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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第1章:平穏にさよなら
  閑話2「幸せになる資格」

 
前書き
司の過去編です。ちょっとした伏線とその回収もあります。

※この話は本編の二話分近くの長さがあります。予めご了承ください。
 

 


       =司side=





   ―――幸せになる資格って、なんだろう....。



  私は常々そう思う。
  私は幸せになっていいのか、どういう人は幸せになる資格がなかったりするのか。
  いつもいつも、どこかでそんな事を考えてしまう。

  こんな考えを持つようになったのは、いつからだったかな...?



  ....そうだ。まだ“私”が“僕”だった時だ....。





       ~~~~~☆~~~~~





  前世での私...いや、僕は、“祈巫聖司(きふせいじ)”というごく普通の男子高校生だった。
  普通に優しい家庭で、お母さんもお父さんも優しかった。
  学校でも普通に馴染んでいて、友人もちゃんといた。



   ―――高校二年の冬に、病気で倒れるまでは。



  その病気は突発性なうえ、相当ひどかったらしく、いつ死んでもおかしくなかったらしい。病院に緊急搬送され、的確な処置で何とか死は免れた...そう言う事らしい。

  目が覚めた後も、命の危険は残っていた。
  おまけに、治そうと手術をするだけでも相当の費用がかかるらしかった。

「安心しろ聖司。お金くらい、なんとかする。」

  お父さんはそう言って安心させようとしてたけど、どう考えても負担がかかると分かっていた。親に相当な負担を掛けていると、僕の心は暗くなっていった。

「大丈夫か?聖司。早く元気になれよ。」

「あ、ありがとう、優輝君...。」

  まだまだ命の危険があり、落ち込んでいた僕を励ましに来てくれたのは、親友である()()()()君だった。

「早く元気になるのよ...。」

「俺たちも頑張るからな。」

「ありがとう、お父さん、お母さん...。」

  もちろん、お父さんとお母さんも何度も見舞いに来ていた。
  そんな、皆の支えもあって、治る見込みがないと言われても僕は精一杯生きる事ができた。

  そうしてきたからか、奇跡的に僕の病気は全治に着実に向かっていった。





   ―――....そんな、ある日...。



「(....話し声?)」

  眠っていた僕は、病室の扉の方から聞こえる声に目を覚ました。

「どういうことよ...!治る見込みがなかったんじゃないの...!?」

「そうだ!このために高い保険に入れたってのに!」

「ぇ....?」

  耳を疑った。両親が僕にとって信じられないような話をしていたからだ。

「なんだよあいつ、治る見込みがないとか言われた癖に、治りやがって...!」

「多額の借金をしたのに、どうやって生活していけばいいのよ...!」

「(..嘘だ...。...夢....そう、これはなんかの夢だ...!)」

  まるで、僕にこのまま死んでほしかったように聞こえる言葉に、僕は信じられず、再び眠りに就こうと耳を塞いで寝た。







  さらに月日が流れ、僕は退院する事になる。
  喜ばしい事だろうけど、高校は中退。なかなかに辛い状況だ。
  ....それに、あの時の事もあって、不安も残っていた。

「(でも、久しぶりの家だ...!)」

  それでも、ようやく家に帰れるという事実は僕を喜ばせた。
  ....後ろにいる両親の冷たい眼差しに気付かない程。







「あぐっ....!?」

  お父さんに殴られた。
  退院してからは、家の雰囲気は一変した。...いや、入院中に変わっていったというべきか。
  
「どうして....。」

「お前のせいで俺たちは借金まみれになったんだ!」

「っ.....。」

「生命保険にも入れておいたっていうのに、勝手に治りやがって...!」

「がっ....!?」

  また殴られた。...でも、その痛みよりも、僕の心は絶望が占めていた。
  あの時夢だと思いたかった事が、現実だったからだ。
  殴られながらも、僕は嘘だと心の中で叫び続けた。



「........。」

「あんたの分はないわよ。散々金を使わせたもの。当然でしょ?」

  当然、嘘な訳でなく、現実だ。
  お母さんにも、ご飯を抜かれたりした。...そのお母さん達も、質素なご飯だったが。

  そんな虐待染みた...いや、実質虐待だろう。そんな扱いを受けて、当然のように僕の心は荒んでいった。

「(どうして僕はこんな扱いを受けないといけない?どうしてお父さんとお母さんは僕にこんな事をする?どうして僕は病気が治ってしまった?どうして....どうして....。)」

  ボロボロになった自室の隅で蹲り、僕は心の中で自問を繰り返し続けた。

  どうして、こんな事になってしまったのか。

  どうして、僕は助かってしまったのか。

  どうして、二人は不幸になってこんな仕打ちをしてきたのか。



   ―――あぁ、そうか....。

「(....僕が生まれてきたのが、間違いだったんだ....。)」

  誰も助けてくれない。そんな状況で、僕はそんな結論を出した。

「(なんで...どうして、僕は生まれてきたんだ...!家族を不幸にするような僕が、なんで...!)」

  思考がどんどんマイナスの方へと沈んでいく。
  もう、僕の心は限界に近かった。

「...い、嫌だ....もう、何もかも嫌だ...!」

  怖い。全てが怖い。怖い、恐い、コワイ....!

     ―――ガチャッ

「ひっ....!?」

  唐突にドアが開く。

「お、お母..さん.....?」

  そこに立っていたのは、お母さん。
  ...しかし、その様は幽鬼のようで、包丁を持っていた。

「...そうよ。あんたが死ねば、保険金が貰えるのよ。」

「え.......。」

「...あぁ、どうして気づかなかったのかしら?疫病神を殺せるついでに、お金が貰えるのにね!」

  そう言って、お母さんは僕へと突っ込んできた。

「ひぃっ....!?」

  咄嗟に避ける。なんとか避ける事はできたけど、僕はお母さんに恐怖してしまった。

「逃がさない...!」

「っ....!」

  すぐさま部屋を飛び出す。

「(殺される...!殺される...!それだけは...イヤだ....!!)」

  どんなに心が壊れかけていても、死への恐怖は健在だった。
  それを糧に、僕は裸足で外へと逃げ出した。

「(警察...!警察...!どこ...!?どこだ....!?)」

  石を踏みつけ、足裏の皮が切れる。
  その痛みに堪えながらも、僕は走り続ける。

  ...死から逃げるために。

「(人が......嫌だ!巻き込みたくない....!)」

  これ以上、僕のせいで誰も不幸になって欲しくない。
  その一心で、僕は人ごみを避け続けた。

  ....まだ、お母さんは追ってくる。





「はっ、はっ、はっ....!」

  息が荒い。栄養も足らず、体力も相当落ちたのに、無理して走り続けたからだ。

「(誰か...助け....嫌だ、巻き込みたくない...!)」

  助かりたい欲求と、巻き込みたくない思い。その二つが葛藤を起こしていた。

「はっ、はっ、はっ....っ!?」

「っと!?」

  角を曲がった時、誰かにぶつかってしまい、尻餅を着く。

「す、すいません....って、え...?」

「ぁ....優輝、君....?」

  退院する少し前からずっと会っていなかったけど、見間違えるはずがない。
  ぶつかった相手は、親友である優輝君だった。

「まさか...聖司...なのか?」

「ぁ...ぅ....。」

「いつ、退院していたんだ?それに、その恰好は....。」

  この時の僕の恰好は、家にあった普通の私服だが、繰り返される虐待と、お風呂に入る事もできなかったためか、ボロボロになっていた。
  そんな事よりも、僕は優輝君を巻き込んでしまった事に声を出せずにいた。

「...なにがあった?」

「ぁ..ごめ....僕に、近づいちゃ....。」

「え、どうして....っ!」

  なぜかと聞こうとした優輝君が、僕の後ろを見てハッとする。

「まさか...!」

「ひっ....お母さん....!」

  お母さんが、ついに僕を見つけてこちらへと走ってきた。
  まだ距離はある。だけど、優輝君を巻き込んでおきながら置いて行くなんてできなかった。

「下がれ!聖司!」

「優輝君...!?」

  すると、優輝君が持っていた鞄を手に、前へと出た。
  そうこうしている内に、お母さんは包丁を構えて僕の方へ突っ込んでくる。

「させない...!」

「死ねぇえええ!!」

  そこへ優輝君が割り込む。しかし、お母さんはそれに気づかず、雄叫びを上げながらそのまま突っ込んでくる。

「(ダメだ....!)」

  ふと、景色がスローモーションになる。
  ...いや、そう見えるだけで、思考が加速しているだけだろう。

「優輝君.....!」

  咄嗟に、痛む体を無視して優輝君を横に突き飛ばす。

「なっ....!?」

  突き飛ばされた事に、優輝君は驚愕の顔で僕を見つめる。

「(...ごめん、巻き込んじゃって....。)」

  そのまま、僕はお母さんに刺された。

「が....ぅ.....。」

「あんたなんかに....幸せなる権利なんてないわよ....!ここで死になさい...!」

「っ、あ......。」

  その言葉が、やけに頭に残った。

  痛い。熱い。刺されたお腹から血が溢れてくる。
  そのままお母さんの勢いで倒され、夕方の道路に仰向けに転がる。

「聖司...!?くそっ....!」

  倒れた僕に、優輝君は駆け寄ろうとして、先にお母さんに向き直る。

「あ...はは...やったわ...やって....っ!?」

「お前....!このっ...!」

  ちょうど僕の視界からはずれた所で、優輝君の声とお母さんの声が聞こえた。
  ...なにをやっているかは、僕には分からない。...分かっても意味がない。
  どうせ、僕はここで死ぬのだから。

「誰か!警察と救急車を!」

「...ぁ...優...輝....君.....。」

  いつの間にか、人が集まってきていた。それに優輝君は声を荒げてそう言う。

「(....ダメだよ優輝君。もう、手遅れだから....。)」

「聖司!しっかりしろ!くそっ...!なんでこんな事に...!」

  優輝君が、刺された場所を押さえて止血しようとする。

「...も..ぅ、無..理....だ...。」

「聖司....どうしてここまで衰弱して....っ、そう言う事か...!」

「(はは...さすがは優輝君...。触っただけで僕の状態が分かるんだ..。)」

  食事を何度も抜かれ、暴力を振られ、僕の体は衰弱していた。
  多分、適切な処置を取れば助かる傷だったのだろうけど、衰弱していた僕には致命傷だった。....それは、僕自身もよくわかっていた。

「くそっ...!くそっ...!聖司!しっかりしろ!」

「...ぁ...ぅ....。」

  背中辺りが生温く感じる。血が溢れ、地面に溜まってきてるのだろう。

「....優輝...君...。巻き込んじゃって...ごめん...。」

「聖司...?聖司!!」

「(....せめて、優輝君だけでも幸せに、なっ..て.....。)」

  そこで僕の意識は薄れ、消えてしまった。







   ―――この時から、“僕”は“私”という存在になった。









「――――....ぇ...ぁ..れ....?」

  気が付けば、どこか知らない家に、私はいた。

「ここ、どこ...?“僕”は.....死んだはず...。」

  見覚えのない部屋に、戸惑いを隠せない。

  ....いや、本当は覚えている。
  うっすらと、この家の子供として生まれ、今まで育てられてきた記憶がある。

「どういう...こと?」

  ふと、そこである事に思い当たる。
  まだ幸せだった頃、パソコンやケータイで見ていた二次小説などで偶に見かけた言葉。

「“転生”....?」

  主人公が死に、神様などに会ったりして転生させてもらう。稀に神様に会わずに転生していた的なケースもあったりする。
  ...この時の私は、それにそっくりな状況だった。

「....綺麗な部屋....でも、どこか....。」

  女の子っぽい?と思って、私は気づく。

「っ.....女の子に...なってる?」

  長い亜麻色の髪。小さく、華奢な体。そして何より、男と女の決定的違いとなる存在が女性のものだった。

「....そっか、女の子として生まれたのか...。」

  この時、ようやく記憶から私が“聖奈司”だという事を自覚した。
  戸惑いはあったけど、これでも記憶はうっすらと残っているから仕草とかは既に女の子のものとなっていた。

「...これからは、“僕”じゃなくて“私”....か。」

  既に一人称も“僕”より“私”の方がしっくりくるようになっていた。

「...なんだが不思議な感覚...。」

  祈巫聖司(自分)じゃないはずなのに、聖奈司(自分)としては馴染んでいる。
  それがとても複雑で不思議な感覚だった。

「あ、そう言えば、ここは....。」

  記憶から、私が今いる場所を知る。
  聖奈司()(現在6歳)の自室のベットの上だったらしい。

「....リビングに行かなきゃ。」

  まだ、私は朝食を取っていない。だから、リビングに朝食を取りに行った。





「司、今日は起きるのが少し遅かったじゃない。ほら、早く食べなさい。」

「はーい。」

  前世のお母さんとは違う、今の私と同じ亜麻色の髪の、綺麗な容姿をしたお母さんがそう言って食べる事を催促してくる。
  ....前世でのお母さんとの優しさのギャップで、涙が出そうになるけど、何とかそれを堪える。

「(美味しい.....記憶では、いつもこういうのを食べてたんだけどなぁ...。)」

  どうも前世の記憶と今の記憶が混同して、複雑な気分になる。

  しばらくして朝食を食べ終わり、歯磨きを終えて、する事もなかったので、自室に戻る。

「(....なんだか安心.....してるのかな...?)」

  前世での両親との違いに、私は安堵していたのかもしれない。



   ―――あんたなんかに....幸せなる権利なんてないわよ....!



「っ......!」

  息が詰まる。心臓の鼓動が早くなり、苦しくなる。

「ぁ....ぅ.....!?」

  歯がガチガチと鳴るように震え、恐怖が溢れ、止まらなくなる。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい....!」

  殺されるまでの一連を思い出し、さらに吐き気がするほど震えが止まらなくなる。

「(やっぱり自分は幸せになっちゃいけないんだ...!なのに、今の家族の暖かさに浸ろうだなんて...!そんな事、許されるはずがないんだ...!)」

  私に、幸せになる資格なんてない。....そう、私は思った。









「(.....リリカルなのはの世界....あまりしっかりとは覚えてないなぁ...。)」

  入学した学校...私立聖祥大附属小学校の入学式の最中、私はそんな事を考えていた。

  あの後、私は自分以外の幸せを願い、ただし自身は幸せになったらダメなのだと心に決め、そうやって生きてきた。
  その過程で、私はこの世界がリリカルなのはの世界だと知った。

「(小学校....私、馴染めるかな...?)」

  元々私は高校生(中退したけど)。それなのに小学生からやり直すのは難しいと思う。
  某探偵はそれをしてるんだけどね...。

「(適度に優しく、でも甘やかさない...そんな距離感で行こうかな?)」

  特定の誰かと仲良くって言うのは、さすがに精神年齢の差で難しいと思ったから、広く浅く交友関係を持とうと、私は思った。

  しばらくして、入学式が終わり、各々の教室に行って自己紹介の時間になる。

「(...あまり、凝った自己紹介じゃなくてもいいよね?)」

  無駄に凝った自己紹介だと、この年齢の場合違和感あるし。

「志導優輝です。好きな事は...妹と一緒に何かする事かな?これからよろしくお願いします。」

「っ....!?(え....?)」

  思わず、聞こえてきた言葉に振り向いてしまう。
  驚愕の声を洩らさなかっただけ凄いと思えるほど、私は驚いた。

「(優輝君....!?)」

  運悪く、同じ列の前の方だったので顔は見えなかったけど、どこか既視感を感じた。

「(....他人の空似...だよね?)」

  優輝君も転生しているのかと思ってしまったけど、きっと気のせいだと思った。
  ...といっても、前世での優輝君との付き合いは中学からだから小学生の頃の優輝君はどんなのか知らないんだけどね。

  そんな事を考えている内に私の出番になった。

「聖奈司です。好きな事は静かな場所で読書をする事です。...これからよろしくお願いします。」

  無難な自己紹介を済まして、私は席に座る。
  実際、読書は前世から気に入っている。...と言っても、入院期間で暇な時があったからその時に読んでいただけなんだけど。

「.......。」

  座る時にざっと見まわしたけど、なぜか見惚れられてた。
  ...確かに、以前に自分でも綺麗な容姿だとは思ったけど...。そこまで?

「(....とりあえず、優輝君か確かめてみないと。)」

  休み時間になったので、早速遠くからだけど優輝君を見てみる。
  ...見た目は前世での優輝君の面影があるけど...。

「(...もしかしたら、この世界で生まれ育ったっていうだけかもしれないんだよね...。)」

  遠目から見ていても普通に馴染んでる。
  きっと、私の知っている優輝君とは違うのだろうと思った。
  それに、自己紹介で妹もいたし、前世の環境と違うみたい。

「(もし、前世の優輝君と同じ道を辿るなら....。)」

  前世で優輝君は中学の頃、家族を亡くした。
  もし、それと同じ道を辿るなら私はそれを阻止したいと思った。

「(...優輝君は不幸な目に遭わせたくない...。)」

  でも、私が関わるときっと不幸になってしまう。
  だから、私はあまり近づきすぎないように関わっていく事にした。







  それからさらに月日は流れて四年生の春。
  二年生になって原作の子達が入ってきて私が一つ年上なのに初めて気づいた以外、特になにもなかった。最初の思惑通り、同級生の皆とは広く浅く付き合っており、イジメとかそう言う問題もない。...九大美少女とかで原作キャラの子とかと一緒に祭られてるのが気になるけど。
  他に何かあるとすれば...猫を拾った。
  偶々、とても弱っている猫が道端にいたので、そのまま見殺しにする訳にもいかないので、必死に助かるように祈りながら応急処置をしていたら、何とか助ける事ができたって感じ。
  それからは成り行きで飼う事になったけど...まぁ、お利口だから苦労はしてない。

「(やっぱりだけど、転生者は他にもいるんだなぁ...。)」

  屋上で静かに昼食を取っていると、原作キャラのやり取りの中に、覚えのない人が何人かが混じっている。言動からしても、前世の二次小説とかで見た転生者そのものの人もいた。

「(織崎神夜と王牙帝と天使奏....。)」

  王牙帝は言うまでもなくよくある踏み台のような言動と容姿。天使奏は綺麗な白髪と琥珀色の瞳が特徴的で、前世で見たアニメのキャラからそういう特典を貰ったのだと推測。織崎は一見、黒髪黒目の普通の容姿だけど....。

「(...怪しい....。)」

  どこか、彼と他の女の子たちとの会話を見ていると違和感があった。

「(...というか、絶対皆神様転生だよね?)」

  明らかに特典でそうなってそうな容姿だったので、どうして私だけ神様に会わずに転生してるのか疑問に思った。特典らしきものもないし。

「(やっぱり幸せになるなって事かな...?)」

  前世のお母さんの言葉を思い出し、少し暗くなる。

「(....それよりも、ジュエルシード....だったっけ?)」

  実を言うと、既に昨日の時点で原作にもあった念話(だったかな?)を聞いている。
  ...といっても私にはどうしようもないので保留だったけど。

「(...関わっても、良い事ないよね。)」

  私も、相手も。
  そう思って、私は関わらないように決めた。



   ―――まぁ、そんな思いは簡単に砕かれるのだけど。



「っ.....!」

  走る。走る。ただひたすら走る。

「忘れ物なんてっ...!取りに戻るんじゃなかった...!」

  あれから数日後、偶々帰りが遅くなって、しかも帰り道の途中で忘れ物に気付いたのでお母さんに連絡を入れてから取りに戻ると、幽霊のようにぼやけた化け物に襲われた。

「なんなの...!?あれ....!」

  そこまで素早く私を追いかけてきてる訳ではないけど、確実に私に向かってきているのは分かる。...素早くないって言っても走ってる私ぐらいの速さなんだけど。

「(考えられるのはジュエルシードか、全く別物の...それこそ幽霊のような何か...!)」

  走ってる間にも今巻き込まれている出来事を分析する。
  ...思い当たるのは今挙げた二つだけなんだけどね。

「(学校は人が多いから思念も強い....幽霊は思念体みたいなものだから、思念が集まってジュエルシードが活性化した!?)」

  我ながら良い推察だったと思う。...だからどうしたって感じだけど。

「っ....校門から逃げたら...!」

  街の人も巻き込まれる。そう思って校門から逃げるのを思いとどまる。

「どうすれば...!」

  着実に狭まってくる距離に、私は恐怖する。

「(...もしかして、私はここで死ねって事かな...?幸せになっちゃいけないから、皆を不幸にしてしまうから....。)」

  マイナス方面の思考になって頭を振る。
  ...その行為が祟ったのか、小石に躓いて、こけてしまう。

「っ...!しまっ....!」

  振り返れば、そこにはさっきの思念体。

「ぁ....あ.....!」

  ゆっくりと、思念体の腕が振り上げられる。
  私は恐怖で動けずに、その場に座り込んだままだった。
  そして、その腕が振り下ろされそうになって....。

「グォッ!?」

「っ....え...?」

  私と思念体の間に何かが現れ、その光で目が眩む。
  思念体も光に怯んだみたいだけど、ちょっと挙動がおかしかったような...?

「...十字架....?」

  光の中にあったのは、水色の宝玉が中心に埋め込まれた綺麗な白い小さな十字架だった。

Language Search(言語検索)....検索完了しました。〉

  私も思念体も動けない中、その十字架から綺麗な声が聞こえてくる。

〈...ジュエルシード、適性者共に確認。...適性者をマスターと認識します。〉

「...え...?」

  ジュエルシードは目の前の思念体だというのは分かる。
  でも、適性者って...私?じゃあ、私がマスター?

〈ジュエルシードに異常確認。これより、封印処置を行います。...マスター。〉

「は、はいっ!」

  何故か十字架を見て思念体が怯んでいるように見えるけど、それよりもいきなり声をかけられて変に思いっきり返事をしてしまう。

〈私の詠唱に続いてください。〉

「え...あ、うん。」

  促されるままに、十字架の言葉を待つ。

〈祈りは(そら)に。〉

「い、祈りは天に。」

〈夢は(うつつ)に。」

「夢は現に。」

  続けて詠唱をするうちに、頭に勝手に言葉が浮かんでそれを紡ぐようになる。

「想いを形に....我は天に祈りし巫女....シュライン・メイデン(shrine maiden)!セットアップ!」

〈Standby ready.Set up.〉

  再び光に包まれる。今度は私も中心となってだ。

〈マスター、防護服を思い浮かべてください。私が最適化します。〉

「ええっ!?えっと....!」

  防護服といきなり言われても、そう簡単に思い浮かばない。
  だからか、私は防護服というより、ある服装を思い浮かんだ。

〈バリアジャケット、展開。〉

「えっ!?あ.....。」

  思い浮かべてしまった通りの服装になり、やってしまったと思う。
  ちなみに、思い浮かべたのは私の容姿と似ていたリトルバスターズの能美クドリャフカの制服姿だ。.....キャラだけ知ってて、作品は知らないけどね。似てるからって思い浮かべてしまった...。

〈来ます!構えてください!〉

「えっ...きゃぁあっ!?」

  手に十字架を模した青いラインの入った白い槍がいきなり現れ、さすがに怯みから回復した思念体が腕を振ってきた。
  それを咄嗟に槍の柄で受けて、少し後ずさる。

〈臆する事はありません。マスターが負ける事はありませんから。〉

「で、でも....。」

  未知の相手なうえ、実戦経験なんてあるはずのない私からしたら怖い。

〈想いを強く、敵を打ち倒す力を強くイメージしてください。〉

「う、うん....。」

  再び振り上げられる腕を見て、それを打ち払うイメージをする。

〈イメージの通りの動きを。〉

「....やぁっ!!」

  腕が振るわれると同時に、槍を振う。

「グォオオッ!?」

「や、やった...!?」

〈まだです!しかし、怯ませました。今の内に封印を...!〉

  封印と言われても、どうイメージすればいいか分からないため慌ててしまう。

〈敵が静かに、大人しくなるように祈りを込めて....撃ってください。〉

「撃つの!?」

  封印(物理)のような発言に、つい突っ込んでしまう。

〈マスターの思い描く魔法を。後は私が実行します。〉

「わ、分かった....!」

  言われた通り、大人しくなるように祈りを込めて、槍の穂先を向ける。

「グゥォオオ....!?」

  思念体はまだ怯んで....あれ?動けなくなってる?
  ....まぁ、チャンスかな。

「....“ホーリースマッシャー”!!」

  穿つように白い砲撃が放たれる。それは、あっさりと思念体を飲み込み...。

〈ジュエルシードⅩⅩ(20)、封印完了しました。〉

「お、終わった....の...?」

〈はい。マスターの勝利です。〉

  その言葉に、私はその場にへたり込む。
  すると、唐突に足音が聞こえてきて....

「えっ....あれ?」

「どうした?....って、なに!?」

「っ....!」

  高町なのはと、織崎神夜がやってきた。

「ど、どうして一般人が...。」

「いや...魔力を感じる....魔導師なのか!?」

  織崎君の言葉に高町さん(この時は名字で呼んでた)の肩に乗っているフェレットが答える。

「あ...えっと....。」

「......どうやら、巻き込まれただけみたいだ。」

〈...ふむ、少し、説明が欲しいですね。〉

  十字架...シュラインの言葉を皮切りに、簡潔に説明してもらう。

  ...要約すれば、私でも覚えている事ばかりだった。
  ジュエルシードが事故でばら撒かれ、高町さんと共に回収している事。
  織崎君もそれに協力しているとの事だった。

  私は忘れ物を取りに来て、それで襲われ、そしてシュラインに助けられた事を伝える。

〈しかし、ジュエルシードはなぜこのような機能に....。〉

「分かりません...。僕が発掘した時には、こうなってましたから...。」

  ...あれ?フェレット...ユーノ・スクライアとシュラインしか話してない...?

「...とりあえず、私はどうするべきかな...?」

〈...協力しましょう。〉

「...そう、だね。巻き込まれたからには、放っておくのも嫌だし...。」

  私には力がないと思ってたから、迷惑にならないように関わらないようにしようとしてたけど...。...力があるのなら別だ。
  私が、不幸になる人達を助けないと....。

「....私も、協力させてもらうよ。」

「は、はい。えっと....。」

「聖奈司。二人は...高町さんと織崎君ね。」

「えっ?知ってるんですか?」

「...主に、騒がしい意味でね。」

  私がそう言うと二人は目を逸らす。...王牙君といつも言い争ってる(?)からね。

「...これからよろしくね。」

  こうして、私はジュエルシードを回収する事に協力する事になった。
  ....私なんかでも、誰かの助けになるのなら...。








  あれからしばらくして、街でジュエルシードが発動した。
  ジュエルシードを横取りしてくるフェイト・テスタロッサとアルフという人物も現れ、封印した後、戦っていたんだけど...。

「っ....!危ない!」

〈危険です!その状態のジュエルシードの近くでぶつかり合ったら...!〉

  私とシュラインの注意も空しく、なのはちゃんとフェイトちゃん(二人共こう呼ぶ事にした)のデバイスがぶつかり合い、ジュエルシードの魔力が爆ぜた。

「くぅうううっ....!?」

〈...マスター、一刻も早くあのジュエルシードを...!〉

「わ、分かってるけど...!」

  魔力が爆ぜた際の爆風で、ジュエルシードに近づけない...!





「―――“サンダーレイジ”!!」

  突如、上空から雷光の奔流が飛来し、ジュエルシードに直撃する。

「なっ...!?」

「っ.....!」

  織崎君の驚愕の声がどこからかするけど、私は驚きの中に、どこか知った感じの雰囲気を感じた。...私の、身近にあるような...。

「う、嘘だ....あれは....!」

  ...見れば、アルフさんも見覚えがあって驚いている。

  そうこうしている内に、今の魔法でジュエルシードは再度封印された。

「っ.....!」

「司!?」

  ユーノ君の制止も無視し、魔法が飛んできた場所へと飛ぶ。
  アルフさんも確かめようとしたけどフェイトちゃんが心配で動けないみたいだ。

「....様子を見ていましたが、まさか暴発するとは...。」

「...貴女は.....。」

  上空に上がれば、そこには奇妙な帽子を被り、白を基調とした服を着ており、灰色の髪と青い瞳をした女性が浮いていた。

「....聖奈司さん、私に魔力を分けてくださり、ありがとうございました。」

「え....?」

「....私は、あの時の山猫です。名前はリニスと申します。」

  そう言われて、ハッとする。
  山猫....猫と言われれば、家で飼っている猫だけど、よく見れば毛の色と髪の色が同じだ。

〈なるほど。マスターも無自覚だったのでスルーしていましたが、やはり使い魔ですか。〉

「...あなたには分かっていましたか。そうです。私は山猫を素体として使い魔で、契約が解除されて消えそうになっていた時、気が付くと見知らぬ世界を彷徨っていました。」

「...それで、私が拾った...?」

「はい。」

  でも、使い魔って契約を結んだりするはず...。私、契約を結んだ覚えなんか...。

「当時、貴女は魔法の使い方を知らなかった。ですが、“助けたい”と言う想いが形となったのか、無自覚に使い魔契約を結んでいたのです。」

〈...マスターの力ならありえますね。〉

「そ、そうだったの...。」

  そんな事になってたなんて、知らなかった...。

「そして、今まで貴女の事を見守っていたのですよ?」

〈...なるほど。あの時のジュエルシードの不審な動きは...。〉

「はい。私がバインドで止めていました。」

  不審な動きって、思念体が止まっていた事?
  ...あの時、助けてくれてたんだ...。

「そして今回も。今回のは突然だったので隠れて...という訳にはいきませんでしたが。...それに、教え子の危機でもあったので...。」

「えっ.....?」

  教え子って...誰か知り合いが...?

「...詳しくは家で話しましょう。」

〈私もその方がいいかと。上空で立ち話はあれですし。〉

「あ、うん。連絡を入れておくね。」

  なのはちゃんと織崎君に念話で連絡を入れて、先に帰らせてもらう。



   ―――そして家で、驚愕の真実を知った。



「....なに...それ...。」

〈それはまた...悲しい運命ですね。〉

  聞かされたのは、リニスさんの以前の主だったプレシア・テスタロッサの現状と、秘めている想い。そして、フェイトちゃんの真実。
  聞かされていく内に、うろ覚えだった原作の知識も思い出したけど、ほとんどそれと同じだった。...だからこそ、私は居ても立っても居られなかった。

「...止めなきゃ...。」

「司?」

「...止めなきゃ!そんなの、不幸しか生まない...!」

  病気で苦しんでいるプレシアさんも、真実を知らされずにいるフェイトちゃんも...!そして、アリシア・テスタロッサも...!皆、不幸になるだけ...!

〈マスター、落ち着いてください。今の貴女が行っても...いえ、居場所すらわかりませんが、例え行けたとしても返り討ちが関の山です。〉

「っ....!」

〈今は力を蓄え、待つ時です。〉

  シュラインに諭され、何とか思い留まる。

「...そのデバイスの言う通りです。今は、待ちましょう。」

「....分かった...。」

  誰かが不幸な事になっているのが、耐えられなかった。
  ...だから、思い留まったとしても、来るべき時のために...!

「シュライン、リニスさん...。」

〈なんでしょう?〉

「なんでしょうか?」

「....私を、強くして....!」

  このままな私だと弱い...!弱いままだと、足手纏いになるだけ...!
  だから、私は強くなる。



   ―――そう、想いを決めて、私はさらに戦いへと身を投じて行った。









「―――...あれから、もう一年以上...か。」

  え?時間が飛びすぎ?...尺の都合です。(メタ発言)

「結局私は....。」

  助けたいと思った。救いたいと思った。止めたいとも思った。
  そのために強くなろうと思った。実際に強くなったと自覚もしている。
  ....だけど、あまり役に立てなかった。

〈マスターはやり遂げましたよ。〉

「そうですね。プレシアの病気の治療、闇の書のバグの完全末梢。...これだけでも凄いです。」

  ...確かに、リニスさんの言った通り、ジュエルシードの魔力を逆手に取ってシュラインと共に強く祈る事でプレシアさんを若返らせ、病気を治す事もできたし、同じように強く祈る事で再発するはずだった防衛プログラムを完全に消し去る事もできた。

「...でも、それでも私一人では...。」

〈私はマスターがいないと何もできません。〉

「私も、貴女がいなければここには存在しませんよ?」

  二人は暗くなりかけた私を励ましてくれた。
  優輝君や緋雪ちゃんにも話していない、私の本当の素顔の片鱗を、二人は知っている。だからこそ、私の気持ちを理解してこうやって励ましてくれる。

「うん...ありがとう。」

  ふと、優輝君の事を思い浮かべる。

「(優輝君は転生者なのはこの前知ったけど...やっぱり、似てる....。)」

  前世の優輝君に。
  そこまで考えてその思考を振り払う。

「(...だったら、優輝君が死んで転生しちゃった事になっちゃう。...私が、巻き込んだから...!)」

  私は未だにあの時の事を引きずっている。
  あの時、優輝君を巻き込んでしまった事を。
  あの時、家族に迷惑を掛けてしまった事を。
  あの時、私の...“僕”の病気が治ってしまった事を。

「(優輝君...優輝君...私は、どうすれば...いいの.....?)」

  私はまだ二度目の人生でのしっかりとした生き方が分かっていない。
  前世の親友が転生してきたとなれば、余計にそれに拍車がかかった。

「(誰も助ける事もできない。不幸にする事しかできない...。)」

  そんな私なんか....。









   ―――あんたなんかに....幸せなる権利なんてないわよ....!





「っ......!」

  胸がチクリと痛む。....前世のお母さんの言葉は、今も頭に、心に染みついている。

「(あぁ、やっぱり....。)」













   ―――私に、幸せになる資格なんてないんだ....。















 
 

 
後書き
一話に纏めようとしたら凄く長くなりました。
と言う訳で司視点の過去話(できるだけダイジェスト)でした。
フェイトとアルフはリニスともう一度再会するのは六つ同時発動の時です。
これ以上過去話を書くと作者の技量ではごちゃごちゃになるので脳内補完でお願いします。

....これでかやのひめ(今は椿)の言っていた“歪さ”が表現できただろうか...?
つまり、司は優輝たちに巧妙に隠しているものの、心に闇を抱えているという事です。

作者の文章力不足でその闇っぽさが表現しきれてないかもしれませんが...。
何かアドバイスがありましたらよろしくお願いします! 
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