男は今日も迷宮へと潜る
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第三話
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やあ!まずこのメモは案内用だ。所詮オマケその一といったところかな?
君があまりにも疑り深いものだから忍ばせといたよ!
混乱しているだろうけど、とりあえずは破り捨てず最後まで読んで欲しい物だね。
まずオマケについて解説しとこうか。あんまり長々と書くと嵩張り過ぎちゃうから簡略化したので簡便な!
1.この世界の知識、言語の習得
2.前の世界での君の体質と経験などの記憶の保持
3.君の倉庫にあった物をほぼ無制限に自由に取り出せる四次元ポケット!(ドラ○もんみたいだね!)
他にも細かいのがあるけど・・・・・・まぁ気にしないでくれ!
そして君が目覚めて目に入る町があるだろう?
その町は迷宮都市オラリオ。まぁ君の拠点となる町とでも考えといてくれ。
することは簡単!君にはファミリアという物に所属して迷宮に潜ってもらうよ!
迷宮にはモンスターが居てね、それをブッ殺がすと魔石って物が手に入るんだ!
まぁモンスターってのもファミリアに所属しないと・・・・・・
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「畜生・・・・・・ふざけやがって!」
憎たらしいほどの達筆のメモを、マサはポケットに押し込んだ。
メモにはこの世界のこと、生計を立てる方法、オマケの内容と使い方、通貨の単位などなど・・・・・・
ひょっとして要らねぇんじゃねぇかと思うことまで異常に細かく記されていた。
丁寧に合いの手まで書き込んであることがマサのストレスを増加させた。
当面はこれを参考にして生活するほかないだろう。
「あーあーあー・・・・・・本当なら今頃不良在庫売っぱらって豪勢なディナーとシャンパンで宴会ってとこだったろうになぁ・・・・・・」
「何が悲しくて文無しでこんな目に遭わなくちゃいけねぇんだよ・・・・・・」
金なし、身元なし、住処も仕事もなし。
なしを綺麗に四つ同時に獲得してしまった。
これではそこらのホームレスと大差ない。
「まぁ、行くしかないんだろうなぁ・・・・・・あそこ」
目線の先には馬鹿でかい塔と円形の町。
中央部の塔から伸びている八本の大通りが印象的だ。
「嫌だなぁ。疲れるの嫌いだし。腰痛くなるし」
「行ってみますかぁ・・・・・・」
立ち上がり大きく一伸び。咥えていたタバコを念入りに踏み消す。
放火などでいきなり札付きになるのは御免だ。
「おっと、その前に・・・・・・」
アロハシャツの懐、本来ならばポケットのない位置を探る。
するとそこには雑多な物の感触が確かにあり、マサはある物をその中から選び出した。
「あったあった。便利だなぁこの『オマケ』って奴はよ」
「一応確認っとねぇ」
取り出した二つの物を組み合わせ、その合体した物をマサは口に咥え込む。
マサが指を動かしたその瞬間。
辺りに軽快な破裂音が響き渡った。
取り出した物は拳銃。それも殺傷力溢れる四十五口径。またの名をコルト・ガバメント
そんな物を口の中で暴発させて無事な訳もなく、マサの後頭部からは血と脳髄の混合物が噴出した。
弾丸の抜けたところには風穴が開いている。
そのときふしぎなことがおこった!
傷口はさも意思があるかのように蠢き、近くの組織同士が結合する。
グジュリ、グジュリと音を立てながら、数秒ほどで空いた穴は完全に塞がった。
「いってぇ・・・・・・が、問題はなさそうだな」
首をゴキリと一回し。いつもと変わらない。
うんざりするほど体質は絶好調である。
「まずは冒険者登録で・・・・・・次にファミリアに所属だったっけなぁ。武器はいらんし」
マサは拳銃を懐にしまい込み、ゆっくりと町に向けて歩き出した。
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結論。30も半ばを過ぎた職なし、金なし、前歴無しのオヤジを受け入れようというファミリアは存在しなかった。
少なくともマサが訪れたところではの話だが。
良くて門前払い、悪くて罵倒つき。酷いとこでは水を被せられ追い返された。
流石に自棄になり建物ごと爆破してやろうかとも考えたが、今後のことを考えやめておいた。
兎角今日の宿代だけでも稼いでおこうと迷宮に潜ったりもしてみた。
最初は非常に好調だった。
懐のポケットから取り出した模造品のAK47はモンスターにも十分に通用したのである。
だがあくまで通用しただけであった。
モンスターを、ゴブリンを甘く見ていた。奴らは人間のように腕や足に数発くれてやったところで動きを止めなかったのだ。その上かなりすばしっこく捕捉するのも難しい。
苦心しながら二匹、三匹と倒しているうちに、新たなゴブリンが銃声を聞きつけ集まって来るやら壁から湧いてくるやらで。気がついたときには集まりに集まってざっと十五、六。
弾が切れてヤバイと思ったそのときには対策を取る間も無く、集団リンチのような有様になってしまったのである。
死にはしなかったものの、齧られ、再生した部分をまた齧られ、という激痛ループには参った物だ。
前々から体内に仕込んでいたC4を起動して延々と貪られる余生だけは回避したが、爆風により魔石はどこかへ飛び散ってしまい、結局稼ぎを得られなかった。
少しでも幸運だったのはオマケの影響か、飛び散った肉体と共に身に着けていたものまで再生したことぐらいだろうか。
そんなこんなで日も沈み、マサはバベル前のベンチに座り途方に暮れているのであった。
金も寝床も確保できず、きっとこのままここで野宿する羽目になるのだろう。
現在いる広場から丁度見える大通りは人で溢れている。上手く事が運んでいたら自分もあれらの中に混じっていたことだろう。
時折見える異種族が、自分が異世界にいることを改めて実感させた。
「腹減ったなぁ・・・・・・」
実質不死身とは言え腹は減る。
所持金は相変わらず0ヴァリスで何かを食べることも出来やしない。
タバコで空腹を紛らわすのもいい加減限界、というかむしろ悲しくなってきた。
「やっぱ『ファミリア』かねぇ。身体能力上がるっつうし」
件のメモには『ファミリアに所属して恩恵を受けないとモンスターハントは厳しいよ!』と書かれていたのを思い出す。
身体を強化せねば一番の雑魚にも苦労するということなのだろう。
ただ、こんなオヤジを受け入れるところも存在しない。
なんせ入団のにの字を言っただけで追い返されるのだから。
かといって虎の子の体質のことを話す訳にも行かない。
何があるか判らないからだ。
前にも、死なないことを娼婦に話しただけでその国の政府に捕獲されかけた程なのだから。
完全に詰みである。
もう起きていてもどうしようもないと判断し、マサはベンチに寝転がった。
ポケットからスーツを取り出しておいて正解だった。かなり寒い。
こういうときは寝るに限る。睡眠中は空腹を感じないのだから。
「あのー・・・・・・」
目をつぶりしばらくすると、話しかけてくる声。こっちは空腹との戦いで忙しいというのに。
「もーしもーし・・・・・・ファミリア探してたりしませんかー・・・・・・?」
「・・・・・・ファミリア!?」
『ファミリア』、つい数時間前まで死ぬほど憧れていた言葉。
その言葉が耳に入り急いで身を起こす。
「えっと、あの、そ、その・・・・・・『ファミリア』の勧誘をしてまして・・・・・・」
そこに居たのは一人の少女。
浅黒い肌のほっそりとした肢体と整った顔。それと対照的な肩まである銀糸のような髪と赤い瞳。
この世の物とは思えないオーラを放っていた。
一目で分かる。これは人ではない。
「あー・・・・・・驚かせてすまん。
なんせかれこれ十件近くファミリアを当たったが全部門前払いだったんだ」
「で、嬢ちゃんは誰だい?」
「あ、えっと」
「イシュタムって言います」
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