ミーデル
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第三章
「隣国だからな」
「まあそれは仕方ないな」
「デザートの林檎もあるな」
「ウィリアム=テルだな」
子供の頭の上に置かれていたそれである。
「あれ本当は違うらしいけれどな」
「実際ハプスブルク家の統治って酷くなかったらしいな」
「あんな圧政じゃなかったらしいな」
「それであの話もな」
「本当はなかったらしいな」
あまりにも有名なウィリアム=テルの物語もというのだ。
「その話は」
「伝説は伝説か」
「そういうことだな」
ウィリアム=テルの話もしていた、二人は。
そしてその二人にだ、コンダクターの前川美紀さんが言ってきた。美紀という女性的な名前だがれっきとした中年の男性だ、背は一七〇程で猫顔である。
「今日の晩は楽しみにしておいて下さいね」
「夕食はですか」
「その時は」
「はい、名物料理です」
こう二人に話すのだった。
「フォンデュです」
「チーズフォンデュですか」
「それですか」
「はい、熱いチーズの中にパンとかを入れて」
そしてというのだ。
「食べるあれです」
「スイス料理の代表ですね」
「それですか」
「はい、それですから」
だからという前川さんだった。
「楽しみにしておいて下さい」
「ううん、まあそっちは」
「楽しませてもらいます」
「ここだけの話ですが」
今ツアー客達が入っている店の中を見回してからだった、前川さんは二人に顔を近付けて囁いたのだった。
「スイスは料理は今一つですね」
「まあそれは」
「何といいますか」
「けれどそのお店のフォンデュは絶品ですから」
だからだtいうのだ。
「楽しみにしておいて下さい」
「わかりました」
「じゃあ晩御飯はです」
「期待させてもらっています」
「そちらは」
「それまでは景色を見て」
そしてと言うのだった。
「楽しんでもらいますので、あとお土産のお店にも行きますよ」
「スイスのお土産ですね」
「っていいますと」
「はい、時計です」
これまたスイスの代名詞だった、アルプスの少女やフォンデュと並んで。
「スイス時計をどうぞ」
「そうですか、ただ」
「スイスの時計は高いですよね」
有名なだけあってとだ、一介の大学生に過ぎない裕行と信彦は微妙な顔になってそのうえで言うのだった。
「やっぱり」
「そうですよね」
「いえ、安いものもありますから」
スイス時計でもというのだ。
「安心して下さい」
「じゃあ安いの買わせてもらいます」
「そうした時計を」
「はい、そうされて下さい」
夕食のフォンデュまではとだ、こう話してだった。
二人はその質素な昼食はパンはともかくチーズやワインはそれなりに楽しんでだった、そのうえでだった。
景色を見て回って時計も土産物として安いものを買った。そして。
夕食のレストランに入った、そこは。
如何にもスイスならではの木造りのログハウスを思わせる店だった。その店の中に入ってだ。
裕行と信彦は二人で自分達の席のフォンデュが用意されていくのを待った、その時に。
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