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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第8話 アウトローに主夫が征く

 翌日。
 冬馬はある女の子たちとのデート(個人的な用事)で出かけており、今回の衛宮邸の御泊りは自動的に終わり、準もまたある幼子たちを見守る時間(個人的な用事)で出かけており、以下略。
 大河は友人の店へ遊びに行き、スカサハは認識阻害のブローチを未だに作成中だ。
 そして残った士郎と小雪と言えば、近くのデパートに来ていた。
 実を言えば士郎は行く所があり、この買い物後に直行で行くのだが、それを小雪が自分も付いて行くと駄々を捏ね始めたのだ。
 今日士郎が行く所はそれなりに危ないので、付いて来るなと拒否の姿勢を何度示しても付いて行くと延々と駄々を捏ねる小雪に根負けして、許可してしまったのだ。
 因みに、買っているのは全て食材だ。

 「シロ兄ぃ、これこれ!シロ兄ぃが作った餃子程じゃないけど、味の的(あじのまと)の餃子美味しいんだよ!」
 「分かった分かった、買うから跳ねるな。あんまり跳ねると他のお客に迷惑だし、スカートが捲れるぞ?」
 「シロ兄ぃ、次はこっちこっち!」
 「聞いてないな・・・」

 小雪は、士郎と一緒に買い物に来れるだけで嬉しそうにはしゃいでいた。
 一方士郎と言えば、小雪と買い物に行くたびに振り回されているが、それはそれで楽しそうだった。


 -Interlude-


 食品食材を大量に購入した士郎と小雪は現在、神奈川県川神市内の某所に来ている。
 そこは大量の不良廃棄物や、大型の粗大ごみが幾つも山のように積み上げられているアウトローたちが好んでいる場所だった。
 そんな場所で士郎は両手を買い物袋で塞がれても直、堂々と歩いていた。
 そして小雪は士郎に言われた通り、離れずに付いて行く。
 だが予想通りと言うべきか、小雪の可愛さに惹かれるように周辺で(たむろ)っていた有象無象共が集まって来た。
 けれど、あくまでも遠巻きに見ているだけだ。
 理由は単純明快、士郎の存在があるからだ。
 士郎は今までも此処に何回か来ているが、最初から数えて4、5回程は絡んでくる雑魚共に力を見せつけて格の違いを教え込ませた。
 なので今では、迂闊に絡んで来るモノなど皆無だった。
 少なくとも彼らにも、その程度の学習能力位はあったらしい。
 しかし今日は女連れで両手が塞がっている。ならば行けるのではと思えるかもしれないが、士郎が周りに耐えず殺気を放ちながら威嚇しているので近づけずにいた。
 少なくとも最初に比べれば集まっている人数も少ないモノだ。
 士郎の殺気を当てられれば、大抵のものは気絶するか悲鳴を上げて退散する。
 だが集まっている者達はそんなリアクションはしない。
 つまり、ある程度の実力と肝が据わっていると言う事だろう。何方にしろ近づいてこないので、上位にしろ下位にしろ、有象無象である事には変わりは無かったが。
 そうこうしている内に目的地のボロ家に辿り着いた。

 「シロ兄ぃ、此処?」
 「ああ、中に居るのは『辰』だけみたいだな」

 呼び鈴も無いがノックもせずに入っていく士郎に、小雪も付いて行く。

 「スゥー・・・スゥー・・・」

 中に入ると、水色の長髪の女性が白い枕を抱いて寝ていた。
 よく見なくてもかなりのナイスバディ。だからか小雪は、士郎に疑問をぶつける。

 「もしかして、シロ兄の彼女さん?」
 「いや、違うぞ。彼女はこの家に住む5人の内の1人で家事担当だ。因みに、見てる通り寝るのが好きなんだ」

 士郎は小雪の質問に答えつつ、買いだした大量の食材食品類を鍵付き冷蔵庫の鍵を開けてから中に入れていく。

 「ん~・・・・・・シロォ~?」

 買ったモノを冷蔵庫に入れる時の音で気づいたのか、板垣姉弟の次女である板垣辰子が枕を抱えたまま起き上がった。

 「ああ、月末だから食材類切れてると思ってな。買ってきたから入れてくぞ?」
 「アリガスゥー・・・スゥー・・・」
 「喋ってる途中で寝ちゃったよ、この人!?」

 マイペース過ぎる辰子に、流石の小雪も驚いた。
 だが士郎からすれば何時もの事なので、振り返る事なく聞く。

 「寝てもいいから1つだけ聞かせてくれ。他の4人は何時帰って来る?」
 「ん~、アミ姉と天ちゃんは師匠と一緒に修業に行ったよ~。お昼までには帰ってくスゥー・・・」
 「また!?」
 「辰子」

 まだ聞き終えてないと言う事を口にしないで、名前を呼ぶことで促す。

 「・・・・・・ん~、竜ちゃんはいつ帰って来るか分からないよ~スゥー・・・スゥー・・・スゥー・・・」

 士郎の質問に答え終えたから、今度こそ眠りについた。

 「凄いマイペースな人なのだ・・・」
 「小雪には言われたく無いと思うけどな」
 「ボクは此処までじゃないよ!」

 士郎の発言に怒った小雪は、苦情を呈する様に背中を叩く。

 「悪かったよ。明日の朝まではマシュマロ作っとくから、勘弁してくれ」
 「食べ物で釣るのは如何かと思うけど、しょうがないから許してあげるよー。それで、シロ兄は何作ろうとしてるの?」
 「シーフードカレーだ。どれだけ凝ったもん作っても食べるには食べるだろうが、此処の5人は見た目は自分が食べた事のあるモノを好むからな」

 言いながら何時もの様に鮮やかに繊細に、そして迅速に調理を進めていく。
 そんな何時もの様に真剣な眼差しで調理する士郎の横顔を覗き見乍ら、小雪は楽しそうに待つのだった。


 ーInterludeー


 時刻は昼前。
 カレーを作り終えた士郎だったが、未だ4人が帰ってこないので待っていた。
 そこに小雪の唐突な提案により、士郎は膝枕をしていた。

 「ふみゅー」
 「猫みたいだな」

 自分の膝を枕に気持ちよさそうに寝る小雪の姿を見て、頭を優しく撫でてあげると、主人に撫でられて落ち着いている飼い猫のような表情をしている。
 それを後ろで意識だけは起きた辰子が見る。

 「ん~、シロォ~」
 「ん?」
 「私も~」
 「・・・・・・・・・ヤレヤレ」

 小雪の気持ち良さそうな顔に惹かれたのか、辰子は小雪とは逆側の士郎の膝枕に頭をダイブさせた。
 小雪同様に士郎としては何時もの事なので、驚きも拒みもせずに受け入れる。ただ言うなら――――。

 (男の膝枕なんて気持ちいとは思えないんだがな)

 そんな風に相変わらず自分への評価が低い士郎だった。
 しばらくの間そうしていると、この家にものすごい速度で近づいてくる気配があった。

 (楽天的だが感情の揺れ幅が大きいのは天だな)

 気配にて、誰をと予想した士郎。
 そして玄関口の扉が勢いよく開いた。

 「辰姉ェ~昼め――――って、なんじゃこの美味そうなカレーの匂いー!」
 「相変わらず騒がしいな」
 「あっ!士郎か。――――って事は」
 「士郎の作った昼飯かい」

 天使の言葉を引き継いだのは、川神院元師範代の釈迦堂刑部と共に何時の間にか彼女の後ろに来ていた板垣姉弟の頭であり稼ぎ頭の姉、板垣亜美だった。

 「はい、毎月通りです。それじゃあ――――」
 「私が寄そうよ。あんたは一応客何だし、その間に辰とその娘を起こしてな。それじゃあ身動き取れないだろう」

 亜美は士郎の返事を聞く事なく、皿にライスとカレーを寄そい出した。
 士郎は、そんな亜美の言葉に素直に従って、2人を起こすのに勤めるのだった。


 -Interlude-


 「はぁ~、食った食った」
 「うまかったー!」

 辰子と双子(弟)で板垣姉弟の長男である板垣竜兵の帰りを待つ事無く、結局全部5人で食べてしまった。士郎は一杯だけだが、天使がかなり多くのお替わりをした結果だ。
 昼食を食べ終わったので亜美は仕事?に行き、士郎がやろうとしたが家事は自分の担当だと言う事で辰子が食器を洗い、釈迦堂は食後の余韻で寛ぎ、そして天使は――――。

 「アタイ、遊びに行ってくるぜー!」

 元気にまた駆けだして行った。

 「そんで?また俺を誘いに来たのか?」
 「ええ。何時も通り、雷画の爺さんからの頼みですよ。釈迦堂さん」

 士郎が今日此処に来た目的は、月末で食料が尽きてる板垣家への食材の支援と釈迦堂刑部を藤村組の下に置くための誘いだった。

 「返事なら前にも言ったとおりだ。お前や雷画の爺さんには世話にもなってるし嫌いじゃねぇが、今はそんな気はねぇな」
 「色よい返事がもらえるなんて期待してませんでしたが、ホントに今のままで良いんですか?だって、今の釈迦堂さんは“ひも”ですよ?」
 「・・・・・・お前よ?もう少しオブラートな表現出来ねぇのか?」

 士郎の言葉に精神に来るものがある程度はあった様で、何時もへらへら笑ってる表情を顰める。

 「ニート」
 「いや、だからよ」
 「職務放棄員」
 「いや、そのよ」
 「でしたら、CO2クリエイターでは?それが気に入らないのであれば――――」

 士郎の一言一言に、今日までアウトロー人生でも悪くないと思っていた釈迦堂の防禦壁がゴロゴロと崩れて行った。

 「――――ホームガーディアンでは?それか平成の貴族か、あとは・・・・自宅警備員ぐらいですかね?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎の言葉に釈迦堂は、自分の眉間と額を手で抑えるように参っていた。
 だが士郎は別に、嫌味で言ってる訳では無い。
 自分の考えを他人に押し付けたくない士郎であるが、当の本人は全て自己責任なら兎も角、能力や才能はある上に一応心身ともに健康体であるにも拘らずに働かずにひもをしているのだ。
 世の中には様々な問題により働きたくとも働けない人々もいると言うのに。
 その為、士郎にしては珍しい位に、相手がノックアウト寸前だと気づいていながら口撃を辞めなかった。
 しかし、釈迦堂はこの期に及んでささやかな抵抗を試みる。

 「お、お前だって働いてねぇじゃねぇか・・・」

 言葉としては、実に情けないモノではあるが。
 だがそれは結果として、自身へのトドメとなるものだった。

 「俺はこれでも学生ですよ?それに一応副業的なモノをやっていましてね、今日のような食材も光熱費と言った生活費は全て自費ですが?」
 「なん・・・・だと!?」
 「それにシロ兄は5年ほど前から、ボク達にお年玉くれてるんだよ!」

 先程からだんまりだった小雪が、ツッコみどころ満載の発言を口にした。その気は無いのだろうが、まるで追い打ちをかけるように。
 因みに、食事にをする前に小雪の事は士郎の彼女かと疑われたので、きっぱりと否定し終えている。
 自ら地獄の鎌を開けてしまった釈迦堂は、頭を垂れながらやっとの思いで言う。

 「・・・・・・・・・少し考えさせてくれ」
 「今まで考える時間は幾等でもあったはずですが、解りました。ですが時間が無限にあるワケでは無いと言う事も忘れずに」
 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎は、既に死に体の釈迦堂にチクリと刺した。
 そんな釈迦堂の反応に一応の満足を得たのか、士郎は小雪を促してながら立ち上がる。

 「辰子、俺達そろそろ帰るよ」
 「~そぉ?んじゃぁ、気を付けてねぇ~♪」
 「ああ。じゃあ送っていくから帰るぞ、小雪」
 「うん!」

 そうして士郎は板垣家を後にした。

 因みに、次に士郎に合ったら答えを言わなきゃならないと焦燥に駆られたからか、久しぶりに基礎鍛錬を熟して気配による感知能力を向上させる修業をし始めた釈迦堂刑部の姿を、時々弟子たちは目撃するのだった。 
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