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「中東の思い出。」

作者:猫SR
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中東の思い出、


駱駝の話をしよう。

…人から聞いた話だ。


「私」が(以下俺と記す)

その男と
会う気になったのは、
既に人生を諦めていた、
と言う訳でもなかったし、むしろその逆で
バブル崩壊とか云う
余波を、もろにかぶって
一文無しになった境遇を何とかしたい、
そう思ったからだ。

友達の知り合いの先輩の
兄貴のいとこの弟、
と云う、その怪しい男が
持って来た話は
奴の髭面以上に
怪しかった。


奴の行き着けらしい、
その店には
中東の曲が流れ、
壁にはアラビア語らしい
文字が紙に書かれて
貼り付けて有るが、
勿論、意味は解らない。

胸と腰回りだけ
かろうじて隠した女は
いわゆる
アラビアンナイト風な
美女と思われるが、
口元を隠して
目しか見えない。

接客をするでも無く、
奴が頼んだウイスキーを
テーブルに置くと、
何処かに行ってしまった。


「さて、仕事の内容だが。」

口髭をウイスキーで
濡らして奴は云う、

「中東のある国で
物資を輸送する。
…あ?なんだ?
さっきの女か?
あんなのは、そこに行けば
ゴロゴロ居るぜ?
気に入ったんなら
話付けるぜ?」


奴の話を要約すると、
…こうだ。

その国で物資の輸送に
携わる。輸送手段は駱駝。

随分と
アナログな気もするが、
トラックを何台も
列ねるよりも盗賊団に
狙われ難いらしい。

又、駱駝の隊商は
一目置かれる傾向にあり、
万が一襲われる事が
有っても
命までは盗られない。
運ぶ物資量は限られるが、
人間の頭数が少ないから、
結果的にトラックを
何台も列ねるよりも
割りがいい、と言うのだ。


何日か考えた末、
俺は決心した。



長時間の空の旅は、
初めてだった事もあり、
堪えた。
此処に来るまで
様々な事が有ったが
今は省く。

時差ぼけのまま、
その土地の
実力者と云うか、
古い言い方をすれば、
豪族、首長の様な人物に
紹介された。

真っ黒に日焼けした
(…元々、
黒いのかも知れんが)
恰幅の良い男だ。

ぱっと見、
年齢は分からない、
片言の英語で
挨拶を交わし、
その男が
駱駝のオーナーで
輸送会社の
社長である事が、
辛うじて理解できた。

翌朝から
いきなり仕事の様だ…。



…親方と俺と
荷物を積んだ駱駝が12頭。
それが今回の隊商だ。
親方は痩せた
背の高い男でシャリフ、
と、名乗った。

挨拶もそこそこに
俺に自動小銃の扱い方を
丁寧に身振り手振りで
教える。
英語はあまり
話せないらしく、
不安だったが、
仕方がない。

…今回は往復一週間の
予定らしい。



…砂漠を駱駝と共に
移動する。

昼間はまるで
アラビアのロレンス、
夜間移動の際は、
望郷の念に駆られ、思わず
月の砂漠を口ずさんだ。

駱駝は直ぐに慣れた、
意外と乗りやすいし、
人懐こい。

俺がいつも乗る
メスの駱駝は随分と
なついてくれた。
長いまつ毛が可愛らしい。



何度か親方と輸送した頃、
初めて、一人で行く時が
来てしまった。

「経験不足は承知の上だ、
シャリフには
他の土地に行ってもらう
仕事が出来た、
何度か往復している
いつもの道だ、
やってみないか、
勿論、一人だから
取り分も倍だ、」

と、社長が言う。

…俺は、いつもの
メス駱駝が相棒ならば、
と返答した。

恥ずかしながら、
彼女には、
「キャロル」と、
名前まで付けた。
「らく子」と、
どちらにしようかと
生きるか死ぬか、ぐらい
悩んだが
「キャロル」に決めた、
キャメルだけに。

…どうでもいい話だ。


初めての一人での輸送、
俺と駱駝が11頭。
勿論、相棒はキャロルだ。

…しかし、あの男は
一つだけ嘘をついた。
此処に来れば
アラビアの美女ばかり、
そう言わなかったか?
ゴロゴロいると。
…どこに美女がいる?

回りは砂漠と、
そして駱駝だけだ。

………昼間は、暑い。



キャロルは、
よくなついてくれた。
俺が降りたい時は
足を折り、
又乗るときは膝まづき、
まるで侍女の様に
かしづく様は
何とも愛らしかった。

俺の呟きには
長いまつ毛をぱちぱちと
瞬いて答えた。

方位磁石と
夜空の星が頼りの
心細い旅も
彼女のお陰で少しは気が
紛れたものだ。
彼女も鼻先を俺の顔に
擦り、信愛の情を示す。


…と、俺は思った。
国籍を越えて
愛が芽生えたと。

(国籍だけかー、
の突っ込みは
今は無視したいと思う。)


禁欲生活、一人旅の緊張、

ある日、
俺はキャロルとやろう、
そう決めた。


まだ日没前だが、
でもそんなの関係ねー、
そんな気分だ。


「キャロル、
大人しくしてろよ?
やらせろ!!」

するっと下半身裸になり
キャロルの腰に
しがみつく、、、
しかしキャロルが
思いもよらず、、
激しく抵抗するのだ、、、

「なんだキャロル、お前
俺が好きじゃねーのか!!
他の駱駝がいるから
恥ずかしいのか?あ、
まさか彼氏いるの?」

俺のささやきは
キャロルに届かない、
激しく腰を振って
俺を振りほどこうと、
危うく足蹴にされそうに、

…その時、



彼方から砂埃が近付いて、
そして一台のジープが、

タイヤは
パンクしているらしい、
運転していた美女が
飛び出て来た、

目の覚める様な美人だ。


「助けて下さい!!
使用人に裏切られました、
追われています!
金品はおろか、
私の身体まで
犯されそうです!!」

綺麗な英語で
その美女は多分、
そう言ったのだと思う。

…ボケっとしていたが
下半身裸のままで
居る訳にもいかず、
するっと
ズボンとパンツを
同時に引き上げ、
(実は俺は
この早業が得意だ、)
彼女を
駱駝の群の中に隠し、
自動小銃を構える、

すると、



もう一台の
ジープが近づく。

射程距離に入り、
相手の顔が確認出来た時、

俺は生まれて初めて
引き金を引いた。


ジープは反転し、
砂埃を残して立ち去った。なるべく早く出発する
必要も感じたが、
もう少しで街だ。



「どうもありがとう
ございました…。
貴方は日本人?」

「え?日本語、
話せるんですか?」

「少しね、笑
母は日本人ですから。
ね、なんでさっき、あの…
裸って云うか、、、、」

「え…?」

「まあ、いいわ、笑
ね、貴方、かっこいいわね?
ステキ。タイプだわ、
ね、何かお礼させて…、
私に出来る事なら
何でもいいのよ?
何でも、どんな事でも…。」

…潤んだ瞳で
はにかみながら、
彼女はそう言った、
確かにそう言ったのだ!!

「ほんとに?本当に
何でもしてくれる…?」

き、聞く声が上擦る、、

「ええ、何でも!!/////」


マジかー!!!!!!
俺は喜んで、こう叫んだ!!



「じゃあ!
この駱駝、押さえててー!」






…人から聞いた話だ。







 
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