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ブットネーラ

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第三章

 学校では友人達と、家では母とそれぞれ祭りの時にどうするかを話しながらだった、マリアはその祭りの時を待っていた。
 その祭りの前日にだ、父のエーリオットは仕事が帰ってからマリアに言った。
「買ってきた服だけれどな」
「どんな服なの?」
「今から出すからな」 
 その娘への祭りに備えてのプレゼントをというのだ。
「ちょっと着て来い」
「それで見せてみろっていうのね」
「ああ、俺と母さんにな」
「ええ、見せてくれるかしら」
 ジュリエッタも娘に言う、最近腹が出て来ているがまだまだダンディな外見の夫の横で。
「お祭りの時の晴れ姿ね」
「じゃあね」
 マリアは母の言葉に頷いてだった。
 それでだ、父からその服を受け取ってだった。
 一旦自分の部屋に入って着替えた、そうして。
 両親の前に出た、すると両親は目を見張って言った。
「これはな」
「いいじゃない」
「似合うと思って買ったがな」
「お父さんのセンスが光るわね」
 こうそれぞれ言うのだった。
「これなら祭りにも出られるな」
「いい相手見付けられそうね」
「お母さんが言ってることはともかく」
 それでもと言うマリアだった。
「今の私の格好そんなにいいの」
「ああ、親が言うから間違いない」
 これが父の返事だった。
「そのまま舞台にも出られるな」
「それどんな舞台?」
「愛の妙薬だな」
 ドニゼッティ作曲のオペラだ、村のかなり頭が足りない青年が村一番の可愛い娘に恋をして、というハッピーエンドの喜劇だ。
「それにもな」
「村娘ってことね」
「ああ、最高の村娘だ」
「ここ街だけれどね」
 サルディニア島の中のだ。
「それでも村娘なのね」
「最高のな」
「そうなのね、今の私は」
「ちょっと鏡で見てきなさい」
 母が娘にこう言って来た。
「かなりいいから」
「それじゃあね」
 母のその言葉に頷いてだ、実際にだった。
 マリアは洗面所まで行って今の自分の姿をチェックした。
 そしてだ、自分で目を見張ることになった。
 白い袖のところがひらひらとして刺繍まで入るったブラウスに縁やポケットのところが華やかに金糸で刺繍で飾られたベスト、その下にフリルが目立つ白い胴衣であるボティスがある。首にはブットネーラという女性の乳房の形のブローチがあるがこれも金色で赤と金色のそれぞれのネックレスも飾られている。手首のところには鈴もある。
 靴は黒でスカートはくるぶしのところまであり赤が基調だが端のところは横に金色のラインが二つ入りそのラインの中に白いエリアがあり赤い花々が緑の葉と共に並べられている。スカートの上のエプロンも同じだ。
 頭には白いヴェールがある、そして頭にも金色の飾りやイヤリングがある。その姿を見てだった。
 マリアは自分の髪型を変えてみた、普段は伸ばしているだけの髪を左右で三つ編みにしてみたのだ。そして。 
 その格好で両親のところに戻ってだ、こう言った。
「いいじゃない」
「そうだろ、この服はな」
「この島の民族衣装ね」
「ああ、そうだ」
 その通りだとだ、父も娘に答えた。
「この服がいいと思ってな」
「私に買ってくれたのね」
「一番高かったのはな」
 エーリオットはマリアにさらに言った。
「ブットネーラだったんだよ」
「このブローチなのね」
 それを手に触れてマリアも言う。 
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