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Charlotte 奈緒あふたーっス!

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卒業式
  05 消失、欠落

紅の世界から抜け出した僕は今、分身した自らの目の前にいる。

「お疲れさま、僕の分身」

「うん。そっちもお疲れさま。精神的に」

「ったく、あのジジイ…やってくれやがって」

肩を回してオーバーなリアクションを取ると、分身の僕は少しだけ寂しそうな表情をして右手を伸ばす。

「悪いな…僕が本体で」

普段の僕ならそんなこと言うはずもないけれど、彼の、僕自身のそんな表情を見て、ただ気まぐれに情が移ってしまっただけだろう。

「別に僕はいなくなるワケじゃないでしょ?ただ僕は僕の中に戻るだけだよ」

分身の伸ばす右手に向かって自らの左手を伸ばす。

「そっか。そうだよな」

互いの掌を合わせた次の瞬間には、視界の先にあるのはただの通路しかなく、僕は一つに統合された。

「ありがとう」

その言葉が彼へのたむけとなればいいなと思わずにはいられなかった。

「さ、この能力は使うのは初めてだな。今の僕が記憶してる限りだけど」

そう独り呟いてみたものの返事をする者はいない。

ため息を漏らして、次に深呼吸をする。

まだ終わりじゃない。

最期にやらなければならないことが一つだけ残っている。

ポケットからかつて僕を守ってくれた奈緒自製の単語帳を取り出してネックレスのようにして首にかける。

鼓動とやるべきことを整理した頭を整え、僕は一つの能力をイメージした。

「うっ…あっ…うああああああああああああああああ!!!!」

僕の体から金色の光が漏れ出しているのを感じる。

だがその光は僕の脳を圧迫し目が飛び出しそうなほどにキリキリと痛み、鼻血はドクドクと流れ、耳からも奇妙な汁がダクダクと溢れだす。

骨は軋み、皮膚は張り裂け、衣服は鎌鼬(かまいたち)でも通ったかのように切り裂かれていく。

そんな身を削ってでも使用しなければならなかった能力。

それは「生涯」の能力である。

その能力の対象はありとあらゆる人や獣、そして物でさえも当てはまり、対象となったそれが生まれてから死ぬまでの一生をほんの一瞬で全て見ることが出来る。

つまりそれは過去から未来までを見ることと言え、それが存在した年月が長ければ長いほど、使用者の身体への影響は凄まじい物となる。

では、そこまでして見なければならない対象とは何か。

無論、僕の能力を含めた全ての能力の元凶であるシャーロット彗星の生涯だ。

何億年で済めばよいが、何兆年、いや、それ以上かもしれない。

あらゆる能力で耐性を上げてはいるが、全て見終える前に体が燃え尽きてしまうかもしれない。

それでもやらなければならない。

これは僕にしか出来ないことなのだから。

開発されたアンプルは僕らのような未成年者だけではなく、能力者になりたい人間は誰でもなれてしまうとても危険なものだ。

兄さんから聞かされていたが、僕が日本にいない間に能力者によるテロが少なからずあったらしい。

もし子供から大人まで様々な能力者を生んでしまえば、テロの数はその比ではないだろう。

だから僕はそのアンプルの開発に起因するシャーロット彗星の破片を無かったことにしなければならない。

現存する破片を破壊したところでアンプルが既に様々な国で使用されていることは明らかなのだから。

時の経過と共に激しくボロボロになっていく体は既に痛覚を失い、血の味がしないことから味覚、何も聞こえないことから聴覚、着ている服やその場所に立っていることが分からないことから触覚、先程までしていた薬品の鼻孔を貫くような臭いがしないことから嗅覚が殺られていると分かる。

そんな壊れてしまいそうな苦痛を五分も味わい、終わった時には気絶する瞬間すら知覚出来なかった。

目を開くと僕は宇宙空間にいた。

小惑星が漂っている中を器用に体が避けている。

いや、その石ころたちが僕の体を避けているのだ。

あの五分で見た映像を「録画」の能力で保存してある自らのメモリーフォルダから引っ張り出して頭の中で一瞬にして再生する。

シャーロット彗星がこれまで欠片を落とした場所や、現在さまよっている銀河系を把握することに成功する。

まずはシャーロット彗星が地球に近付く十四年前に飛ばなければならない。

過去に地球に落ちた欠片を全て無かったことにしなければならないからだ。

「あと…もう少しで帰れるんだ。帰るんだ。今度は今の僕が約束したんだ。奈緒の元に帰るって。あれ…」

そこである違和感に気付く。

「奈緒って…誰のことだろう」

自らの右の掌を見ながら握ったり開いたりしても何も浮かんでこない。

あの五分の間に記憶を再び失っていることに気付いたのは暫く後になってからだった。

「まぁ、いいか。覚えてない人間のことなんて」

そう言いつつふと右手に何かを握っていることに気付く。

「これは…なんだか懐かしいな」

いつの間にか握りしめていた首に下がるボロボロのアクセサリーは僕を心地よい温かな光で包んでくれるようだった。

「じゃあ、一緒に行こうか。全ての元凶を絶つために」

これを僕にくれた人は誰だったのだろう。

思い出せないけれど、それでもその人の心は僕についてきてくれる。

なんだかそんな気がした。 
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