大きな木の下で
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第一章
大きな木の下で
この街には途方もなく大きな木があった、ただ高いだけでなく。
葉が広く生い茂っていてだ、相当な距離の日陰を作っていた。
その木を見てだ、黒峰登輝は友人である水瀬和也にこんなことを言った。
「あの木って何年位だろうな」
「何年じゃないだろ」
和也はこう登輝に答えた。
「それこそ」
「何十年か」
「何百年、いや」
「千年か」
「二千年位ないか?」
それだけ生きているのではないかというのだ。
「もうな」
「二千年か」
「木の種類は知らないけれどな」
「二千年か」
「それ位あるだろ」
その木の生きている歳月はというのだ。
「それこそ千年杉どころじゃないぜ」
「それはまた凄いな」
「昔のCMのこの木何の木ってあったけれどな」
和也はこうしたCMも話に出した。
「あの木位あるから」
「高さも葉の広さも」
「だからな」
「二千年はか」
「生きてるだろ」
「じゃあキリスト位か」
「それ位だな」
和也はその長く伸ばしている黒髪を自分の手で触りながら答えた。髪を短くしていて元気のいい顔の登輝とは違い優しい目の中性的な顔立ちだ。二人共背は一七二位で中肉である。
「そう思うとな」
「長いな」
「二千年になるとな」
「千年でもな」
それでもとだ、登輝は言った。
「長いからな」
「それで平安時代だ」
「紫式部とかか」
「そんな時代だな」
「それが二千年か」
「確かに木の寿命は長いさ」
和也はまた言った。
「僕達人間よりもずっと」
「それでも二千年生きる木はな」
「滅多にない」
「そうだろうな、千年杉の倍だからな」
「相当な長寿だ」
「キリストの頃だからな」
「そうだな、それでだが」
ここで和也は登輝にこうも言った、その二千年の木を見ながら。
「あの木の下に行かないか」
「木の下にか」
「そうしないか」
「何で木の下に行くんだ」
「休みたくなった」
だからだというのだ。
「それでだ」
「そうか、あそこの木の下でか」
「見ていたら休みたくなった」
「そういえば何かな」
登輝もだ、和也のその言葉を受けてこう言った。
「俺もな」
「休みたくなったか」
「木陰が広くてな」
「その下はな」
「いい感じだな」
芝生の様になっている、黄緑の。
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