ガンダムビルドファイターズトライ ~高みを目指す流星群~
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02 「プラモデル部の勧誘」
顧問と思わしき教師が来てまず行ったことは待たせたことに対する謝罪だった。俺やコウガミは来たばかりであり、ヒョウドウもわざわざ鍵を持ってきてもらったのだから責めるような真似はしない。
……教師に対しては問題がないが、後ろに居る男子は何のためにここに来たんだろうな。ガンプラバトル部は休部だったと聞いたから部活の先輩ということはまずないだろう。
個人的に真っ先に浮かんでくる考えとしてはプラモデル部の人間だ。何故ならここ流星学園にはガンプラバトル部以外にもプラモデル部がある。
俺の記憶が正しければ……ここにプラモ部は主にガンプラをコンテストに出していたはずだ。以前行われた学校の説明会でそう言っていた気がするし。それに時期的にどの部も新入部員がほしいだろう。休部しているガンプラバトル部に入ろうとする人間が居れば、プラモ部がスカウトしに来るのはおかしくないはずだ。
「先生、すみませんが部室の鍵を開ける前に少しだけ話をさせていただいてもよろしいですか?」
「ん、あぁそれは構わんよ」
「では失礼して……」
男子生徒……ネクタイピンの色からして2年生か。パッと見た感じでは優男の印象を受けるが、目の奥にはどことなく濁ったものを感じる。
おそらくコウガミやヒョウドウにだけ意識を向けているからだろうな。俺には興味がなさそうだし、新入部員がほしいというよりは自分の気に入った女子がほしいんだろう。
手段がどうであれ、先輩の話を聞いてコウガミやヒョウドウが自分の意志でプラモ部に入るという決断をしたならば、俺が言うことはない。まだどこの部にも入ってはいないのだから責める理由はないし、今日会ったばかりの相手に深く介入する権利はないだろう。
「はじめまして、僕はミズシマ・ヒロト。プラモデル部に所属していて部長も務めている」
「へぇー、2年生なのに凄いですね」
「そうでもないよ、3年生の数が少ないというのも理由ではあるが……うちの先輩達は内気な性格の人ばかりでね。だから僕に部長という役割が回って来ただけさ」
謙遜した物言いをしているが、ミズシマという先輩の声色からは自分が最も優秀だと感じ取れる。
まあ……実力のある者が上に立つという考えは否定できるものではないし、コミュニケーションが取れない人間が長を務めるより部は安定するだろう。
「ただ……部長という役割を任された以上はきちんと務めを果たさなければならなくてね。来年以降のことを考えると少しでも部員を増やしたいと思うわけだ」
「つまり先輩は私達をプラモデル部に勧誘したいわけですね」
「ああ、そういうことになる。話が早くて助かるよ」
どの部活動も新入部員はほしいだろうし、自分の所属する部活が自分達が引退すれば休部してしまうというのは気持ち的に良くないものだ。故に先輩の行動を咎める理由はないに等しい。
しかし、どうしてこの人は話す度にキザな動きをするのだろうか。このように感じるのは俺だけで異性であるコウガミ達は違うのかもしれない……顔は良いから女子からモテるだろうし。
けど、これでコウガミ達が先輩目的でプラモデル部に行くのならむしろ都合が良い。
ここ流星学園は世の中からすればガンプラバトル弱小校のひとつだ。だが……だからといって俺は1回でも勝てればいいなんて目標を立てるつもりはない。目指すは全国制覇それだけだ。
全国制覇。俺はここ数年の日本事情に詳しいわけではないが、それを達するのが容易ではないことは分かる。実現させるには少なくとも人並み以上のガンプラ愛が必要になるだろう。
故に色恋目的で違う部に入ろうと考える人間が居てはかえって邪魔だ。確実に部に不協和音を奏でるだろう。さて彼女達はどう答える……。
「先輩……お誘いしていただいたのに申し訳ないですが、私はコンテストよりもガンプラバトルを主としています。ですのでそちらの部には入りません」
「あたしもガンプラバトル派なので遠慮しときます」
これといった迷いもなく放たれた言葉にミズシマ先輩はキザなポーズのまま停止する。これまで簡単に勧誘出来ていたのか、ふたりの返答は彼にとって予想外だったようだ。
「ははは……君達本当にいいのかい? ガンプラバトル部は休部だった。つまり先輩がひとりもいないということだ。顧問の先生も聞いた話では今年赴任された先生が今後は担当するらしい。それにおそらく2、3年生で入る人間はいないだろう。1年生からレギュラーになれるという利点はあるが、技術の向上は難しいと思うよ。その点こちらの部に入れば……」
「私はこれまでに何体もガンプラを作ってきていますので」
「というか、多分ここにいるメンツに素人はいないと思いますよ。だから心配しなくても大丈夫です」
さらりと誘いを断る言葉が出るあたり、ヒョウドウとコウガミの意志は揺るがないらしい。これは勘にはなるが、このふたりはなかなかのガンプラ馬鹿だろう。ここで言う馬鹿はもちろん良い意味での馬鹿だ。何故なら俺もガンプラ馬鹿なのだから。
「ちゃんと考えて言っているかい? この学校のガンプラ部はこれまでに大した結果を残していない。いや基本的に大会は1回戦で敗退している。対してうちの部は地区大会で優勝した実績もあるし、僕を初めとして技術を教えられる人間も居る。うちの部に入れば高校3年間を棒に振らずに済むんだよ」
その言葉を聞き終えるのと同時に俺は無意識の内に鼻で笑ってしまった。さすがに興味のない相手でもそのように行為は不快に感じたのか、ミズシマ先輩の意識がこちらに向く。
「君、何がおかしいんだい?」
「いえ別に……ただそちらの部に入ったところで俺には何の意味もなさないと思っただけです」
俺の言葉にミズシマ先輩の視線が鋭いものに変わる。大抵の1年生は上級生から睨まれれば臆してしまうだろうが、俺には恐怖といった感情は芽生えていない。さすがに先輩も教師が近くにいる状態で暴力行為までは行わないだろうし、何より俺は聞かれたから素直に答えただけだ。
「なかなか生意気な発言をするね。年上には敬意を持って接するべきだと習わなかったのかい」
「習いはしましたけど、あいにく先輩に尊敬できる部分を感じませんので」
こちらの物言いに先輩の顔はより険しいものへと変わる。
近くに居るコウガミやヒョウドウがそれくらいにしておけと言いたげな視線を送ってきているが、別に俺はこの先輩に好かれたいとも思っていない。はっきり言っておいた方が後悔しないだろう。
「貴様、頭に乗るなよ。僕は小さい頃から色んな大会で結果を残しているんだ。君は残しているのか? いないだろう。大したガンプラも作れないくせに生意気な発言するな!」
確かに俺は日本の大会で結果を残してはいない。今のように言われても仕方がない部分はある。しかし、これ以上こいつへの気持ちを言葉にしないのは体に悪そうだ。
「……小さいな」
「何?」
「小さいって言ったんだよ。この程度のことも許容できないあんたの心の広さも、地区大会レベルの優勝すればいいみたいにも取れる目標もな」
趣味でならばまだしも、部活動は今後の学校生活に大きく影響するものだ。
故に人を誘うのならば自分が本気で物事に取り組んでなければ筋が通らないはず。また本気で取り組んでいるならば必然的に高みを目指すだろう。
地区大会レベルで満足するような人間が偉そうにしても何の畏怖も抱きはしない。むしろ軽蔑といった感情の方が芽生えてくる。
「それにコウガミ達は、はっきりとそちらに入部はしないという意思を示している。そう何度も食い下がられると迷惑だと思うんだがな。男は潔く諦めたらどうなんだ?」
「貴様……それだけのことを言葉にするということは相応の覚悟があってのことなんだろうな?」
「もちろんだ」
「なら僕と勝負しろ!」
普通に考えればここで勝負を受ける理由はない。こちらは別に勧誘を断っただけであり、俺は自分が間違ったことを言ったつもりもないのだから。
だが考え方を変えればある意味チャンスでもある。
下手に誘いをかわしてしまうと今後も何かしらちょっかいを掛けられる可能性がある。ここで勝負を受けて勝利を収めることが出来れば、その可能性は低くなるだろう。性格が悪いと逆恨みされそうでもあるが……まあこういうことはヨーロッパに行ったばかりの頃に経験している。そのときもどうにかなったのだから今回もどうにかなるだろう。
「その誘い乗ってやるよ」
「ちょっとナグモ、別に受ける必要もないでしょ。流れからして負けたら確実に何かしらあるわよ!」
「ここで受け流しても今後また絡まれるかもしれない。だったらここでケリを付けてた方が後々楽だ」
この先輩ことだ。自分が負けるなんて思ってもいないだろう。だから勝負は人の目のある場所で行うはずだ。そこで白黒付けておけば、彼の性格的に迂闊な行動は起こしにくい気がする。
ガンプラバトルでなら1対多数でも勝てる可能性はあるが、ケンカでは勝てる見込みはゼロに等しい。人とちゃんと殴り合った経験なんてほとんどないのだから。
「勝負の方法は?」
「無論、ガンプラバトルだ」
「それでいいのか?」
「ふん、ガンプラ製作では時間も掛かってしまう。それに僕が勝つのが目に見えているからな。少しでもフェアにして勝負しなければ彼女達から批判も受けそうだしね」
コウガミはともかくヒョウドウは別に何も言いそうにないのだが。大体俺達は今日顔を合わせたばかり。それほど相手の行動に介入するほどの仲ではない。
「改めて聞くが君はこの勝負を受けるかい?」
「ああ」
「結構。もしも君が勝ったならば、僕は今後そちらがガンプラバトル部をやめたりしない限り勧誘はしないと誓おう。だがこちらが勝った場合、君はうちに入ってもらうよ」
プラモデル部への入部? ……なるほど、部員を増やして部費が上がるようにしつつ下僕的な存在にしようって根端か。
これに加えて俺達以外にガンプラバトル部に入部する人間はいない可能性が高い。俺がプラモデル部に入った場合、コウガミ達は大会に出るならば勧誘が必要になる。それが上手くいかなかったとすれば、プラモデル部に入れやすくなるとでも思ってるのかもな。
「分かった」
「では決まりだ。僕は部室に行ってガンプラを取って来る。君はガンプラバトル部の部室で待っておけ。別に逃げても構わないが、その場合は僕の勝ちとさせてもらうよ」
「逃げるつもりなんかない。だからさっさとガンプラを取ってきたらいい」
「ふん……本当に生意気な後輩だ」
徹底的に叩きのめしてやるといったニュアンスの言葉をブツブツと吐きながら先輩は去って行った。
ヒョウドウは別に興味がないのか、はたまた感情が表に出にくいのか顔色ひとつ変えていない。対するコウガミは呆れたような顔を浮かべている。
ちなみに傍に居た先生は、流れに付いていけてなかったのか、これも青春だと思っているのか口を挟みそうにはない。とはいえ、部室の鍵だけは開けてもらわなければ。
「さて……準備しておくか」
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