普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
126 力不足
SIDE 升田 真人
今日は2025年の1月19日──“答えを出すもの(アンサートーカー)”やら“模範記憶(マニュアルメモリ)”によれば、乃愛が目を醒ます日である。
「この女性がユーノ──乃愛さん…。……真人さんにとって〝一番の女性〟」
「うん、私の自慢のお姉ちゃんなんだ。……それにしてもエギルさんから送られてきた画像にお姉ちゃんそっくりの女性映っていたのは驚いたよ。……あとその──〝一番の女性〟って表現はちょっと…ね?」
稜ちゃんはナーヴギアから溢れれている乃愛の髪を漉きながら呟き、その呟きに明日奈〝納得していません!〟と云わんばかりに諫言する。
稜ちゃんと──そして明日奈と【アルヴヘイム・オンライン】のソフトを買いに行った翌日、俺は稜ちゃんと明日奈──〝地味に仲が悪くないコンビ〟と一緒に乃愛の病室に居た。
実妹である明日奈が乃愛の病室に居るのはともかくとして、稜ちゃんが乃愛の病室に居るのは〝一番の女性に会いたかった〟かららしい。
……ちなみに明日奈は俺と稜ちゃんの関係を知っていて、昨日の今日で明日奈からの視線の寒暖が逆ベクトルになってしまったのは仕方のない事だった。しかも稜ちゃん口を滑らさせたのはアンドリューの店──【Dicey(ダイシー) Cafe(カフェ)】だったので、アンドリューからも呆れた目で見られた。
―さいってー。お姉ちゃんにどうやって説明するの? お姉ちゃん、ああ見えてとっても怖いから、今からお姉ちゃんが納得出来る様な言い訳を考えておいた方が良いよ。……あ、私はお姉ちゃんに取り直さないから、そのつもりで。……あと言っておきますけど──く、れ、ぐ、れ、もっ、私とキリト君を巻き込まないでね―
―知り合いが痴情の縺れののちに刃傷沙汰なんか起こしました──なんてニュースがテレビから流れてこない事を祈っておくさ。……まぁ、いろいろ立ち回るのが巧い真人の事だ、大して気にしてないが──俺としては〝物見遊山〟を決め込ませてもらおうか―
上から順に、ある意味予想出来ていた明日奈からは辛辣な言葉──それプラス、絶対零度とすらも思える視線。アンドリューからは、俺への信頼──と見せかけての投げ遣りな〝ありがた~い〟をお言葉を貰った。……ただそれは、ある意味身から出ている錆なので、甘んじて受け入れる。
「それにしても本当に〝あの女性〟そっくりだねぇ…」
(近付いて来る気配が〝2つ〟…。1つは〝あの方〟だとしてもう一人は…?)
明日奈からの凍てつく視線を耐えつつ、そんな稜ちゃんの呟きに投げ遣りながらも応えようと瞬間、俺の〝仙術〟の探知範囲内に入り、近付いてくる〝2つ〟の気配を感じた。
……明らかこの病室へと指向性を持って向かって来ている。
――「おや、先客が」
「っ! お父さん! ……と、須郷さん」
いきなり入ってきた壮年の男性に、明日奈はもう一人の──〝〝須郷〟と呼んだ男をできるだけ視界に入れないようにしながら〟驚く。
はじめに入ってきたのは結城 彰三。明日奈と乃愛の父親であり──〝レクト〟のCEOである。……それなので、彰三氏が実子である乃愛の病室に来るのはおかしい事ではないし──明日奈の〝お父さん発言〟も、おかしいところではない。
……ちなみに、俺が明日奈の〝お父さん発言〟に驚かなかった理由は、彰三氏とは何回か面識があり──彼の〝気〟を覚えていたからだ。
閑話休題。
「なんだ、明日奈と真人君だったか。……そちらの娘も、乃愛の為にありがとう。乃愛も喜ぶだろうから、是非ともゆっくりとしていってくれ」
「い、いえっ! 乃愛さんのお見舞いは私が望んだことですから!」
「ご無沙汰しております、結城さん。……乃愛さんについては、俺が来たいから来ているだけのことですし」
「……そう言ってもらえると助かるよ──むっ」
彰三氏に、〝そんな申し訳なさそうな顔をしないで下さい〟と言外に告げ、彰三氏の顔色が幾分か良くなった時、彰三氏の胸元からバイブレーションの特有の振動音が聞こえた。
「……っと済まない。電話が来たから少々席を外すよ。須郷君も急な事になって悪かったね〝例の話〟については後日また改めてという事にしよう」
「判りました、社長」
彰三氏は〝須郷〟と呼んだ、一緒に入ってきたもう一人の──〝眼鏡をかけた好青年に見える男〟に、そう断りを入れて乃愛の病室から退室していった。
……彰三氏は多数の子会社、部門をもつ巨大な会社である〝レクト〟と云う大手電機機器メーカーのCEO──最高経営責任者を務めているので、その繁忙さたるや、それは嘸やのものだろう。
「「「「………」」」
……しかしそうなると、病室には俺と明日奈、稜ちゃん──そしてら〝須郷〟と呼ばれた青年が会する羽目になるわけで、四人して会話の糸口を探る事となった。…もちろん乃愛は頭数に入れていない。理由は押して知るべし。
「取り敢えず──久しぶりだね、明日奈ちゃん。……良ければ〝そっちの二人〟を紹介してもらえないかい?」
「……お久しぶりです、須郷さん。……男の子の方は升田 真人君〝【SAO】生還者〟。女の子の方は蒼月 稜ちゃん。……〝私とお姉ちゃんの共通の友達〟よ」
(……ん? 今…)
会話の糸口を切り開いたのは〝対外的〟な最年長である須郷氏だった。……しかし俺にはそんな些事を気にできない程の違和感があった。
……そして、そんな違和感も直ぐに氷解する。少なくとも俺の認識では、稜ちゃんと乃愛の間には面識なんて無かったはずである。……稜ちゃんが乃愛を知っているのなら、稜ちゃんへ〝乃愛〟についての説明をした時、もっと顕著な反応があったはずだから…。
「え──」
「そうだ、真人君と稜ちゃんにも須郷さんについて紹介するね」
明日奈が乃愛と稜ちゃんの関係について、〝私とお姉ちゃんの共通の友達〟と嘯いた。すると、その発言に驚いた稜ちゃんが明日奈に問い質そうとするも、明日奈は稜ちゃんの言葉を出かかりから封殺する。
……その事から察するに、どうにも明日奈の嘘には意味があるらしい。
「この人は須郷 信之さん。〝レクト・プログレス〟って〝レクト〟の子会社の──云っちゃえば偉い人かな」
「はじめまして──で、良かったかな? 明日奈ちゃんから紹介があった通り〝レクト〟の子会社である〝レクト・プログレス〟のフルダイブ技術研究部門主任を勤めているよ」
「へぇ…? ……っ?」
そう相槌を打ちながら、納得して──形容し難く、堪え難い違和感に見舞われる。
解散した〝アーガス〟の【SAO】サーバーを維持・管理しているのは〝レクト〟だと云うことは、ここ2年間の新聞の内容を──大まかにだが浚っている俺は知っている。
……そんな折りに〝〝レクト〟の子会社のフルダイブ技術研究部門主任〟を名乗る人物が──それも〝結城家と親しいであろう人物〟が現れたのだ。……俺がそれらを反射的に関連付けてしまったとしても仕方のない事だろう。
「どうも、はじめまして。……先ほど明日奈さんからもご紹介に与りました升田 真人と申します」
「ほう、明日奈ちゃんから紹介された時も思ったが、君があの≪戦聖≫か…」
須郷氏はこっ恥ずかしい名前を口にする。
〝そういう界隈〟では、≪魔王・ヒースクリフ≫を打倒して【SAO】をクリアした和人が≪英雄≫として──その≪英雄≫を≪英雄≫足らしめたとされている俺が≪戦聖≫と持て囃されている。
……≪戦聖≫が〝どんな風に〟読まれているかとかは気にしない事にした。
閑話休題。
(……それにしても〝この感じ〟──どこかで会ったか…?)
須郷 信之。……一見感じの良さそうで──かつ、知的な印象を懐かされる青年なのだが、そのぎらぎら、と〝野望〟を含んでいそうな瞳を見ていると、誰かを思い出しそうになる。
(取り繕うのが巧い人間──そして野心家…。……っ!)
次々と俺の目の前で──俺が注視している事に気付いたのか、そのことで首を傾げていると思われる男に合いそうな修飾語を心中で並べていると、〝須郷 信之〟と云う人間が誰に似ているのかを思い出した。
(そうか、ワルドに似ているのか…。だとしたら、どうにもキナ臭くなってきたな…。……よし…!)
ワルド。フルネームは既に忘れているが──ルイズを裏切った男と〝須郷〟を重ねた俺は、この男を相手に──〝この男が〝そんな事〟をしたい理由〟を知るためにも一芝居打つことにした。
………。
……。
…。
「男二人。……なんか手持ち無沙汰になりましたね」
「そうだね。……で、升田君は僕に〝何か〟を訊きたかったんだろう? ……二人をあんな風に──〝わざとらしく〟退室させたって事は」
〝お茶怖いわー。何か急にお茶が怖くなったわー〟と、稜ちゃんと明日奈を胡乱な表情をさせつつも乃愛の病室から退室させたあとに、“ロック”“サイレント”“マヌーサ”を併用して、疑似的ではあるが〝人避け〟の結界を張った。
……そして、さすがに猿芝居が過ぎたのか、須郷氏にバレた次第である。
「まずは〝須郷さんと結城家との〟関係ですかね? 妙に彰三さんとの仲が良いように思えて、少し気になりましたから」
「……社長とは懇意にさせてもらっているよ。……それこそ、長女を任せて〝貰える〟くらいにはね。……〝君と違ってね〟」
(これがこいつの本性か…)
「……ああそうだ、今月最後の〝友引〟の日に、この病室で乃愛と結婚式を挙げる事になっているよ。……ははは! 君も呼んでやろうじゃないか。【SAO】の中じゃ〝夫婦〟だったかもしれないが是非とも参加してくれ」
まず手始めにそうなげ掛けてみれば、いとも簡単に須郷は〝馬脚〟を露にした。
「〝触るな〟。……結婚式ね…。〝有印私文書偽造〟と〝同行使罪〟になる。乃愛が起きて訴えられたらおしまいだぞ」
「……へぇ?」
乃愛の髪を触ろうとしたので、“言葉の重み”で──彼の〝駆動系〟干渉して、須郷に気になった事を聞いてみる。すると須郷は然も〝感心感心〟と云わんばかりに頷きながら──続けてこんな風に宣った。
……ちなみに俺が法律に関して知識があるのは、【ヒラガ公国】建国の際に日本の法律を参照にするためにも徹底的に調べたからであり──そして、〝【ソードアート・オンライン】なこの世界〟にも〝有印私文書偽造・同行使罪〟があるのも知っていた。……もちろん、法律について調べていた事が、こんなところで利点をもたらすとは思わなかったが…。
閑話休題。
「……それは〝乃愛がその事を覚えていたら〟の話だろう? ……ふふふ、君はあまり知らないだろうが〝フルダイブ技術〟と云うのは日進月歩なのだよ。……そういう意味では茅場 晶彦は馬鹿な事をした。今でこそ日本では忌まれている〝フルダイブ技術〟だが──」
………。
……。
…。
須郷の自慢話は嫌味ったらしい上に長ったらしいので、以下の様に纏めてみた。
――――――――――――――
〝茅場先輩に負けたくないお〟
↓
〝人間の脳味噌の研究がしたいけど日本じゃそんな事出来ない上に、そもそも被験者ががが…〟
↓
〝おっと…? こんなところに好き勝手に脳味噌を弄くれる被験者が300パターンも…〟
↓
〝ヒャッハー! 拉致監禁じゃああぁぁ!(ルーターに細工して拉致監禁余裕ですた)〟
↓
〝もう研究データも十分。後はアメリカ辺りにこのデータを売るだけで人生バラ色だー〟
――――――――――――――
随時、須郷を持ち上げる様なリアクションをしていたら、割りと多くの事を語った。ここまで喋ってくれるとは思っていなかった。……そこら辺──〝自分が勝っている〟と勝手に油断している辺りはワルド以下の小物だと感じたのは内緒である。
(〝目には目を〟〝歯には歯を〟──ってな)
俺は〝これからの人生〟高らかに夢想している須郷を見ながら〝とある決心〟する。
ポケットに手を入れ──た様に見せ掛け、〝倉庫〟から“アンドバリの指輪”を取り出し、それを装着して──須郷に触れた。
「全未帰還プレイヤーの精神状態を〝【ソードアート・オンライン】がクリアされた当時〟に戻した上で解放して自首しろ。……直ちにだ」
そう須郷に命令した時、どこかから〝フェアリィ・ダンス編が…〟──なんて呟きが聞こえた気がしたが、気のせいと云う事にしておいた。
SIDE END
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