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ブットネーラ

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第五章

 皆と別れて家に帰ったと思った時は朝だった、それでかろうじて二日酔いではないがかなり酒が残っている顔でだ。
 まだ祭りの服を来たままでリビングまで来るとだ、朝御飯を用意している母にこんなことを言われた。
「今日はよかったわね」
「飲んで食べてきたわ」
「いい子も見付けてきたし」
「いい子って?」
「覚えてないの?あんた昨日アントニオ君に運ばれてきたのよ」
「アントニオって」 
 幼馴染みだ、成績優秀で地元の進学校に通っている、将来は学校の先生か銀行員かと言われている。性格は大人しく紳士だ。
「あのアントニオ」
「そう、あの娘が肩に担いでね」
「私を送ってくれたの」
「あんた遊んだ後覚えてる?」
「ええと、皆と別れて」
 その時までは覚えているが。
「そこから先は」
「覚えてないのね」
「何かそこからまだ食べようと思って」
 昨日の記憶を辿りながら話す。
「ソーセージ買ってワインをまた飲んで」
「そこから先は?」
「覚えてないわ」
「そこで泥酔しててふらふらになって歩いてたのよ」
「危なかったわね」
「十代の女の子が一人で酔ってるとかね」
「そうよ、危なかったわよ」
「そうよね」
「そう、それでね」
 だからというのだ。
「そこにアントニオ君が通りがかって」
「私を家まで送ってくれたの」
「肩に担いでね」
「そうだったのね」
「わかったらお礼言いに行きなさい」
 そのアントニオにというのだ。
「そしてこれも何かの縁だから」
「アントニオにっていうの」
「考えてみなさい」
「そんなのないわよ、とにかくアントニオには助けてもらったから」
 それでと言うマリアだった。
「まずは制服に着替えて朝御飯食べて学校に行って」
「その帰りになのね」
「アントニオのお家に行ってお礼言うわね」
「そうしなさい、何はともあれね」
「それじゃあね」
「ブットネーラがあんたにいいもの授けてくれるわよ」
「そんなのないわよ」
 女神の恩恵のことは信じないままだ、マリアは。
 実際に制服に着替えた、服は乱れておらず特に汚れてもいないのでそのことに安心してだった。学校の制服に着替え。
 そしてだ、朝御飯を食べてだった。
 登校して学校帰りにだ、アントニオの家まで行くと自分より三十センチは高いがひょろ長い眼鏡の少年が出て来た。
 その彼アントニオにだ、マリアは昨日のお礼を言って。
 ものでのお礼として喫茶店に誘ってコーヒーをご馳走した。するとそれがはじまりになってだ。
 彼との交際がはじまって彼が学校の先生になった時に結婚した。十代の結婚ではなかったが。
 その比較的早い結婚にだ、ジュリエッタは笑ってウェディングドレスの娘に言った。
「やっぱりいいブットネーラ買ってよかったわね」
「信じられないことね」
 マリアはその純白のドレス姿で母に返した。
「まさかこんなことになるなんて」
「全ては女神様の恩恵よ」
「その言葉信じるしかないわね」
 苦笑いになって言うマリアだった、その胸には今もブローチがあった、金色の女神のブットネーラがしっかりと。


ブットネーラ   完


                           2016・1・28 
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