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真田十勇士

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巻ノ二十八 屋敷その八

「どうなるかじゃな」
「やはり前右府殿、跡継ぎの秋田介殿が本能寺で倒れられ」
「今の主は吉法師殿じゃが」
「吉法師殿はご幼少」
「僅か三歳じゃ」
「それではとてもです」
「何か出来る筈もない」
 家康も言い切った。
「その為柴田殿は跡継ぎに三七殿を推されたがな」
「前右府殿のご三男の」
「あの方は秋田介殿程ではないにしてもそれなりじゃ」
「織田家の主になれますな」
「柴田殿達の助けを借りればな」
 それが可能だというのだ。
「出来るが」
「しかしですな」
「それを茶筅殿が好まずな」
 信長の次男の彼がだ、言うまでもなく織田家の跡継ぎの座を争ってそのうえで今は敵同士と言っていい間柄なのだ。
「それであの方は吉法師殿を推されたが」
「秋田介殿のご嫡男の」
「あれは失態じゃった」
 苦々しい顔でだ、家康は言った。袖の中で腕を組み。
「どうせなら茶筅殿ご自身が跡継ぎに名乗り出られるべきじゃったが」
「しかし」
「うむ、それをしなかった」
「羽柴殿に篭絡され」
「あの方は気付いておられぬ」 
 信雄はというのだ。
「羽柴殿の狙いにな」
「ご自身が天下を取ろうとする」
「全くな」
「あの方は」
 今度は大久保が言った。
「前右府殿のご子息の中で」
「うむ、どうにもな」
「出来が、ですが」
「それでじゃ、羽柴殿の狙いに気付かずな」
「まんまと乗せられていますか」
「そういうことじゃ」
 家康は秀吉の考えを読み切っていた、そのうえでの言葉だ。
「あの方はな」
「だから吉法師殿を立たされたのですな」
「そして吉法師殿が織田家の主となられた」
「茶筅殿が後見役となり」
「あれで決まった」
「織田家が」
「もう織田家の天下はない」
 家康は言い切った。
「このままいけば羽柴家の天下じゃ」
「そうなりますか」
「茶筅殿は自ら天下への道を絶たれた」
「ではあの方は」
「精々一大名か」
 天下人にはだ、とてもなれずというのだ。
「あの方はな、しかしな」
「はい、羽柴家が天下を握ると」
 難しい顔で言って来たのは大久保彦左衛門だった。
「我等はどうなるか」
「滅びるつもりはない」
 家康は彦左衛門にも答えた。
「何があろうともな」
「ですな、織田家が衰えても」
「それでもじゃ」
「では主な相手は」
「甲斐と信濃を手に入れるがそれと共にな」
「羽柴家ですか」
「そうなる、だから十二神将は全てじゃ」 
 それこそというのだ。
「上方に送る、四天王も羽柴家の天下が確かになればそちらにつけ」
「羽柴家の方にですな」
「三河の方に」
「我等は皆ですか」
「そこにですか」
「うむ、甲斐と信濃は他の者達が行くのじゃ」
 四天王以外の者がというのだ。 
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