蝶姫
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五章
「姫じゃないわね」
「ええと、飼育者ですか」
「養蜂みたいな感じかしら」
「蜂蜜を作る、ですね」
「そうしたものだと思ってるの」
姫ではなく、というのだ。
「私自身はね」
「じゃあ養蜂のおばさんですか?」
「二十年後はそうなるわね」
自分で笑って言う青葉だった。
「今はお姫様でも」
「けれどブルーバタフライって仇名は永遠ですね」
「そっちはね、まあ結婚したらお蝶夫人ね」
「また古い漫画出しますね」
「とにかく。お姫様じゃないわよ」
「つまり部長は部長ですね」
「自分がしたいことをしてるだけよ」
その生物部で、というのだ。
「蚊をやっつけてくれたりお花を育ててくれてかつ奇麗だったり縁起のいい生きものを育ててるね」
「それだけですか」
「そうよ、愛実ちゃんもそう思ってね」
「わかりました」
愛実は青葉のその言葉に明るい笑顔で応えた、そしてこう青葉に言うのだった。
「そう思わせてもらいます、じゃあ今度」
「今度?」
「一緒に餌のキャベツとか買いに行きましょう」
「スーパーとか八百屋さんで貰える」
「キャベツをですか?」
「餌になりそうなキャベツの葉とかはもう捨てる様なのだから」
このことをだ、青葉は愛実に話した。
「そういうのを貰えばいいのよ」
「ただですか」
「そうよ、腐ってないのを貰うといいから」
「それで部費節約ですか」
「そこはちゃんとしないと」
お金のことはというのだ。
「部費は幾らあっても足りないわよ」
「節約節約ですか」
「そうよ、そのうえで皆をちゃんと育てるのよ」
「確かにお姫様じゃないですね」
青葉のそうした発言を聞いてだ、愛実は彼女自身の言葉を実感した。
「部長は」
「これでわかったでしょ」
「はい、よく」
頷いて返した愛実だった、それであらためて言ったのだった。
「じゃあ貰いに行きましょう」
「青虫だけじゃなくて他の子達の餌もね」
そのことも忘れていなかった、話す青葉の目はお姫様のものではなくやりくり上手の主婦のものになっていた。そのうえでの言葉だった。
蝶姫 完
2015・8・19
ページ上へ戻る