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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico?うそつき~Tear of anger and sorrow~

†††Sideルシリオン†††

クイントさん達を見送り、俺は“堕天使エグリゴリ”の1機であるレーゼフェアと睨み合う。シュヴァリエルに続いてレーゼフェアともこうして遭遇できたのは幸運と思える。しかしこんな重要な任務の中で、しかも急いでいる時の遭遇は遠慮したかったというのも確か。文句も言っていられないか。

「ここにはなのは達も居ない。クイントさん達の目も無い。・・・・行くぞ!」

“エヴェストルム”のカートリッジを2本ずつロード。さらに2つの柄の魔石に魔力を流して、魔力量を増加させる。そしてその形態を、神秘魔力による魔力刃を生成するフルドライブ・イデアフォルムへと変形させる。魔道と魔導のハイブリット機だ。神器の上位には敵わないが、込める神秘魔力の大小によっては“エグリゴリ”の装甲には届くことは、シュヴァリエルとの戦いで証明できた。

(堕天使戦争を生き抜いたエグリゴリの中で、シュヴァリエルが最高の防御力を誇っていた)

神秘を増加させる効果があると判ったクジャクの翼を展開されると辛くなるが、それでもシュヴァリエル以上の防御力になることは決してないはずだ。

「上等だよっ!」

――黒き影拳乱舞(ポワン・タンペット)――

レーゼフェアが影を纏わせていた右拳を突き出すと同時、俺の今の身長148cmと同程度の大きさを持つ影の拳が10近く連射されてきた。空戦形態の機動力を活かして回避し、天井付近を陣取って上級術式をスタンバイする。

「影よ、神器王を捕らえてッ!」

通路に詰まっているかのような無数の影の触手が一斉に俺へと伸ばされて来た。シュヴァリエルのように弱点属性が無い風嵐系とは違い、闇黒系にはしっかり閃光系という弱点属性が存在している。焦ることはない。

曙光神の降臨(コード・デリング)!!」

俺は手の平サイズの閃光系魔力の光球を1つ創り出し、迫り来る影の触手へ向かって投げ捨てる。そして光球は音も無く球体状に爆ぜ、レーゼフェアの影と言う影を散らしていった。

「あー! あの人間たちに時間を掛けないでとっとと殺しておけば良かった!」

――影渡り(シュルプリーズ)――

「殺されるのは勘弁だが、クイントさん達に時間を掛けないというのは賛成だよ!」

通路の影の塊の中へとレーゼフェアが消えた。この部屋のどこかの影に移動したか、もしくは勝てないと踏んでこの場は退いたか。いや、アイツの負けず嫌いの性格からして大人しく逃げるわけがない。デリングの効果が切れたその瞬間が勝負だな。

昼神の閃星(コード・ダグ)光神の調停(コード・バルドル)が使えればもっと簡単にダメージを与えられそうなんだが、ダグは屋外限定・青天・昼間と条件があるし、バルドルは全方位無差別だからな~)

この施設からレーゼフェアを引っ張り出そうかとも思ったがクイントさん達のことが気掛かりで、この場から離れるという選択肢がただの考え止まりになる。速攻でアイツを救えれば良いんだが、いくらシュヴァリエルを救ったとは言っても油断は出来ない。
アイツもまた別の新しい魔術を習得しているかもしれないし、何よりフォルテシアの魔術で救うことが俺の課した条件である以上、対闇黒系の機体であるアイツにフォルテの魔術を通すためには先にダメージを与えておく必要がある。

(それでは手間が掛かり過ぎる。だから・・・俺は・・・!)

――力神の化身(コード・マグニ)――

決めた。レーゼフェアはここでは救わない。撤退させることを最優先にし、即座にクイントさん達の援護に向かう。それが俺が今、やるべき事。上級の自己強化魔術マグニを発動し、身体能力と魔術をすべて強化する。

――女神の宝閃(コード・ゲルセミ)――

デリングの効果が消えた瞬間、上級閃光系砲撃ゲルセミを連射する。ドーム状の部屋がサファイアブルーの光に満ちる。一切の影を作らせないことで奇襲戦法を封じる。だがレーゼフェアにはおそらく直撃していないだろうから、逃げていなければどこかでチャンスを窺っているはず。

――舞い降るは(コード)汝の煌閃(マカティエル)――

周囲に光槍マカティエルを30本と展開した直後、レーゼフェアが閃光爆発の中を突っ切って来た。神秘を宿した閃光系魔力の影響でレーゼフェアの側には影が無い。影の無いアイツの戦力はガタ落ちする。しかしついさっきとは違う点が1つ。

聖狩手甲(せいしゅてっこう)エオフェフ・・・!」

プレンセレリウスを斬り殺し、シェフィリスを貫き殺し、俺を貫き瀕死の一撃を与え、不死と不治の呪いを掛けた魔造兵装第二位・“呪神剣ユルソーン”。ソレと同じ製作者の手によって造り出された、神属殺しの手甲が両腕に装着されていた。

「これで閃光系魔術は僕に通用しなくなったよ!」

「確かにそうだな」

閃光系・炎熱系・雷撃系の3属性は、神属の威厳そのものとされている。ゆえに神属狩り能力に特化した“エオフェフ”は、“エオフェフ”以上の神秘であろうが問答無用で3属性の魔術を掻き消すことが出来、神造兵装へ与えるダメージも他の神器に比べて異常に高い。

「しかし・・・迎撃してこそその効果が発揮されるんだよ!」

周囲に配置しておいた光槍群を「ジャッジメント!」号令を下して発射。レーゼフェアは“エオフェフ”を振るって頭上から降り注ぐ光槍群を殴り、粉砕していく。

「ぅぐ・・・!?」

しかし光槍群の速度に対応しきれなかったレーゼフェアに4本の光槍が直撃、起こった閃光爆発で体勢を崩した。傷1つ付けられなかったが、隙を生みださせることが出来れば十分だ。俺はその瞬間を逃すような間抜けは犯さない。

女神の宝閃(コード・ゲルセミ)!」

“エヴェストルム”の先端より砲撃を2連射。レーゼフェアは体勢を崩されながらも1発目を左の“エオフェフ”で粉砕できたが、もう1発は直撃。床へ向かって墜落して行く。そんなアイツの墜落点になるだろう場所に、アイツの影が生まれた。影に逃げ込んで衝撃を逃がすつもりだろうが・・・

「させるか!」

――舞い降るは(コード)汝の煌閃(マカティエル)――

レーゼフェアへ急降下しながら光槍4本を床に向けて発射。光槍が着弾し、閃光系の魔力爆発を起こして影を掻き消すとアイツは「このぉぉぉぉっ!」怒声を上げた。そして俺は“エヴェストルム”の魔力刃でレーゼフェアの胸の間を突く。あくまで突けただけで、突き刺さらなかった。さらに腹に両足を乗せたうえで・・・

「うおおおおおおおッ!」

「ごは・・・っ!」

レーゼフェアを床に叩き付ける。“エヴェストルム”を持つ手からアイツの装甲を僅かに貫いた感触を得、両足の裏からも何かを潰した感触を得た。俺はアイツの腹から退かずに“エヴェストルム”の柄を分離させ、「メファシエル!」結界や防性術式を破壊する術式を付加したうえでレーゼフェアの両上腕を突く。

「いったいなぁ。もう!」

――女神の宝閃(コード・ゲルセミ)――

そして両上腕に砲撃を連発で撃ち込む。レーゼフェアが「痛い! 痛い!」もがく。娘の悲痛な叫びに心が痛むが今はクイントさん達を優先しなければ。カートリッジをロードしつつ「すまないな」砲撃の連射をやめない。そしてとうとう「い゛っ・・・だぁ゛ぁ゛ッ!?」バキンと音を立ててアイツの両腕が千切れた。

「このぉぉ・・・!」

「もう退け、レーゼフェア!」

「うるっっさぁぁぁーーーーいッ!」

――高貴なる堕天翼(エラトマ・エギエネス)――

例のクジャクの尾羽のような翼が20枚と放射状に展開され、その衝撃で「ぐ・・・」俺は弾き飛ばされてしまった。体勢を立て直した時にはレーゼフェアは近くに転がる両腕を求めて駆け出していた。俺はすかさず「マカティエル!」光槍20本をアイツに撃ち込みつつ、“エオフェフ”の回収に向かう。そしてタッチの差で俺は右を、レーゼフェアは左の“エオフェフ”を取った。

「あー! 返せっ、エオフェフは僕のだよ! あと右腕も返せ!」

「元はと言えばコイツは俺の複製神器だ。元の持ち主の手に戻る方が正しいに決まっているだろうが」

レーゼフェアは影の触手を使って左腕を持ち上げ、そして上腕に繋げて修復した。アイツも武装を失くせば戦意も喪失するだろう。俺は「返してほしかったら退け!」と、アイツの右腕を使ってバイバイしてやる。

「あったまキタ! シュヴァリエルに勝ったからって調子に乗ってると、絶対に痛い目に遭うから!!」

照明がパンパンッ!と音を立てて割れていき、室内が一気に暗くなった。レーゼフェアは何もしていない。なら「新手か・・・!」魔力球を10基と創り出して、影が出来ないように計算、そして配置して室内を明るくした、その瞬間・・・

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

「っ!!?」

それは起きた。この施設の入口へ続く通路の奥から目にも留まらない速さで何かが飛来して来た。ソレは俺の右手を掠め、「しまっ・・・!」持っていた“エオフェフ”を弾き飛ばし、「ゲットだぜ♪」レーゼフェアの手に戻ってしまった。

――粉砕せし風爆(マーシレス・フラワー)――

さらにソレは飛来し、俺が創り出した照明代わりの魔力球に寸分違わず着弾、ドォン!と轟音を立てて粉砕した。この魔力、そしてあの魔術・・・間違いない。ここに来て予想だにしなかった事態が起きてしまった。まさかお前までもが、ここに姿を現すなんて思いもしなかったぞ。

「フィヨルツェン・・・!」

シュヴァリエルと同じ風嵐系だが、機体特性としては狙撃型の中遠距離系というコンセプトだ。大戦中はレーゼフェアと組むことが多かった。失念していたわけじゃない。ただ、ベルカで最初に遭遇して以降、この子たちは1対1の戦闘を仕掛け続けて来ていた。確かにザンクト・オルフェンではシュヴァリエルとレーゼフェアが協力していた。しかしフィヨルツェンは現れなかったから、てっきりレーゼフェアとフィヨルツェンは完全に別行動をしているかと・・・。

(くそっ! 完全に油断していた・・・!)

――舞い降るは(コード)汝の煌閃(マカティエル)――

――粉砕せし風爆(マーシレス・フラワー)――

「くぅぅ・・・!」

――黒き影拳乱舞(ポワン・タンペット)――

光槍を展開したその瞬間に暴風の矢で破壊されてしまった。そこに「そらそらぁ!」レーゼフェアの攻撃、影の拳による弾幕が張られた。回避のために室内を飛ぶんだが、風の矢がさらに何十本と連射されて来た。“エヴェストルム”で迎撃はしても、「うぐぅぅ!」その物量の所為で思うように飛び回れない。

「あっはは♪ 調子に乗った罰だよ神器王!」

――血肉を求む伝道者の凶つ剣(ミシオネール・クリュエル)――

影ばかりが多くなってしまった部屋は今やレーゼフェアの独壇場。壁に出来ているちょっとした小さな影から黒い刃が十数本と突き出して来た。

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

それらを回避した直後に「ぐぁぁぁぁ!」フィヨルツェンの風の矢が俺を襲った。咄嗟に対魔力障壁・ケムエルを発動したことで直撃は免れたが、その衝撃には逆らえずに壁に叩き付けられてしまう。

「ほらほらぁっ! さっさと逃げないと真っ二つだぞ♪」

俺を斬り、貫き、断とうと影の刃が蠢いては迫り来る。急いで壁から離れ、反撃として「ゲルセミ!」をレーゼフェアへと放てば・・・

――連翔せし荒鷲(チェインズ・ガスト)――

鎖のように連なった複数の風の矢が砲撃の横っ腹に着弾した。矢は、圧縮された魔力の塊である砲撃を吹き飛ばすほどの圧倒的な爆風と化した。ならばと砲撃を連射すると「またか・・・!」フィヨルツェンも連なる矢を連射して迎撃して来た。

――黒き閃光放つ凶拳(ソワール・エロジオン)――

そこにレーゼフェアからの闇黒系魔力の砲撃。それに影の刃の包囲攻撃。回避さえすればどうってことはないが、こちらが攻撃をしようとして魔力槍を展開したり、砲撃を撃てば、「チィ・・・!」フィヨルツェンが百発百中で迎撃してくる。

(ジリ貧だ・・・! レーゼフェアは後回しだ!)

標的をレーゼフェアからフィヨルツェンへと変更する。最早撤退させるという選択肢は無くなった。クイントさん達に追いつくための最速の方法は、あの2機を速攻で救うことだ。2機の攻撃を機動力を活かして回避し続ける中「我が手に携えしは確かなる幻想・・・!」詠唱。

「ジュエルシード、ナンバー20!」

”神々の宝庫ブレイザブリク“より取り出すのは、対“エグリゴリ”戦でのブースターとなるジュエルシード。ソレを魔力炉(システム)に取り込んで魔力をドーピングする。

――女神の聖楯(コード・リン)――

俺の前面に女神が祈る姿が描かれ円形の盾・エイルを展開して、通路へと向かって急降下。レーゼフェアが「あ・・・!」俺のその行動に驚きを見せた。通路には未だに影の塊があるが、フィヨルツェンからの攻撃を通すために穴がちゃんと開いている。そこに砲撃の「ゲルセミ!」を6連発射。影が防ごうとするが、属性ではこちらが有利なため消し飛んでいく。

「お前にはこれをプレゼントだ!」

――復讐神の必滅(コード・ヴァーリ)――

カートリッジをロードしてさらに魔力を増加したうえで、カウンター砲撃のヴァーリを8連射。術者である俺に敵対して攻撃を加えた対象を永続追尾する無属性砲撃だ。しかも相手の迎撃をオートで回避する特性もある。さらに転移術式・影渡りが出来ないように照明代わりの魔力球をバラ撒く。レーゼフェアは「うげぇ!」砲撃と追いかけっこを始めた。

「待っていろ、フィヨルツェン!」

通路の影を消し飛ばし、通路内に進入した直後・・・

――掃討猟蛇(ミュート・スレイヤー)――

風で出来た蛇型の矢が8本と飛来したがリンの防御力には敵わず、着弾と同時に掻き消える。俺は魔力球を通路内にバラ撒き、レーゼフェアが転移して来れないように対策を打ちつつ「見つけたぞ・・・!」フィヨルツェンの姿を視認した。
チェスナットブラウンのロング(以前はセミロングだったのに。伸びたのか?)、ブロンズレッドの柔和な瞳、赤紫のブラウスに黒のベスト、黒ネクタイ、黒のプリーツスカート。あの頃から変わらない出で立ちだ。そして手には装飾の施された2m近い大弓型神器・“天弓ハガウル”が握られている。

「お久しぶりです、神器王。良い機会だということで、わたくしもこうして御挨拶に上がりました」

――嵐槍百花(クライシス・エア)――

ドリル状の暴風の矢を射るフィヨルツェン。耳をつんざくほどの音を立てながら暴風の矢は迫り、前面に展開している盾・リンに着弾。その風圧で押し返されそうになるも「破壊は出来まい!」俺とリンは暴風の矢を真っ向から防ぎ切った。

――戦滅神の破槍(コード・ヴィズル)――

縦3m・幅5mほどの通路いっぱいに雷撃系砲撃・ヴィズル6本による壁を作る。フィヨルツェンにはソレを防ぐことが出来るだけの装甲はない。第一世代・ブリュンヒルデ隊の中で一番脆いのがアイツだからだ。ステアの神器と魔術の直撃を与えれば、先にダメージを与えて弱めるまでもなく勝てるはずだ。

――貫砕せし飄風(ディクライン・ブラスト)――

砲撃の壁を貫いて大きな穴を開けたのはランスのような長矢。矢に纏わりつく複数の風の渦は、魔力結合を力尽くで掻き乱して暴発させる効果を持つ。フィヨルツェンの矢の中でも対魔力攻撃・障壁に優れた一撃だ。だが・・・

(もうお前の頭上だ!)

リンを犠牲にして魔力爆発や発生した放電、煙を隠れ蓑にして俺はフィヨルツェンの頭上へと移動し終えていた。“エヴェストルム”を連結し、さらにカートリッジをロード。そして魔力刃による直接斬撃をお見舞いしようとしたその時・・・

――フランメ・ドルヒ――

目の前が炎に満ちた。攻撃態勢に入っていたことがまずかった。炎熱系の攻撃をモロに食らった俺は「ぐぁぁぁぁ!」着弾時の爆炎と爆風で吹き飛ばされ、ごつごつとした洞窟の壁に叩き付けられてしまった。

「ぅ・・・ぐ・・・、今のは・・・!?」

頭をかなり強く打ったために視界が揺らぐし、体が意思通りに動かせない。“エヴェストルム”を杖に、空いている右手で頭に触れるとヌルっとした。見れば真っ赤な血がベッタリと付いていた。それに内臓を痛めたのか、「ごぶっ・・・!」込み上がってきた血を吐き出す。

「わたくしだけだと思い込んだのが失敗でしたね神器王」

「ふっふっふ~♪ 僕とフィヨルツェンだけじゃなかったんだよ」

「レーゼフェア、フィー姉ちゃん! あたし、良い仕事した?♪」

フィヨルツェンの後ろ髪の中から30cmほどの少女が出て来た。紅の長髪は4つの房に結われ、紫色のツリ目、尖った耳、腰から生えた一対の羽。先の次元世界と同じ露出の激しい服装。そうか。アイリがシュヴァリエルから聴いていた、“エグリゴリ”の誰かが有しているという話は事実だったんだな。

「アギト・・・!」

俺に攻撃を仕掛けたのは紛れもないアギトだった。俺が彼女の名前を呼ぶと、「あんたさ、誰だか知んないけどさっきから何なのさ」アギトは不快そうに顔をしかめた。

「っ!?・・・レーゼフェア、アギトに何をした・・・!」

「えー? ちょろっと記憶をイジっただけだよ? ベルカの頃の記憶はどっか行っちゃったかも♪」

「なっ・・・!」

じゃあアギトは俺のことを本当に憶えていないというのか。いや、ベルカの時と言うのであれば俺だけでなくシグナム達のことも。アイリの時みたく、ただ捕まっているだけかと楽観していた俺をぶん殴ってやりたい。

「なぁ、レーゼフェア。何の話してんだよ?」

「アギトは気にしなくていいよ。さ、僕たちからアギトを奪おうとするあの悪者をやっつけるよ」

「あたしを・・・奪う? 敵か!」

敵意をむき出しにするアギトに、「違う! 俺は! アギト!」そう言うが、「アギトって名前はレーゼフェアに付けてもらったんだ! 馴れ馴れしく呼ぶな!」怒鳴り返されてしまった。

「アギト。わたくしとユニゾンを」

「おっしゃ! フィー姉ちゃんとあたしの相性はなかなかだからな!」

フィヨルツェンとアギトが手を取り合い、「ユニゾン・イン!」ユニゾンを果たした。一瞬の発光の後、フィヨルツェンのブラウンの髪色がシグナルレッドへと変わり、瞳の色はブロンズレッドからピンク色へと変わった。

――高貴なる堕天翼(エラトマ・エギエネス)――

さらにフィヨルツェンの背より展開されたた20枚の魔力翼は、アギトとのユニゾンの影響か真っ赤に燃える炎の翼と化していた。

「そういうわけですので、わたくし達の反撃です」

――粉砕せし風爆(マーシレス・フラワー)炎花(ホムラ)――

「残念でした」

――昏き淵より手招く罪深き聖域(サンクテュエール・コンフェッシオン)――

「くっっそぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

迫り来るレーゼフェアとフィヨルツェンとアギトの攻撃に、俺は現実を受け入れられずに叫んだ。

「――・・・っ!? はぁ! はぁ! はぁ! はぁ・・・!」

そして、気が付けば俺はベッドの上に横たわっていた。真っ白な天井が真っ先に視界に入った。

「はぁはぁはぁはぁ・・・! ここは・・・? 俺は・・・?」

事情を呑み込めない俺は上半身を起こし、そしてここが「病院・・・?」であることが判った。左腕には点滴のチューブ、胸には心電図と繋がったコードが付けられ、衣服はもちろん病衣。あと頭や右腕、腹には包帯が巻かれていた。しかし一番の問題は・・・

「視界が・・狭い・・・?」

左目の視界が暗闇に閉ざされていた。包帯か眼帯かの所為かと思って手で触れてみるが、そんな物は無かった。もちろん目は開いている。しかし見えない。左目の視力が・・・死んでいた。

「はは。焦ることないじゃないか。以前にもあっただろう、俺・・・。女神の祝福(コード・エイル)・・・!」

先の次元世界でも、また別の契約の時でも視力を失うことはたびたびあった。だからそれで騒ぐような真似はしない。とりあえず死以外の状態異常を回復させる上級の治癒術式・エイルを発動する。全身に負ったダメージは回復していくのが判るが、「あれ?」視力が回復することはなかった。さらにもう一度発動してみても、やっぱり治らない。となれば、ダメージによるものではなく、何かしらの神器の効果。

「レーゼフェアの仕業か・・・!」

アイツは神器作成能力を得ていた。俺の知らない神器を造り、その効果で俺の視力を殺した可能性も十分すぎるほどあった。しかしエイルで治癒できないとなると、かなり高ランク。ならば目には目を、神器には神器を、だ。

「我が手に携えしは確かなる幻想・・・!」

創世結界・“ブレイザブリク”にアクセスするための呪文を詠唱する。だがアクセス出来なかった。

「・・・は? 我が手に携えしは確かなる幻想!我が手に携えしは確かなる幻想!我が手に携えしは確かなる幻想!」

詠唱を繰り返すが、“ブレイザブリク”だけでなく“英知の書庫アルヴィト”・“英雄の居館ヴァルハラ”・“聖天の極壁ヒミンビョルグ”、他3つの創世結界にもアクセス出来なかった。創世結界が使えなくなってしまっていた。

「・・・・」

こればっかりは人間だった頃はもちろん、“界律の守護神テスタメント”となって約2万年の中で初めての体験だ。頭の中が真っ白になる。これまで当然だった創世結界。それが使えない。俺を魔術師として支えていた柱の1つが・・・折れた。

「・・・そうだ。クイントさんは? 騎士ゼスト、メガーヌさん達は・・・!?」

現実逃避するように思考内容をクイントさん達のことに変えた。ここで眠っているということは潜入捜査は終わっていることを意味する。俺は無様を晒してしまったが、騎士ゼスト達はどうなった。情報を仕入れようとした時・・・

「あ、ルシリオン君!」

「っ! リンディ提督・・・!?」

私服姿のリンディさんが病室に入って来た。遅れて「良かった。目を覚ましたんだね!」同じように私服姿のエイミィが入って来た。

「あ、あの! 俺は一体! 首都防衛隊のみんなは!」

ベッドから降りたら「っ!?」思った以上に両脚に力が入らず、へたり込みそうになったが「無理しちゃダメよ!」リンディさんに抱き止められた。

「ありがとうございます、リンディ提督。あの、俺なんかのことより首都防衛隊のみんなは!」

「「・・・・」」

俺の問いに、リンディさんとエイミィは無言を返した。やめてくれ。そんな表情をしないでくれ。それじゃまるで・・・

†††Sideルシリオン⇒すずか†††

あのクイントさんが・・・亡くなった。ドクター・プライソンのアジトだっていう施設に潜入捜査を行った首都防衛隊9名の内、7名が死亡、1名が意識不明の重体、1名がMIA(Missing in actionの略で、行方不明を差す)っていう状況。そして、査察官として同行したルシル君も、意識不明の重傷で発見された。
その事を知ったのはチーム海鳴のみんなで、私のお家の別荘でバーベキューをしていた時。最初はシグナムさんやシャマルさんの大人組にだけ知らされたんだけど、はやてちゃんが2人の様子を訝しんで問い質したことで判った。そして、クイントさんの殉職、メガーヌさんのMIA、面識はないけど防衛隊隊長のグランガイツ一尉の危篤を知った。
その2日後の今日、私たちチーム海鳴は、ミッド西部エルセア地方にて行われてるクイントさんの葬儀に参列してる。近くの教会で葬儀を終え、これからここポートフォール・メモリアルガーデンで埋葬となる。

「おかーさぁーん!」

「ぅ・・・っく・・・」

スバルちゃんの大きな泣き声が止まない。教会での葬儀から墓地での埋葬までずっと泣いていて、ギンガちゃんも教会では大きな声で泣いていたけど、ここに移動してからは堪えてる。その懸命さが逆に痛々しくて、見てる方が苦しくなっちゃう。
そして棺は墓碑の手前に掘られた穴に納められて、土が被せられ始める。私たちや他の局の関係者は敬礼でそれを見届ける。スバルちゃんの鳴き声はさらに大きく、ギンガちゃんもまた声を上げて泣き始める。クイントさん達の仲の良さを知ってた私も、堪え切れずにボロボロ涙を流す。そうして埋葬が終わって、参列者が去って行く中・・・

「ん?・・・ちょっ、ルシル君・・・!?」

はやてちゃんが声を上げた。はやてちゃんの視線の先、そこには剣翼を背にして、ゆっくりと地上に降り立とうとしてたルシル君が居た。シャマル先生が「病衣のままで何してるの!?」驚きと怒りが混じった声でルシル君に駆け寄った。

「ルシル、あんた! 点滴の管を付けっぱなしじゃない!」

ルシル君は入院時に着る服のまま、さらにはアリサちゃんの言うように点滴のチューブを腕に付けたまま。明らかに病院から抜け出して来てるのが判った。

「俺のことはいい! ・・・・クイントさん・・・。本当に・・・!」

集まった私たちを掻き分けるようにして、ルシル君はフラフラな足取りでクイントさんの墓碑に向かって行く。そんな時、「・・・つき・・・」背を向けたままのスバルちゃんが何かを呟いた。

「・・・うそつき・・・」

ナカジマ一尉が「スバル・・・?」声を掛けた瞬間、「うそつき!」スバルちゃんがハッキリとそう言った。

「うそつき! 一緒に帰って来るって言ったのに! おかーさんは大丈夫って言ったのに! 約束したのに! それなのに・・・!」

私たちに振り返ったスバルちゃんは、クイントさんの遺体(正確には両腕と両足だけで、胴体は無い)が収められた棺を埋葬したばかりの土を両手で掴んで「うそつき!」ルシル君に投げ捨てた。ナカジマ一尉が「スバル!」怒ってやめさせようとするけど、「うそつき! うそつき!」スバルちゃんは言うことを聴かずにルシル君に土を投げ捨て続ける。

「ルシルさんなんて・・・だいっキライ! うそつきなんてだいっキライ! うそつき! かえしてよ! おかーさんをかえしてよっ! かえしてよっ! 約束したんだからかえせ!」

スバルちゃんから怨嗟の声、そして土がルシル君に浴びせかけられ続ける。私たちの目に映るルシル君の背中はとても小さくて、今にも消えてしまいそうなほどに弱々しくて。

「スバル! 坊主を責めるのはよせ! 坊主だって一生懸命戦ったんだ! どうしようもねぇことだってある!」

とうとうナカジマ一尉がスバルちゃんを羽交い絞めにした。ギンガちゃんはルシル君とスバルちゃんとナカジマ一尉をオロオロと見回して混乱してる。ナカジマ一尉の腕の中で暴れてたスバルちゃんは抵抗を止めると「・・・ねば・・・んだ・・・」何かを呟いた。

「・・・し・・・よかっ・・・。しねば・・・たんだ・・・。おかーさんの代わりに・・・ルシルさんが・・・死ねばよかったんだ!」

「っ!! スバルっ!」

スバルちゃんを乱暴に放したナカジマ一尉が手を振り被って、スバルちゃんを叩こうとした時、「っ!!」スバルちゃんを庇ったルシル君が代わりに頬を叩かれた。その衝撃で張られていたガーゼが剥がれて宙を舞った。

「坊主!?」

「怒らないであげてください一尉。これは・・・俺の贖罪です・・・。ごめん、スバル、ギンガ、一尉。約束を守れなくてごめん。クイントさんを護れなくてごめん。・・・ごめんなさい」

土下座をしたルシル君が「ごめんなさい」謝り続ける。私は、なのはちゃん達もそんなルシル君を見ていられなくなって目を逸らした。苦しい。親しかった人の死が、親しい友達のあんな姿が、親しかった友達の罵声が。苦しくて、悲しくて、涙が止まらない。

「やめろ、坊主! 子供がそんなことしちゃいけねぇ! ギンガ、やめさせろ!」

「っ! あ・・・あ・・・、ルシ・・・あ・・・?」

そう言われたギンガちゃんがオドオドとルシル君に近寄ろうとした時、いきなりバタッと倒れ込んだ。

「ギンガ!?」「おねーちゃん!?」

「ギンガ・・・?」

「シャマル!」

「あ、はいっ!」

ナカジマ一尉とスバルちゃん、それにシャマル先生が倒れたギンガちゃんの元へ駆け寄る。私たちも駆け寄って、「もうよせ、ルシリオン!」シグナムさんはルシル君を無理やり立たせた。

「大丈夫です。感情が追いつかなくて気絶しちゃったみたいですけど・・・。倒れた場所が柔らかな場所でしたし、怪我もありません」

「・・・そうかい。すまねぇな、先生」

「おねーちゃん・・・」

ホッとするんだけど、ルシル君のこともあって素直に喜び合えない空気。ナカジマ一尉は「坊主。あとで時間をくれ」そう言ってギンガちゃんを背負った。

「嬢ちゃん達も今日はありがとな。嬢ちゃん達に見送ってもらって女房も喜んで逝けただろうよ。嬢ちゃん達の大ファンだったからな」

ナカジマ一尉の微笑みに私たちは「はい・・・」と頷くしかなかった。そしてナカジマ一尉たちも帰って、墓地には私たちチーム海鳴だけが残った。

「ルシル君・・・」

「いいんだよ、これで・・・。恨んでくれないと、憎んでくれないと・・・逆に辛い・・・」

「・・・病院に戻ろう? ルシル」

はやてちゃんとシャルちゃんがルシル君の腕を胸に抱いた。それからルシル君ははやてちゃん達八神家とシャルちゃんに連れて行かれるように病院に戻って、私たちは先に海鳴市に戻ることになった。
 
 

 
後書き
ブエノス・ディアス。ブエナス・タルデス。ブエナス・ノーチェス
はい。アジト捜査編が終わりました。レーゼフェアとフィヨルツェンのタッグだけでなく、レーゼフェアに記憶を弄られてルシルやシグナム達のことを忘れたアギトが、ガチモードのルシルをボコりました。さらには創世結界に関する術式をも全て封じられ、レーゼフェアのある手段によって左目死亡という結末。悲惨ですなぁ。
続けてルシルを追い込むのは、スバルの幼さゆえに罵声。死ねばよかった、というのはやり過ぎたような気はしますが、ルシルにはとことん追い込まれてもらいましょう。
次回からも、もしかしたら鬱展開が続くかもしれないですね。本来なら日常編を挟むんですが、そんな余裕は無いですから。
 
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