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幻に潜む英雄譚

作者:ぷる之介
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二話

 転生して七年後、青年だった彼は少年と戻り、騎士の名家『京極家』の長男――京極 八雲(きょうごく やくも)として生を受けた。
ここで言う騎士とはいわゆる伐刀者(ブレイザー)のいい変えで、己の魂を固有霊装(武器)として顕現させ、魔力を用い、異能の力を操る千人に一人の特異存在の人たちのこと。それ故に社会的責任は重いが、代わりに元服制度が適用され、15歳で成人となり、飲酒や結婚などが認められている。

 京極家以外にも名家は多数あり、世界で最も有名な名家は、日本を第二次世界大戦の勝利国へと導いたサムライ・リョーマの血筋――『黒鉄家』、剣聖の血筋――『黛家』、そして幻の睡蓮華の血筋――これが八雲の血筋に当たる『京極家』だ。
 他にも闘神『南郷 虎次郎』と呼ばれる抜き足の達人もいるが、どちらかというとこの人は名家じゃなく弟子をとるタイプであるため、名家としてカウントはされない。

 そんな世界的に有名な名家に転生した八雲だったが、八雲は名家を利用しての出世街道まっしぐらという甘い考えを持ち合わせていない。いや、転生する際にその考えを捨てた。甘えきった考えと生活は、前世で散々としてきた。今までは才能で今後の人生が決まると思っていたが、この世界の住人は才能が無くても己の努力次第でどこまでも高みへと上ることができる、いわば努力主義の世界なのだ。
 たとえ才能が無くても強くなれるし、才能がある物たちも努力するためさらに強くなる。ならば『天』に立つことを誓った八雲が甘い考えを捨て、誰よりも努力するのは必然のこと。
 幸い、八雲には未だ不明ではあるが伐刀絶技(ノウブルアーツ)も、魔力量Bという伐刀者(ブレイザー)の平均魔力量以上の魔力を保有している。さらに剣術を修業する場所をも存在する。

 だがそれすらも八雲は『甘い考え』と思い込み、剣術を誰かから教わることはなく、自分で京極家の者たちの修業風景を観察し、真似る様に剣を振り続けた。
伐刀絶技(ノウブルアーツ)の修行なんてもっての外、どうせ干渉系なのだから使うつもりなど毛頭なかった。


 しかしそれが、八雲を『京極家の空け者(うつけもの)』と呼ばれる原因となった。魔力量が平均以上あった八雲を皆が期待していたが、あまりに我儘すぎるその考えゆえに、京極家の者たちは誰も八雲に構わなくなった。


 唯一、彼の両親を除いて――






◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 雪がしんしんと降る森の中で、月の光に照らされながら黒髪黒目の年相応の幼い顔の少年が、身の丈ほどの刀を握ってひたすら振り続けていた。上から下、上から下へと、剣術の基礎となる素振りをひたすらこなしていた。

 なぜ八雲が夜の森の中、しかも天候も悪い時にこうしてたった独り、刀の素振りをしているのか。
剣術の修行をしているといえば簡単かもしれないが、実際はこの素振りという一個の基礎鍛錬の中に、あと数個の基礎鍛錬を同時に行っているのだ。
 転生する際、八雲は甘い考えを捨て一切の妥協無く努力し、『天』に立つことを神の前で宣言した。それ故、八雲が考えに考え抜いた修業方法が゙これ゙なのだ。

より効率よく修業するために、より質と数をこなすために、八雲は敢えて『師』を拒んだ。

 剣術の基礎となる素振りをすることは勿論のこと、剣術を学ぶために八雲は毎日毎日、京極家が行っている剣術道場をひたすら観察し、その道場の門下生および師範代の剣術を見て『盗んで』いるのだ。
つまりこの修業は、相手の情報を瞬時に解析するための『観察眼』を手に入れるための鍛錬であり、そして観察した剣術を瞬時に模倣するための鍛錬でもあった。

 その努力のおかげで、今ではとても七歳の少年が放つとは思えない鋭い一撃を放つことができるようになった。

「ラスト、二千ッ! ……ふぅ。やっぱ疲れるな、この身体じゃ」

 二千本の素振りを終えた八雲は、汗を吹きながら自分が子供であることを再び実感した。

「やっぱもう少し成長してから修業するべきだったかな……。いや、だめだ! 頂点を目指す俺がそんな甘いことを言ってはいけない! これからもっと強くならないといけないんだからな、うん!」

 やたらとデカい声で自問自答をしながら、八雲は明日の方角を見た。
また一段と強くなるという決意をして。

「そろそろ帰るか。明日は早いし……って、あと三時間しか寝れないじゃん!? ドジったぜ……」

 手に持っていた自身の固有礼装――『鏡花水月(きょうかすいげつ)』を消して、八雲は早急に実家の方へと下山した。

 なぜなら明日は、日本屈指の名家『(まゆずみ)家』が京極家に模擬戦をするために来るのだ。
なぜ名家の者同士が模擬戦をするのかは分からないが、少なくとも八雲の記憶には『京極家』も『黛家』も原作には登場しなかった。
 つまり、両家は転生者が現れたことによって新たに描かれた設定と言うことだ。そして新たな設定である以上、八雲と同じように黛家にも転生者がいるということだ。あくまで推測ではあるが、恐らく違ってはいないだろうと八雲は思っている。

「へへっ、どんな奴か楽しみだぜ!」

 嬉々としながら下山する少年だったが、彼はすでに忘れていた。


自分が京極家の中で『空け者』と呼ばれていることを。


そう、京極家から嫌われている八雲には、家名を汚す危険人物として模擬戦の参加を認めてもらっていなかったのだ――。

















  
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