一人相撲
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2部分:第二章
第二章
「そんなのやってるんだ」
「駄目でしょうか」
「いや、いいけれど」
それを使っているのも驚きであるが先生が驚いているのはそれだけではなかったのだ。というよりはこれは驚いているののごく一部でしかなかった。
「しかも殆ど合っているし」
「俺には夢があるんです」
今度はキング牧師の言葉になっていた。
「夢?」
「はい、夢です」
彼は熱い目で語るのであった。
「俺の夢、それは」
「東大に行くとか?」
それはそれで確かに凄いことである。少なくとも今までの敬三のことを考えればこれは冒険や夢物語と言うべきようなことであった。
「まさかそんな」
「それは違うんだ」
「そんなちっぽけなことじゃありません」
彼にとってはそれは本当にちっぽけなことであった。本気でそう考えていた。
「俺の夢はもっとずっと大きいんです」
「大きな夢。何なのかな、それは」
「神藤さんです」
彼は高らかに先生に対して宣言した。
「神藤苑子さんです。彼女をゲットする為に」
「東大の問題をクリアーしていたの?」
「それもそのうちの一つです」
彼の中ではこうでしかなかった。
「一つでしかありません」
「そうなの。はあ」
「俺はやりますよ、先生」
彼は力瘤を入れてまた叫ぶ。
「絶対に彼女をゲットするんです、完璧な人間になって」
「そういえば君最近かなり何でも頑張ってるね」
このことでかなり有名になっているのは事実だ。それは学校中でかなり噂になっている。当然この先生もこれを知っていたのだ。
「それはそのせいだったの」
「そうです。別にいいですよね」
彼は先生に対して問う。
「彼女をゲットするのは」
「不順異性交遊じゃなければね」
先生もそれは認めるのだった。
「いいよ」
「俺の愛はただひたすら純愛です」
というよりかは周りを全く見ていないだけである。しかしそれはそれでかなり暴走しているのでそれが純愛にはしていると言えた。
「何があっても俺は」
「やるんだね。じゃあ頑張ってね」
「はいっ!」
威勢よく答える。
「俺はやりますから、見ていて下さい」
「何はともあれ努力するのはいいことよ」
先生もそれはよしとするのだった。
「頑張るのね」
「わかりました、それじゃあ」
何時の間にか勉強ではなく彼女のことに話がいっていた。彼はとにかく本気で必死に努力をしていた。それはすぐに実を結びやがて結果となって出て来たのであった。
「御前がねえ」
「学年トップだったなんてな」
皆今回のテストの成績結果を見て驚くばかりであった。何とこれまで平均点二十点しかなかった彼がいきなり学年トップになったからだ。驚くのも無理はないことだった。
「しかも体力測定でも凄かったし」
「何が起こったんだよ」
「だから努力だ」
彼は言う。
「完璧になるって言っただろ。それをやっていたからな」
「だからそうなったのか」
「そうさ、けれどこれは通過点に過ぎない」
それが彼の考えであった。
「俺の目的はあくまでな」
「神藤さんってわけか」
「いよいよだ」
彼はまた力瘤を入れて誓う。
「彼女に告白だ。メイクもファッションもばっちり決めてな」
「そこまで考えていたのか」
「言っただろう?完璧になるってな」
言葉にも力がこもっていた。
「何があってもな。俺はやるぜ」
「まあやってみな」
「どっちにしろここまでやる人間って見たことねえぜ」
彼等にしろ驚くべきことであるのだ。
「応援はしねえけれどな」
「しねえのかよ」
「そうさ、ただ見てるだけさ」
これに関しては実に醒めた皆であった。
「俺達はな」
「まあいいさ」
敬三にしてもそれで構わなかった。彼にしてみても苑子をゲットできればそれでいいのだ。だからどうでもいいことでしかなかったのだ。
「それはな。とにかく俺は」
「やるのか」
「何があってもな」
またそれを宣言する。
「絶対にやってやる。彼女をゲットだ!」
教室での宣言であった。なお彼は隣のクラスにその人がいることも自分の声がどれだけ大きいかも気付いていなかった。基本的に頭の構造までは変わってはいなかった。
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