魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico?魔窟~Devil’s Laboratory~
前書き
ただいまです~。更新して、すぐに寝ま~す。おやすみ~。修正はまた昼間に行いま~す~Zzz….
†††Sideルシリオン†††
クイントさんの作った鍋を美味しく頂いた後、ギンガやスバルと一緒にテレビを観ながらリビングで休憩していると、「ルシル君。先にお風呂済ませて来て」クイントさんがそう言ってきた。さすがに女の子より先に入るのは憚られるため「俺よりギンガ達を・・・」と、順番を譲る。
「でもお客さんだし・・・」
「いえ、そうであっても女の子の前に先に入るのは気兼ねします。うちでも入浴は最後ですから」
「そう? じゃあ・・・ギンガ、スバル」
「「はーい!」」
2人はソファから立ち上がり、風呂場へと向かって行った。ナカジマ一尉は自室で陸士108部隊副部隊長としての仕事をし、ギンガ達は風呂場へ。リビングには俺とクイントさんの2人だけとなった。クイントさんは俺のすぐ隣に腰掛け、「本当に不思議だよね」俺の頭を撫でてきたかと思えば「??」ギュッと抱きついた。
「ルシル君にはちょっと謝らないとダメだな~って思っていた事が1つあって」
「俺にですか?」
「今回の任務、かなり危険なものになると思う。こちらが選んでおきながらだけど、やっぱりこんな危険な任務に君のような子供を連れて行くことが申し訳なくて・・・」
それが俺に対して謝りたい事だった。正直、“堕天使エグリゴリ”と死闘を繰り返してきた俺にとっては格段にヌルい任務になるだろう。魔族や“エグリゴリ”が相手でないならまず俺に負けはない。問題は俺よりクイントさんら首都防衛隊だ。ナンバーズが敵としていない今、何が敵として待ち構えているか判ったものじゃない。
「俺の方は気にしないでください。まだまだ子供ですけどそれなりに経験は積んでいるつもりです。まぁ、クイントさん達に比べればひよっこですけどね」
「・・・ありがとう、ルシル君」
「・・・? あの、クイントさん、いつまでハグを・・・?」
話が終わっても俺はクイントさんから解放されなかった。
「ルシル君、男の子なのに抱き心地が良いのよね♪ 顔はプニプニでスベスベなのに、体は男の子らしく結構がっしりしてるのよね。髪の毛も羨ましいほどにサラサラだし。あー、離れられないわ~」
それから数分、クイントさんにされるがままで居ると「おいおい。何やってんだ」ナカジマ一尉がやって来て、クイントさんの様子に呆れて苦笑い。クイントさんは「だって抱き心地が良くて」そう言い、あくまで俺を離そうとしなかった。それからさらに数分、「お風呂空きました~!」パジャマ姿のギンガとスバルがやって来て、俺とクイントさんの様子に「???」小首を傾げた。
「はーい。それじゃあ今度こそ、ルシル君が入る?」
「いえ、最後で構わないですよ」
「じゃあ、おとーさん。先に入って来て」
「良いのか、坊主。うちの娘が出たんだからお前さんが気兼ねすることないだろ」
「お構いなくです、一尉。ただ、そろそろクイント准陸尉から解放されたいかな~っと」
「だそうだぞ、クイント」
「は~い」
ようやくクイントさんからのハグから解放された。そしてナカジマ一尉は風呂へ向かい、ギンガとスバルはクイントさんの両側に座った。ちなみに俺は3人の邪魔にならないように端っこに移動。
「あー、おかーさん幸せ~♪」
「「わっ?」」
クイントさんは両脇に座るギンガとスバルを抱き寄せ、2人に頬ずりをする。きゃっきゃと弾んだ声を上げ、さっきの俺のようにされるがままだ。クイントさんは頬ずりを堪能した後、「ねえねえ、ルシル君。うちの家族にならない?」突拍子もない提案をしてきた。
「家族・・・? ルシルさんがお兄さんになる、ということ・・・?」
「ルシルおにーちゃん・・・?」
ギンガとスバルの視線が俺に向けられた。家族になろう。俺はこれまでに2通りの誘われ方をした。1つは養子による兄弟関係、1つは結婚による夫婦関係。前者は以前のはやてで、後者はシャルやトリシュタンだ。クイントさんはどっちなのだろうと(明らかに後者だよな)思って「どちらの意味でしょう?」そう訊いてみた。するとクイントさんはニヤニヤ笑って、ギンガをチラッと見た。
「ギンガって、学校に好きな男の子とか居る?」
俺とギンガを結婚させる気か、この人は。ギンガは顔を赤くして「い、居ません!」答えたら、「じゃあ、ルシル君はどう?」クイントさんがそう言うものだから、「??・・・っ!!」ギンガはその意味を察してさらに顔を赤くした。そしてスバルは意味を解っていないため、目を丸くしている。
「ルシル君、将来は約束されているわよ~? 顔よし、頭よし、性格よし、家事も出来て、魔導騎士として強い、後の調査官っていう将来有望さもある。その代わりライバルが強い・・・んだよね?」
「・・・まぁ、一応・・・」
はやては後の機動六課の部隊長で、シャルはベルカ自治領ザンクト・オルフェンの実質的なリーダーであるフライハイト家の娘で、トリシュは後に弓のパラディンとなるだろう。あれ、俺、ひょっとして逆玉の輿状態なのか?
「どうギンガ? 頑張って参戦――」
「しません!」
ギンガは大きな声を上げて「おやすみなさい!」それでも律儀に挨拶をしてリビングを出て行った。スバルは最後まで俺たちのやり取りの意味が解らなかったようで、「おやすみなさい」ペコッとお辞儀してからリビングを出て行った。
「あちゃあ」
「クイント准陸尉・・・、変なことを仰らないでください」
「あら? もしかするとルシル君はもう相手を選んじゃってたりする?」
「そういうわけではないですが・・・、いきなり結婚してはどうか?なんて、ギンガが可哀想過ぎます。彼女にも選ぶ権利があるんですから」
こういう話になる度に俺は自分の存在意義や、その想いを裏切ることへの罪悪感で押し潰されそうになる。
(なんか・・・しんどいな・・・)
クイントさんはそんな俺の心情を察したのか、または偶然かまた俺を抱きしめてきた。
「クイント准陸尉・・・?」
「ただ、なんとなくだけどこうした方が良いかな、って思ったの。ルシル君。君、本当に大人びた表情をするよね。私、これでも数多くの人の顔を見てきたから判る。とても寂しそうな顔してた。ごめんね・・・」
「いえ」
心地良いクイントさんの温かさに抵抗しないでいると、「おー。またやってんのか。坊主も大変だな」ナカジマ一尉が風呂から上がって来た。次も譲ろうかと思えば「はい。次はルシル君ね」クイントさんが俺を解放した。
それでも譲ろうとしたら、「それだったら一緒に入ろう♪」なんて言われたから、「お先に頂きます!」俺は即座に折れて、お先に風呂を頂くことにした。だって無理、無理だって。裸を見られるのは構わない。だが、見るのは耐えられない。俺だって男だもん。
「脱衣所のドライヤー、好きに使っていいからね」
「あ、はい!」
そんなわけで俺は先に風呂(とは言ってもシャワーだけだが)に入り、「空きました。ありがとうございます」ソファでくつろいでたクイントさんに空いたことを知らせ、先に順番を譲ってくれたこと、そして今日1日のことを含めて感謝した。
「どういたしまして。それじゃあ私もお風呂を済ませて、明日のために休むわね」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい♪」
リビングでクイントさんと別れ、用意してくれた客室のベッドに入って横になる。明日は早い。意識的に思考を切り、すぐに眠りに入った。
そして自然と目を覚まし、時刻を確認する。起床予定時刻の午前5時半ジャストの目覚めだった。ベッドから降りて大きく伸びをしてから、替えの局の制服へと着替え、鏡台の前で家から持って来た櫛を使って髪を梳かし、ヘアゴムで後ろ髪を縛る。そして洗面所を借りて顔を洗い、歯を磨き、「よしっ」最後にニッと笑顔を作る。
「おはようございます、クイント准陸尉」
「おっ。おはよう、ルシル君。寝坊もしないで、さすがね~」
キッチンにはエプロン姿のクイントさんが居て、朝食を作っていた。それにギンガとスバルとナカジマ一尉の弁当もだ。クイントさんが「さ、出来たわ♪」俺とクイントさんの分の朝食を作り終え、ダイニングテーブルに一般的な洋食風の朝食が置かれた。
そして2人で今日の任務の工程を確認し合いながら朝食を頂くこと30分。食器洗いなどの片付けを2人で行っていると、「今日は良い天気になりそうだな」ナカジマ一尉が起きてきた。
「おはよう」「おはようございます」
「今、朝ご飯用意するから」
「あー、いいよ。俺がやるから。おまえはゆっくりしてろ」
「ありがとう」
リビングでクイントさんやナカジマ一尉と他愛無い話をして時間を潰し、そして6時15分ごろ・・・
「ルシル君。そろそろ行こうか」
「はいっ」
「クイント、坊主。気ぃつけてな」
俺とクイントさんは集合場所である地上本部へ向かうため、ナカジマ一尉に見送られながら家を出ようとしたその時、「母さん」「おかーさん」玄関にパジャマ姿のギンガとスバルがやって来た。
「おはよう、ギンガ、スバル。ごめん、起こしちゃった?」
「ううん。お見送りしようってスバルと決めていたから・・・」
「おかーさん、頑張ってね。ルシルさんも、頑張ってね」
「ありがとう2人とも。おかーさんは大丈夫よ。何せルシル君が一緒に仕事してくれるんだから♪」
そう言ってクイントさんがギンガとスバルの頭を撫で、俺に微笑みかけた。だから俺も「大丈夫。クイント准陸尉と一緒に帰ってくるから」そう言って2人に微笑みかけると、スバルが「約束」小指を立てた。
「約束を交わす際の指切りっていう習わしはナカジマ家に古くから残っててな。これまでは家族内だけでやってたんだが。なんの偶然か俺の遠いご先祖と同じ世界から坊主が来てくれた。悪いが付き合ってやってくれ」
「もちろんですよ。じゃあスバル。指切り」
スバルの小さな小指に自分の小指を絡ませて「ゆ~び~き~り♪」スバルの歌を合図に小指を離す。スバルは「えへへ♪」俺に満面の笑顔をくれた。すると今度は「私もお願いします!」ギンガも小指を差しだしてきたから、彼女の小指とも絡ませる。
「ルシルさん。母さんを、よろしくお願いします!」
「お願いします!」
「頼むぜ、坊主」
「はいっ!」
「いってきます!」
そうして俺とクイントさんは、ナカジマ一尉たちに見送られながら地上本部へ向かった。到着するまでの車中で「どうだったルシル君。うちの家族のこと」クイントさんにそう訊かれたため、「とても楽しい時間を過ごせました」本心で答えた。
「良かった♪ 良ければまた遊びに来て。ギンガもスバルも君のこと気に入ってくれたみたいだし」
「その時は是非! あ、でもギンガとの結婚云々という話はもう無しですよ?」
「ざんね~ん♪」
そんな笑い話を交えて車は走り、地上本部へ到着。局員専用の駐車場に車を停めたクイントさん。そして俺たちは車を降り、「それじゃあルシル君、ついて来て。地上本部、初めてでしょ?」クイントさんの案内で、地上本部内にいくつもあるミーティングルーム、その第3にやって来た。そこは部屋と呼ぶよりは講義室のような場所だ。
「おはようございます、隊長!」
第3ミーティングルームには先客、首都防衛隊・隊長、ゼスト・グランガイツが居た。クイントさんの敬礼に「ああ、おはよう」敬礼を返した騎士ゼストが俺へと視線を移した。だから俺も「本日はお世話になります、騎士ゼスト」そう敬礼してみせた後にハッとした。
「あ、局内ではグランガイツ一尉とお呼びした方が良いですね。失礼しました」
「気にするな。それよりもこちらこそ世話になるぞ、セインテスト査察官。・・・なるほど。良い面構えをしている。イリスの父リヒャルト司祭から娘を盗られたと、時折絡み酒に付き合わされることもあるが。聴いていた話とは随分違うな。まぁ、リヒャルト司祭は子煩悩ゆえ、か。苦労するな」
そう言って苦笑した騎士ゼストには「いえ」こちらも苦笑するしかなかった。それから席に着いて防衛隊のメンバーが揃うまで待ち、そして「あ、ルシル君。おはよう♪」メガーヌさんを始めとした隊員たちがミーティングルームに集まっていく中、騎士ゼストに挨拶を終えたら俺をチラッと見ていく。メガーヌさん以降の隊員はみんなそんな風に席に着いていった。
「全員揃ったな。では最後のミーティングを始める。が、その前に本日の任務に同行してくれる局員を紹介しよう。本局・内務調査部所属、ルシリオン・セインテスト査察官だ。特別技能捜査課の捜査官としても優秀であり、魔導師ランクS+の古代ベルカ式の騎士だ。それに知っている者も少なくないだろうが、彼はパラディース・ヴェヒターの参謀、ランサーだった男だ。実力もその知識・知恵も申し分ないだろう」
「紹介に与りましたルシリオン・セインテストです。本日はお世話になります。よろしくお願いします!」
椅子から立ち上ったうえで敬礼で挨拶すると、「よろしくお願いします!」クイントさんやメガーヌさんら隊員たち全員が敬礼で返してくれた。一応の犯罪者でもあったパラディース・ヴェヒターの一員だったことには誰からも文句や反対が出なかったことには感謝だ。そして隊員たちからの簡単な自己紹介を受けた後、今回の任務について改めて確認をすることに。
「任務内容についてはすでに伝えている通りだ。中央区南にあるハゲネ山脈が任務先だ。ハゲネ山脈には旧暦の負の遺産である研究施設が多数存在している。その全てが新暦と同時に廃棄されてはいるが、残念なことに今は犯罪者の温床となっている。我々も何度か検挙しているな。その廃棄された研究施設の1つに、広域指名手配犯ドクター・プライソンと関わりがあり、さらには不許可で機能している施設があるという。そこを捜査する」
モニターに山脈のマップが映し出され、廃棄された研究施設の位置を表す光点が7つほど表示された。騎士ゼストは「ある情報により、これよりさらに3つに絞られる」そう言って、4つの光点が消えた。
「隊長。その情報は誰からなのですか? それに信用できるものなのですか?」
「それが誰なのかはプライバシーのこともあり言えないが、古くから管理局に協力してもらっている民間人だということで、これまでに別の部隊が何度も捜査協力してもらっている。それにその情報のおかげでいくつもの検挙を成功させている。信用は出来るだろう」
「判りました。ありがとうございます」
「・・・その協力者もさすがにどれか1つにまでは絞れなかったようですが、ここまで絞ってくれたことには最大限の感謝ですね」
「しかしハズレを引いてしまった際、次の施設捜査へのタイムラグがかなり無駄というか、危ういですね」
「だからと言って隊を3班に分けるのはあまりにも危険です」
「ですね。3分の1の確率でアタリを引こうというのも難しいでしょうし・・・」
クイントさん達がそう話し合う中、「あの、いいですか」俺は挙手。騎士ゼスト達からの視線を一斉に浴び、「意見であればどれだけでも欲しい」騎士ゼストに促されたから俺は席を立った。
「機能している施設であるのであれば、おそらくセキュリティなどのために電源が入っていると思います。自分には電子戦用の魔法があるので、潜入前に3つの施設に同時にアクセスし、アタリかハズレかを確認できるかと思いますし、セキュリティの網に感知されることなく突破できるように作ってありますから、まず気付かれません」
「ルシル君、すごい・・・」
「セインテスト査察官。それが出来れば本当に大助かりだが、万が一、3つとも機能していたとすればどうする?」
「問題ないと思います。自分の電子戦用魔法、名をステガノグラフィアというのですが、相手側のセキュリティに一切感知されることなくクラックして、情報を引き抜いたり、書き換えたり、破壊することも可能です。ですので、たとえ3つとも機能していようとも、潜入前にその施設のデータを引き抜けば、機能していようがしていまいがアタリかハズレかは判ります」
そう答えると「おお・・・!」どよっと小さいながらも驚嘆の声が上がった。騎士ゼストは「これで大きな問題は解決したな」満足そうに頷いてくれた後、「ではもう1つの問題だな」2つ目の問題を出した。
「多くの犯罪者がたむろしている山脈だ。連中と戦闘になるようであれば、その騒ぎから我々の存在が向こうに気付かれてしまう可能性がある」
とのことだ。確かに騒ぎを起こせばそれだけ成功率が下がる。クイントさん達が意見を出し合う中、俺もいろいろと模索してみる。気付かれない内に奇襲して、一撃で黙らせるのが一番手っ取り早い。もっと手っ取り早い方法があるが、それには条件がある。
「あの、ハゲネ山脈のリアルタイムでの状況を知りたいのですが。出来れば天気を・・・」
俺のリクエストに小首を傾げる面々だったが、「ちょっと待って。調べてみる」メガーヌさんが調べ始めてくれた。そして「ライブカメラによるハゲネ山脈の映像を発見。表示するわね」モニターに今のハゲネ山脈の映像が映し出された。
「メガーヌ准陸尉。施設のポイントを当ててください」
「ええ、判ったわ」
リアルタイムの山脈映像に3つの光点が表示された。俺は「何とか出来そうです」そう言って、やろうとしている事を騎士ゼスト達に伝えた。クイントさん達も最初は、信じられない、と言った風に驚いていたが、「出来ます」俺が断言したことで、「判った。それで行こう」騎士ゼストがOKを出してくれた。
「全員出るぞ。あとは時間との戦いだ!」
騎士ゼストに「了解!」敬礼で応じ、すぐに地上本部を出る。捜査車両2台で現場であるハゲネ山脈へ向かう。俺は騎士ゼストとクイントさんとメガーヌさん、それに部隊員のアベオ一等陸士、ウラッコ一等陸士と一緒に1号車に搭乗している。
捜査車両は人員輸送車でもあるため両側の壁に長椅子が備え付けられ、向かい合うようにして座っている。俺の向かい側に座るアベオ一士(22歳の青年だ)が「いやぁ、ホントすごいよ、君」と、屈託のない微笑みを浮かべた
「純粋な戦闘力でも圧倒的で、さらに電子戦用の魔法を使えて、さらには山脈全体に睡眠効果のある霧を発生させるとか。どれだけ万能なんだって話でさ」
ウラッコ一士(アベオ一士と同期の22歳だそうだ)も肩を竦めて呆れ笑いを浮かべた。そう、犯罪者との戦闘を回避するための手段として、山全体に睡眠効果のある霧を発生させることを思い付いた。俺がハゲネ山脈の映像を求めたのは、今まさに山に霧が発生しているかどうかを確認するためだ。山の天気にもよるが、今日は霧が発生しやすい気候だと判り、その手段に打って出たわけだ。
「ルシル君、まだ11歳なんだっけ?」
「その若さですごいわね~」
「いえ。先祖代々の魔法を扱えるように生まれたその時から調整を受けますから」
俺の真実を知らないはやて達にも言っている“嘘”を吐いた。息をするみたいに嘘を吐けることにはもう呆れ果てている。調整という言葉にクイントさん達の表情が曇る。ここで話を終わらせることだけはしないのがせめてもの償いだ。
「でもそのおかげで俺は強くなって、助けたい人、救いたい人、大事な人たちを守れるのですから感謝こそすれ恨むことはないですよ。それに、こうして皆さんの役に立てる。俺はそれだけで良いと思うんです」
そう言うと、俺の両隣りに座るクイントさんとメガーヌさんが2人揃って頭を撫でてきた。だから「子供扱いはダメですよ!」そう言って笑いながら頭を振るうと、ウラッコ一士が「だって子供じゃないか♪」ツッコミを入れたことで笑いが起きた。車内の空気はほっこりとしたのを確認して・・・
「それじゃあ、そろそろ準備に入ります」
ハゲネ山脈付近に近付いたことで魔法・・・ではなく魔術をスタンバイ。効果をキッチリ発現させるためだ。魔法として発動しても良いが、魔法として使ったことがないから効果の持続時間が怪しい。そして、目的の山まであと僅かで到着というところで開けたドアから身を乗り出し・・・
「深淵へ誘いたる微眠の水霧」
下級魔術・水流系の術式を発動。俺が発生させた霧状の龍は、道路を這うようにこの先にそびえ立つ山へ向かって行った。あとは現地の天然の霧と交わり睡眠効果を伝播させれば、山を覆っている霧すべてがラフェルニオンとなるわけだ。水流系の強みは、元からある天然の水を利用できることだ。少ない魔力と神秘で可能になるからな。
「ついでにサーチャーも飛ばしておきます。発見せよ、汝の聖眼」
手の平サイズの魔力球を20基と創り出し、山へ向かって放つ。そして車内に1m四方のモニターを展開させ「サーチャーからの映像です」そう説明して、イシュリエルから送られてくる映像を20分割で映し出させる。
モニターには這うように突き進む霧の龍が目標の山に到達し、そして天然の霧と交わった瞬間が映し出された。他の19基のイシュリエルが映し出すのは、鹿や鳥と言った動物が一瞬にして眠りに落ちる様。さらには「早速、誰かが眠りに落ちたようですね」あるモニターには数人の男がドサッと山肌に倒れ込む様子が映った。
「あれ? コイツらどこかで・・・」
「指名手配データに確認をとれ」
「はいっ!」
メガーヌさんが調べること数分。眠りに着いたのはカルナログで指名手配を受けた犯罪集団のメンバーだと断定。騎士ゼストは「本部に応援を!」クイントさんに指示を出した。
「セインテスト査察官。睡眠効果の持続時間は?」
「何事も無ければ3時間は確実に眠ったままです。体を揺すられたり大声で呼ばれたりしてもまず起きません。しかし、さすがに本気で殴る蹴るの暴行には耐えられませんが」
「それで十分だ」
山で寝転がっている犯罪者たちの確保は、応援要請をお願いした後続の地上部隊に任せることになり、俺たちはとうとう山の入り口へと辿り着いた。首都防衛隊9名+俺の10名は防護服へと変身し、今より登る山を見上げる。
「ルシル君。霧の影響は私たちにもあったりする?」
そう訊いてきたメガーヌさんに「一応はありますけど、こうすれば良いです」起動した“エヴェストルム”を山道に向かって払うと、山道だけを開けるようにして霧が左右に分かれた。
「・・・何が起きてももう驚かないかも」
「まったく同意見」
メガーヌさんとクイントさんが呆れ笑い。そして、俺が“エヴェストルム”を振るって起こした風圧で霧を掻き分けながら、俺と騎士ゼストで先頭を歩いて山登りを開始。イシュリエルから随時送られてくる寝落ちした犯罪者の座標ポイントを後続の別動部隊に送りつつ歩くこと20分ほど、ある洞窟に辿り着いた。
「ここの洞窟の奥にある施設が目的の1つだ」
「判りました。それではこれより3施設へのアクセスを始めます。秘伝を暴き伝える者達」
『はい』『ウィ』『ヤー』『シン』『イエス』
目の前に展開したモニター内に3頭身の天使が5体と出現する。クイントさんとメガーヌさんが「可愛い♪」歓声を上げた。俺は「目標の3施設を同時クラック。セキュリティに気付かれないよう施設の情報を全て持って来い」ステガノグラフィアに命令を出す。
『ステガノグラフィア一同。お仕事了解です♪』
『いってき~♪』
『いってら~♪』
『メナディエルも来るんだよ!』
『以前にも同じやり取りしたよ~♪』
5体の天使はピョンと跳ねる仕草をした後、その姿を消した。それから待つこと2分ほど。モニター内にステガノグラフィアが「戻って来た♪」ため、「データを見せてくれ」命じた。
『3施設の内、残念ながら2つの施設にしか侵入できませんでしたぁ┐(゚~゚)┌』
『侵入できなかった施設のファイアウォールはとっても強力でした_|\○_』
『セキュリティを無視すれば行けたです(  ̄~ ̄;)』
『でもそれは命令無視なので~ (。>д<。)』
『戻って来た~┐(´∀`)┌』
そう報告を受けた。とにかく「2つの施設から持って来た情報はどういうものだ? 見せてみろ」そう命じると、モニター内にそのデータが表示された。それは「質量兵器のデータ・・・?」だった。
「データ的に見てかなり古いです。2つの施設は完全に大ハズレですね」
かなり破損していて完全には解読できないが、旧暦のデータで間違いないだろう。そういうわけで俺たちの目標はただ1つに絞られた。ここから移動して、また別の洞窟の入口へと着いた。
「セインテスト査察官。トラップや警報、カメラなどのセキュリティは切れるか?」
「確実とは言えませんがやってみます」
騎士ゼストに答え、ステガノグラフィアへ改めて指示を出す。本局のデータベースにすら容易く侵入できたのに、研究施設へは侵入できなかった。それが少し気掛かりだ。それほどのファイアウォールとなれば、この奥にある秘密はとんでもなく大きなものなのだろう。
『マスター。セキュリティの全解除に成功です(p゚∀゚q)ン』
『でもやっぱりデータベースへのファイアウォールは突破できなーい (・´ω・`)ゞ』
「そうか。グランガイツ一尉。セキュリティは切りましたが、やはりこの施設で何をしているのかは直接調べないと無理そうです」
本局以上のファイアウォールか。面倒なことにならなければ良いんだがな。
「いや。セキュリティだけでも無力化できれば十分だ」
「あと、セキュリティは無力化できても、防衛戦力が居るかもしれません」
「そこのところは大丈夫よ、ルシル君」
「私たち首都防衛隊は強いんだから」
クイントさんとメガーヌさんが俺の肩に手を置いた。他の隊員たちも「その通りさ」と、笑顔を浮かべた。騎士ゼスト達を絶対に死なせたくない俺は「念のためにこの魔法を使わせてください」そう願い出て・・・
「オプティックハイド」
元はティアナの幻術魔法だが、もう完全に俺の物となっているオプティックハイドを発動。術者や触れた対象の体や衣服に光学スクリーンを展開させて不可視状態にするという魔法だと、騎士ゼスト達に説明した。全員の姿が見えないためどんな表情をしているかは判らないが、ただ驚いているのは確かだ。
「ですが欠点も有ります。匂いまでは隠せないので、嗅覚の鋭い動物と相対したらアウトです」
それが俺の場合の欠点。オリジナルであるティアナの場合は、激しい動きや多量な魔力運用を行えば行うほどスクリーンの寿命が早く尽きるらしいが、俺はさらに強力にアレンジしているためその心配は無い。
「何から何まで世話になっているな。感謝する」
「ルシル君、ありがとう」
「君とこうして一緒に仕事が出来て良かったわ」
「アルピーノ分隊長。それ言うのちょっと早いですよ」
「あら」
肩の力がみんないい感じに抜けた。そして騎士ゼストの「任務開始だ。行くぞ」号令で、「はいっ!」俺たちは洞窟内へと侵入した。ここから口頭ではなく念話に切り替える。最初の5分くらいは普通に岩肌の洞窟だったんだが、急に金属の通路へと様変わり。全周囲に気を配りながら通路を歩いて行くと、広いドーム状の部屋に辿り着いた。
『ここは・・・メインルームか何かか?』
『隊長。この部屋から6つの通路が伸びてます』
俺たちが来た通路とは別に左右に3つずつの通路が伸びている。あの先に一体何が待ち構えているのやら。
『セインテスト査察官。このメインコンピュータからアクセス出来ないだろうか?』
『やってみます』
『その間に俺たちは、通路の先を調べるぞ』
『隊長。セインテスト査察官にさっきみたくサーチャー飛ばしてもらえれば・・・』
『ダメよ。流石に気付かれるわ』
俺たちの姿は見えない。そこに誰の物とも知れない魔法が通路を飛んでいるのを、この施設の使用者が見たら1発でアウトだ。そんな危険は冒せない。ただ、何があるのか不明の中でイシュリエルの斥候が出来ないのもまた不安だ。いや、信じるのもまた大事だな。
『セインテスト査察官はここでデータ回収を。俺たちは通路の先の捜査に入る。班に分かれるぞ。俺とグアラとライナー、ナカジマとアベオとクラッコ、アルピーノとスタウトとジュークの3班で行くぞ』
『隊長。ルシル君1人残して行くのは・・・』
『む。そうか』
『俺は大丈夫ですよ。捜査チームを減らす方が危険です。何があるか判らないんですから。あ、でもこちらに戻って来る時は一報ください。皆さん以外の誰かが来た時は速やかに黙らせたいんで』
そう説得して、俺は1人で作業に入ることにした。メインコンピュータにアクセスを開始。とんでもファイアウォールだったくせにはパスワードも無しでシステムに侵入できた。ナメてんのかと少しイラッと来たが、それはそれで楽だからラッキーだとしよう。
(セキュリティがしっかりしている割りにはデータの破損が多いな。ひょっとしてここもハズレか・・・? とりあえずステガノグラフィアにもサルベージを手伝ってもらうか)
ステガノグラフィアを再発動して、データベースに潜らせる。次々と文字化けなど破損したデータが集まってきた。その中で目を引いた「アンドレアルフス? ディアボロス? アグレアス?」を呟いてみる。
SOAFAC/X-01アンドレアルフス。SOWRA/X-01ディアボロス。EMFIS/X-01アグレアス。どれも悪魔の名だ。そして前に付いている型式番号のような文字列。経験からしてXは試作機を意味し、数字は開発順。それに文字化けが酷いが、似たような型式番号のような単語が10個以上ある。
「おいおい、しかも比較的新しいデータだぞ・・・! まさかここは、兵器開発施設・・・!?」
さらに踏み込んで調べて行く。ミサイルという単語を発見。先ほど調べた2つの施設の物よりやはり新しいデータだ。そして調べるうちにディアボロスの詳細に行き着いた。
「The strategy order weapon Railway artillery・・・! おいおい、戦争でも始めるつもりか!!」
SOWRA/X-01ディアボロスとは、戦略級兵器・列車砲:試作1号機のことを示していた。おそらく解読できない型式番号付きの単語も何かしらの兵器なんだろう。ふざけるなよ、おい。こんな兵器を造ってどうするつもりだよ。さらには遺伝子構造のようなデータが確認できた。
(遺伝子・・・。っ! まさか、生体兵器・・・!?)
考えたくはないが、プロジェクトFを生み出したプライソンのことだ、生体兵器くらい簡単に造れるだろう。やばい、あまりに最悪な情報ばかり出て来て頭が痛くなってきた。
『こちらクイント。一旦そっちに戻るからね。・・・ルシル君の方は何か判った?』
クイントさんからの連絡。俺は『最悪な事ばかり判りました』そう答え、『とりあえず皆さんが集まってから話します』伝えておく。騎士ゼスト達が戻って来るまでにさらにデータを集めようとキーを叩いていた時・・・
「・・・っ!? ルシル君ッ!! うし――」
――闇の女王の鉄拳――
後書き
ブオン・ジョルノ。ブオナ・セラ。
はーい、今話はドクターの兄だというプライソンと関わりのある違法施設に潜入する話となりました。ここでエピソードⅣで重要になる単語をいくつか出したましたよ。
ディアボロスは列車砲で、アンドレアルフスとアグレアスもトンデモ兵器です。型式番号でその正体を予想できた方はおそらく神様です。胸を張ってください(笑
次話はこの潜入捜査の結末・・・かな? 文字数によっては2話に分けるかもしれません。
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