天邪鬼
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第四章
「天邪鬼は嘘を言わないんだ」
「逆のことを言っているだけだよ」
「ただそれだから」
「この場合は行くべきだよ」
「それにね、おいらわかるんだ」
河童がです、村人達に言いました。
「洪水起こるよ」
「ええと、じゃあ」
「あいつが起こらないっていうのは」
「逆で」
「本当に起こる」
「そうなるんだな」
「そうだよ」
河童はまた村人達に言いました。
「おいらは水の妖怪だから洪水のこともわかるんだ」
「洪水は絶対に起こる」
「それで逃げないと駄目か」
「今のうちに」
「もんを全部持って」
「山の上に逃げるんだ」
河童も必死です、天邪鬼と同じく。
「あそこなら洪水にも遭わないからね」
「ううん、じゃあ行くか」
「ああ、そうだな」
「洪水になんか遭ったら大変だ」
「じゃあ今のうちにな」
「皆でこの辺りで一番大きな山の上まで逃げよう」
「そうしよう」
こうお話してでした、村人達はそれぞれのお家の中のものを持ってでした、牛や馬や鶏、犬まで全部連れてです。
山の上まで避難しました、山に入って二日程したらです。
何といきなり大雨が降ってでした、そして。
村人達がいた村は洪水に襲われお家は全部流されてしまいました、村人達は山の上からその有様を見てでした。
ほっと胸をなでおろしてです、こう言いました。
「本当にな」
「危なかったな」
「二日遅れていたら」
「妖怪達の言うことを聞いていなかったら」
「わし等洪水に襲われて」
「どうなっていたか」
「天邪鬼はね」
村人達だけでなくです、妖怪達もその山に避難していました。その時に村人達がものを持つことを手伝ってもいました。
「皆を心配してなんだ」
「それでか」
「行くなって言ったのか」
「つまり行けって」
「逃げろって」
「洪水が起こることがわかっていたから」
だからだというのです。
「皆に必死に言ったんだよ」
「ううん、天邪鬼はいつも逆のことを言う」
「自分の思ったことと逆のことを」
「だから行けというのは」
「この場合は行け」
「逃げろということであって」
「嘘は言っていないんだな」
村人達はここでようやく理解しました、天邪鬼のことを。
「逆に言っているだけで嘘は言っていない」
「そういうことか」
「いや、何かと思ったけれど」
「悪気はないんだな」
「ものごとを混乱させようとかじゃなくて」
「ただ逆のことを言っている」
「それだけか」
「そうなんだ」
妖怪達は村人達にその通りだと答えました。
「天邪鬼はそうした妖怪で」
「悪気は別にない」
「そういうものか」
「逆に言っているだけって理解すればいいんだな」
「そういうことだよ」
まさにというのです。
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