て、彼女に祝福の拍手を送ってはみるが・・・やっぱり納得いかない。
盾を受け取ったエルザさんがミリアーナさんや一夜さんに声をかけられながら戻ってくる。こうして閉会式が終わるのかと思ったら、なんとまだ続きがあった。
『さぁ!!皆さんお待ちかね!!ベストバウト賞です!!』
そのアナウンスが入ると、会場が今日一番の盛り上がりを見せる。まるで今まで表彰が余興だったかのような、それほどの盛り上がりようである。
『今大会を最も盛り上げる戦いをしてくれたのは、彼らしかいないでしょう』
その声と同時に、俺とジュラさん・・・いや、正確にはジュラさんに背負われたいまだに眠っている金髪の少年がライトアップされる。
『妖精の尻尾シリル・アデナウアー!!&蛇姫の鱗レオン・バスティア!!』
わぁぁ!!と大会中でも数えられるほどしかなかった大歓声が俺たちに向けられる。
「レオン。起きて」
「んん・・・」
シェリアに揺すられて目を開いたレオン。彼はまだ光に目が慣れていないようで、ショボショボした目を擦りながら周囲を見回す。
「あれ?ここどこ?」
いつの間に自分が街の中から移動したのわかっておらず、?を大量に浮かべている少年。
「ベストバウト賞だって」
「何それ?食えんの?」
シェリアに事情を簡潔に伝えられたレオンは寝惚けているようでそんなボケをかます。その少年を見たリオンさんが、彼の頭を思いっきり叩く。
「いてぇ!!何すんだよ!!リオンくん!!」
「お前がベストバウト賞を取ったんだ!!わかったら早く行けバカ」
「バカって言った!!バカって言った方がバカなんです!!」
「じゃあお前3回言ったから大バカだな」
おお・・・リオンさんの返しがうまい・・・って、そんなことに感心している場面じゃなかったな。
「レオン。早く行こうよ」
「ん?うん」
いまだに状況を把握できていないレオン。そんな彼を手招きした俺は、レオンが隣に来るのを待ってから一緒に表彰台へと上がる。
『ベストバウトを繰り広げた2人には、記念としてこちらのトロフィーを送らせていただきます』
そう言ってヤジマさんに運営から渡されたのは、天辺にマトー君が乗っかっているトロフィー。もっと魔導士が戦っているところのワンシーンとかの方が良くなかった?
「おめでとう」
「ありがとうございます」
なんてことを思いながらもトロフィーを受け取る。左手が動かないせいで片手でもらってしまったけど、それは気にしないでほしい。
次にレオンも同じトロフィーが贈られたのだが、そこでようやく彼は何のことかわかったらしく、俺の方に笑みを見せる。
『ベストバウト賞はなんと大魔闘演武始まって以来初となる満場一致での決定!!皆様!!この小さき天才たちに盛大な拍手を!!』
満場一致・・・ということは、これを見ていた人全員が俺たちの戦いが一番凄かったと感じてくれたんだ。それは純粋に嬉しい。自分達の戦いがそこまでの評価をしてもらえるなんて、嬉しくない訳がない。
トロフィーを右手で持ったままそれを掲げるように手を振っていると、隣にいたレオンが俺に右手を差し出す。
「レオン?」
「これで本当の友達だ。シェリアとウェンディと同じようにな」
死闘を演じたからこそわかり合えた相手の想い。だからこそ芽生えた絆。俺はトロフィーを置いて彼の手を握り返す。
ギルドの誇りをかけた大会で生まれた1つの友情。 これは俺とレオンにとって、生涯の一番の宝物になることは、間違いないだろう。
後書き
いかがだったでしょうか?
私なりに勝手に表彰式をしちゃいました。38巻のおまけにそんな感じのありましたしね。
普通ならMVPはシリルなんでしょうが、レオンとの友情をやりたかったから原作通りエルザにあげちゃいました。
さてさて・・・ここからどうやって広場に全員が集まるところに持っていけば良いのやら・・・
足りない脳ミソ捻り出してじっくり考えていきたいと思います。
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