ブレイクブレイド 漆紅の刄と蒼き鋼のアンダーゴーレム
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ユネス・ランガード
前書き
ブレイクブレイド大好きンジャァ!!!!!!
能無し
魔力を持たない人間に与えられたレッテルは言葉通りで有り偽りでもある。
とある国のとあるゴーレム乗りは能無しのレッテルを貼られながらも敵国の将軍を討ち取った……そんな嘘の様な話も真実で有り事実だ。
夢を見るのも人の勝手だ。
落ちこぼれでも人間だし有能な人間でも失敗する。
エリートと言う名の無能力者は戦場で散り命を落とす。
俺も、その一人なのかも知れない。
「―――ユネス―――ユネス・ランガード」
ハッ……。
「何をボーッとしておるかね。
今は講義の真っ最中だぞ」
周囲の生徒からはクスクスと笑われ少し恥ずかしいと思いつつも俺は黒板に映し出されている文字に目を向けた。
今、受けている授業は国同士の国境線と各国々で主力とされているゴーレムの基本武装で。
余り、気の乗らない授業だった。
平民生まれで平民育ちの俺からすればゴーレムなんて関係のない人生だから受ける必要はありません。
なんてちょっと前の俺なら言ってたかも知れないけど。
そんな悠長な事が言っていられない程、この国の状況は最悪だった。
度重なる他国からの領土問題、深刻になりつつある食料不足や石英不足。
他国と同盟を結び、国の安定化を考えた現国王は早速、お隣の国王 クリシュナ9世に協定同盟を持ち掛けた。
クリシュナ9世はその話を寛大な心で受け入れ、この調子で進めば国も安泰…………そう、誰もが思っていた。
なんで、こんな事になっちゃたのかな。
窓から見える数台のゴーレムに防寒具を纏った兵隊。
そう、今まさにこの国は戦争中なのだ。
戦争の発端は俺達、平民には解らない。
だか、これだけは解る。
これから始まる戦争に俺は駆り出され死ぬって事は。
この国の欠点と弱点は民とゴーレムに有る。
大陸一人口の少ない国にプレスガンを持たないゴーレム達。
プレスガンはその名の通り空気の力で玉を飛ばす銃だ。
技術の乏しい我々の国では希少で生産ラインは他国からの輸入のみで数える程度しかない。
プレスガンを精製する技術を持ち合わせない小王国に勝ち目はないし、そもそも人口の数が少なすぎる。
戦争は大体、数で決まる。指揮官の優秀な判断で動き、数で攻め。数で押し切る。戦術も戦略も必要不可欠だ。
だが、圧倒的な数には敵わない。
ここ、アイスチール国の所有ゴーレムの数は30。
かくして相手は300以上。
数は10倍差で国力も安定しない国に勝機なんて微塵もない。
あっ……でも、有利な点は一つあった。
それは、ここら一体が雪と氷で覆われている事だ。
アイスチール国領土 割れた大地の切れ目
「オイ! 有ったぞ!」
「情報通りだ……」
「スゲェ!マジかよ!?」
アイスチール王国ではとある伝説が残っている。
それは遠い遠い……まだ、人類が石英を扱うより前のお話。
この土地では数千、数千万のゴーレム同士で戦争があった。
そのゴーレムは一回の跳躍で数百メール離れた大地に飛び、その拳の一撃は巨大な岩を砕き、その目は数万メール離れた異国さえ見通す最強のゴーレム。
その残骸が残っていると。
「アンダーゴーレム……」
その装甲は蒼、所々、破損箇所が見られるが恐らく数千年前の戦争の物だろう。
そして特徴は折れた刄だった。
頭部、両腕、脚部、焔の様な紅の刄はとても数千年前の物とは思えない程、美しく残酷な色で彩られ見る者を魅了させる。
「ホント凄げぇな……これ過去の遺産だろ?
それなのにこんなにも原型を留めてやがる」
「過去の異物と言えど過去の技術で造られたゴーレムだ。
今の技術では到底、及ばない科学力の結晶の塊。そんな簡単に使い物にならなくなっては困る」
「簡単にって……このゴーレムは数千年前の物なんだろ?」
駄目になるのが当たり前じゃ……と思いつつ男は氷で覆われたアンダーゴーレムを見上げた。
「さて、早速、コイツの発掘作業を始めるぞ」
そしてとある男はとある疑問に頭を悩ましていた。
目の前のアンダーゴーレム……それはクリシュナ王国で名を馳せる《黒銀》の形状と告示していた事に。
その大陸は一年中、不可解な現象で覆われた未知の土地だ。
故に、他国の介入は少なく平和で多少、生活に困っても戦争からは逃れられる利点は大きい。
従来のゴーレムでは歩く事すらままならない氷の大地に。
永遠と降り続ける雪は他国の介入を許さず、それを拒む様に砦となった。
自然の砦は平和の象徴とされ。
崇められ慕われ愛される。
そしてその地方で暮らす人間達の独特な進化は他の大陸では見られない希少な存在となった。
寒さの対抗力、肌の色や髪の色素、優れた利点はこの地で生き抜くために必須な知恵で有り生き残る為の武器になる。
「戦争反対!」
「「戦争反対!!」」
「戦争反対!」
「戦争反対!!!」
「「「「「「戦争反対!!!!!!!!!!」」」」」」
戦争反対のデモ運動だ。
今、国は三つの勢力に別れ民はその三つのどれかに属している。
一つは戦争反対。
一番妥当であり、出来るなら俺も戦争には反対したい。
二つ目は講話。
話し合いで戦争を解決する。または和平の道を目指す。
補足、三つの勢力の中で一番人数の少ない勢力。
三つ目は戦争賛成。
不安定なこの地を捨て新たな地、新天地を目指す洗脳宗教的な感じだ。
そんなの無理に決まってる。
ゴーレムの数、戦闘員や兵士の数を考えてから言えよ。
一つ目と二つ目は似て異なる勢力で目指す所は同じでもその道筋は別って事で分かり合えず。
三つ目の勢力は当然、孤立する。
それなのに案外、戦争賛成の勢力は多い。
まぁ、解らない事もない。
こんな土地じゃ、食糧不足になるのは目に見えてるし別の土地に逃げ込むのも一つの手だと俺も思う。
だが、それが出来ない。
理由は簡単だ。俺達の民族独特のルックスだ。
髪の色や目の色、それらは他国の民族と比べると違いは歴然だ。
戦争中の国の人間だと解ったら何をされるか解らないし下手に動かず今はこの国で身を潜めるのが最善と言える。
戦争が始まって数週間、これと言って変わった事はない。
あるとすれば砦付近で護衛するゴーレムの数が増えた事と最近、ウチの国の将軍が数十名の兵士を連れて何処かに行った事くらいだ。
まぁ、国境の守りを固めてるんだろう。
この地方独特の氷の大地に、吹き荒れる吹雪は他国の侵入を許さない。兵士の数を自然現象でカバーするのはこの国の基本だ。
……と言っても数で攻められると流石にヤバイ。
一刻も早く前線に兵を送り込む為には民を使う、それがこの国の考えだ。
多少の労力低下を考慮し兵の育成に金と設備を掛け、兵士を作り上げる戦法でこの国は戦争に対抗する様だ。
俺も、その一人で。
平民で目立った所も無いけど兵として駆り出される事となった。
まぁ、農作業から逃げられるし兵として軍に入れば多少ながら食糧と金を頂けるシステムで俺は何の躊躇も躊躇いもなく入隊した。
今は駆り出される前の雛の様な状態で勉強やゴーレムの整備、運用を仕込まれている。
大抵のゴーレムは貴族のボンボン専用で平民は剣や槍、貴重なプレスガンで特訓するのだが、一部、例外もある。
平民でもゴーレム乗り、平民と言ってもゴーレムに適性が有れば国から希少なゴーレムを支給されるらしい。
貴族は口ばっかりって聞くけどホントかね?
貴族も災難と言えば災難である。だって、前線で無理矢理、戦わされるんだぜ?
俺なら敵前逃亡は死刑とか言われても逃げるぞ。
現在、国で稼働中のゴーレムは約10機。民間の暴動や敵の歩兵程度なら十分対応できる数だが、もし今、この瞬間に敵国から攻められたら劣勢を強いられるのは確実だ。
その為に前線にはこの国の優秀な兵士とゴーレム乗りを立たせることで現状は何とかなっている状況だ。
プレスガンさえ製造できばもう少しまともな守備力を確保できるが、それすら叶わない状況では夢のまた夢……。
ゴーレム適性の高い人材が貴重な現状況ではプレスガンを扱えるのかすら解らない状況で、ゴーレムにされ適合できればそれでいいとされ考える国のお偉いさんも少なくないらしい。
ゴーレムには適合できても主装備であるプレスガンは扱えないケースは珍しくない。
俺もその一人だ。ゴーレムを動かす事は出来てもプレスガンを扱えず、もし仮にゴーレムを一台与えられたとしても主力装備はヘビーランスかゴーレム用の剣、どちらも接近戦専用の武装で戦場では格好の的と言える。
こればかりは才能だ。
俺はまだ使える方の分類と自分では自負している。
逆にプレスガンは扱えてゴーレムを動かせない人間も少なからず存在するし俺は全くの無能とは扱われない。
それに、俺には他人の持ち合わせない才能を持っている。
それは――――――。
「新入り、後は頼むぜ!」
半分酔っている上官にため息を付きつつも俺はゴーレムのメンテを続ける。
よく、仕事中に酒を飲めるな。その神経に尊敬しながら軽蔑の視線を向けると。
「あ~新入り、これも頼むわ」
そう言うと上官は隣のドックで整備されていたゴーレムに指を指した。
「え…あれって大破したリカーナですよね?」
無残に壊されたゴーレム、流石に俺一人では直せない。
すると上官は「察しの悪い新入りだな」と言って。
「コイツをバラすんだよ。
知ってるだろ、新品のゴーレムを造るより大破したゴーレムを治す方が金、掛かるって」
破損状況を確認する限りだと右脚のフレームは歪み、左腕は綺麗に切断されている。
確かにこの状態なら直すよりも新しく別のゴーレムを造った方が効率的だ。
「使えるパーツを幾らか残ってるみてぇだし解体後、使えるパーツはゴーレム整備に回しとけ」
……それなら最初からゴーレム整備士にやらせろよ。
と渋々思いつつも俺は「……分かりました」と言って作業を続けた。
「ふぅー。大方、終わった~」
雪国専用ゴーレム【リカーナ】
形状は今や敵国となってしまったクリシュナのゴーレムと告示し基本性能もこれと言った差はないレプリカと言えるゴーレムだ。
以前、 リカーナ制作時にクリシュナの技術者に手を借りたためクリシュナのゴーレムと告示する型となった様だ。
基本武装もさほど変わらず、目立った特徴はゴーレム全身を覆った布だ。
「オーイ、カモフラの予備持ってこーい」
「はーい」
整備兵はリカーナに装備するマントの固定パーツを持って走り回る。
整備中のゴーレムから取り外したパーツの修理を終え、ゴーレムに設置する所を見ると新型カモフラージュマントは完成した様子だ。
「お疲れ、マント取り付けるから隣のドック借りるよ」
「あぁ、頼む」
「へぇー。アンタ、一人で整備してんの?」
作業中の俺を見て整備士は言った。
「ん? あぁ、先輩方は居酒屋で飲み中だ」
「大変だな~腕の立つ後輩が部下だと上司は楽できていいな~」
「俺は大変だよ」
まだ解体の作業も残ってるし今夜は徹夜コース確定だな。
解体するのは整備するより楽でもそれを一人でこなすのは骨の折れる作業だ。
「……ほぉ~ここの調整、中々イイね!」
整備士は整備を終えたばかりのリカーナの拳を撫でながら言うと。
「なぁ!アンタの名前は?」
「……ユネス ランガード」
「へぇー。変わった名前だな。
俺の名前はランジス、ランジス マッカート」
ランジス マッカート?
確か……ここの整備長の息子の名前だった様な。
「それでユネス、ここの駆動系の所。
なんで態と緩めにしてるんだ?」
「キツく締めすぎるとゴーレムの動きを阻害するし緩すぎると戦闘中分解の可能性も有るからな。
敢えて規定値より緩く締めて柔軟性を確保しつつ腕の関節を曲げる時の速度を上げる為だ」
「ほほぉー。俺と同じ考えだ」
そう言ってランジスは作業袋からナットを取り出し。
「でも、ここのボルト強度を考えるともうちょっと締めないと接近戦だとイカれるぜ」
キュキュッとナットでボルトを締め直しランジスはニコッと笑った。
「ありがと、参考にするよ」
「いや~それほどでもねぇよ」
「よし!終わった」
真っ白なマントでゴーレム全体は覆われ装甲の隙間に特殊なカモフラージュ用の布を纏わせリカーナの調整は……やっと…………終わった。
「解体作業は終わってないけどね」
「まぁまぁ、気を落とすなよ。
俺も手伝うからさ」
「そりゃぁ助かる」
自然と笑みを浮かべながら俺は解体中のリカーナの腕から靭帯を取り出した。
「相変わらず絡まってるな」
靭帯を何重にも束ねて靭帯馬力を向上させると接近戦や移動する時、等に効果を発揮するが。
靭帯を重ね過ぎると戦闘中や移動中に絡まってゴーレムの行動を阻害してしまう。一応、絡まらない様に靭帯の位置を工夫している痕跡は見られるが、激しい動作をするとどうしても靭帯同士が絡み合い機能を提出させてしまう。
恐らくこのリカーナもそれが原因で大破したのだろう。
戦闘中に靭帯同士が絡み、敵ゴーレムの攻撃で大破まで追い込まれ搭乗者は命からがら逃げ延びると。
まぁ、搭乗者から無事なら俺はいいけど。上の奴らはその命からがら逃げ延びた搭乗者を敵前逃亡と判断し減俸になったそうだ。
―――――なんか理不尽だよな。
戦って死ぬってどんな気分なんだろうか?
その時にならないと解らない気分に頭を悩まし俺はこのゴーレムに乗っていた搭乗者の心境を想像する。
……生きて帰ってこれただけ儲けもんなのかもな。
他国では敵前逃亡は死罪で生きて国に帰っても死刑なんて事も有るらしい。実際の所、詳しく知る訳ではないので減俸で済んで良かったね♪と慰めるべきなのかも知れない。
この国の兵士は浅く戦の経験の少ない。
戦争慣れした兵士から見れば一般人と差ほどの脅威も感じず殺すだろう。
それ程、この国は平和だったのだ。
仮初の平和で満足し食糧不足や他国からの圧力に悩まされる事は有っても平和だったのだ。
今、その仮初の平和の鍍金は剥がれ。
この国は危機を迎えている。
敗北は有っても勝利は敵わない。
この国の敗北は、ほぼ決まっている。
それでも必死になって抗い抵抗しこの国は勝利を勝ち取ろうとしている。意気込みは有っても勝算はない。
唯一の勝算はクリシュナとの同盟。
一度は失敗した同盟をもう一度、持ち掛け同盟に成功すればこの状況を打開できるかも知れない。
だが、それが出来ないからこそアイスチール王国は戦争の危機に陥っている訳で今更、同盟してもアテネス軍に攻め滅ぼされる結果は変わらない。
この国は正確に簡単に単調に一言で説明するならば大陸地図で記されているクルゾン大陸でこの国は《存在》していない事になっている。
この国は大陸全体を地図で示した後に発見された未踏の地で発見される前から特有の文明を発達させた人間達の国だったのだ。
その正確は温和で非常に穏やか。
文明も他国より劣り、領土を拡大する為の格好の的だった。
なのに、アイスチール王国は未だに支配されず独自の文化と他国から得た技術力を吸収し今に至る。
何故、落とせない? 何故、戦を得意としない彼等に敗北するのか?
別にアイスチール王国の人間が他の人間より別段、優れている訳でもない。それなのに彼等は他国からの侵入を阻み続けた。どうやって……一体どうやって?
簡単だ、この国。アイスチール王国は雪と氷で覆われた未踏の大地だからだ。
寒さや地形の凹凸に吹雪、雪国特有の環境に対応する事が出来ず。彼等は環境を利用し自分達の身を守ったのだ。
流石に大国であれど天候や環境には対応できず撤退を繰り返しこの国は今に至っている。
ゴーレムの数や兵の数を環境、地形でカバーしアイスチール王国は何度も危機を脱し。この大地の気候、環境に救われてきた。
この国の存在は他国では秘匿とされ一部の人間のみが知る秘境とさえ言われる程。
アイスチール王国は山と山の間に存在し。
周辺は山だらけ、これこそ自然の砦に相応しい。
敵国は山を登らねばアイスチール王国を攻略する事は出来ない。自然に護られた国、アイスチール王国を落とせない最大の理由だ。
鉄壁の守備力を誇る国、はっきり言うとこの国は『それだけ』なのだ。
確かに防御力は優れている。だが、それ以外は平凡で軍事的利益は全くと言って無い。
それなのにアテネス軍はこの国を狙っている。
資源、食糧に乏しい国を落とす必要はどこにあるのか?
それすら俺達、下っ端には関係のない事だった。
国が危機なんだ、国を守る為に武器を取り戦え。
上の奴らは俺達に何かを隠している。それが何か俺には解らない。だが、大国 アテネスが欲しがる何かがある事は確かだ。
微かな胸騒ぎと収まらない高揚感に似た感情を抱きつつも俺は作業を続け、夜を明かした。
そのゴーレムは石英の結晶で固められていた。
これ程の石英の結晶で覆われているとなるとこのゴーレムは数100年から数千年前に造られたと考えられる。
「作業の方はどうなってる?」
「まだまだこれからって感じだな。
コイツを覆ってる石英の結晶が嫌に硬くてな。まずはコイツを削る作業からしねぇと」
「こっちの方は特に変わった点は有りませんでした。
このアンダーゴーレムに関連する物は確認できずで……」
「構わん。そう落ち込むな、これさえ見付かれば問題はない」
「……アッ、そうだった! 洞穴です!」
「洞穴?」
「はい! ここら一帯に複数確認されており。
もしかしたらアンダーゴーレムに関する情報が入手出来るかも知れません!」
「ほぉ、それは期待できるな」
「つってもよぉ。この吹雪の中に突っ込むなんて俺は嫌だからな」
「誰も、お前に行けとは言っていない。
だが……確かにこの吹雪の中を突破するのは無謀だな」
「まぁ、吹雪が収まるまではコイツの発掘作業を優先して弱まったら分担しながらその洞窟とやらを探索するしかねぇわな」
「貴様にしては名案だ」
「うるせぇー。さっさと仕事を終わらせて帰りてぇだけだよ」
「さて、我々も発掘作業に加わるとしよう」
そう言って男達はアンダーゴーレムの発掘作業を始めた。
その頃、本国 アイスチール王国では――――。
「―――終わった……」
朝日の出る直前、リカーナの解体作業は終わった。
本来ならもっと早く終わる見込みだったが、整備士 ランジス マッカートと口論したり喧嘩したり分かち合ったりなんやかんやで一晩中、大変だった。
「お疲れ~。お前、目の下の隈、凄げぇ事になってんぞ」
「それはお互い様だ。お前も中々、えげつない事になってるぞ」
「……マジで?」
「あぁ、マジだ」
「帰って寝るか」
「そうだな……今日はもぉ、疲れた…………」
「大丈夫か? ふらふらだけど」
「大丈夫だ~」
そう言ってランジスは歩き出した。
歩くだけでふらふらで今にも倒れそうな所を見ると相当、疲れているのが解る。
俺の仕事を手伝う前から疲労も溜まってたんだろうな。
今度、会った時は感謝しないと。
俺はそう思いつつ目を掻きながら歩き出した。
我慢しようとすると勝手に出てしまう欠伸に眠気をそそられながらも俺は歩いた。
【アイスチール王国 玉座】
この国の王は女の子だった。
年端のいかない女の子はこの国の姫で有り王女で在った。
全国王は数ヶ月前に病死し。その娘、ユーナ・アイスチールは全ての責任権と罪を咎めさせる事で王に即位させられた。
その王女は保険だった。
よくある話だ。
どうでもいい奴を犯人に仕立て上げて当の本人は後方から命令するだけ。そして捨て駒として捨てる、「私は何も知りません」そう惨めに地面に這いつくばりながら負けた時に備える様に。
それを子供に背負わせる最低なクズ野郎は安全な所からのうのうと指示を出しこの国を支配する。
この戦争に勝っても負けても王女は意味はない。
負ければ殺され。勝っても操り人形のまま生涯を終えるだけの虚しい人生。
でも、それでも女の子はいいと思っていた。
この国を守れるならこの国を見届けられるなら……民を愛し国を愛する女の子は孤独だった。
国の上層部の大半は敵、その中にも女の子を国の王と認め仕える者も居れば玉座を影から狙う者も居る。
その代わりは幾らでも居る。
女の子は知っている。自分が死んでも別の誰かが私の代わりに王と成ると。だが、それでは何も変わらない。
……私が死んでも、この連鎖は断ち切れない。
裏で実権を握っている奴からすれば女の子は王は置物でしかない。王が変わろうとそれは変わらず、また新たな操り人形として扱われるだけだ。
なら、私は操り人形を演じよう。
女の子は孤独だ。
それは国を想い、国を愛するが故に孤独だった。
先代の誓を胸に女の子は今日も操り人形を演じる。
玉座で座り、国を眺め。言われた通りに指示を出す。
この国の為に。この国の為に……。
「そんなかった苦しくなるなよ」
その一言で女の子の真っ暗だった視界は光で満たされた。
「女王なんて関係ない。お前はお前の望む様に生きればいい」
「国を護りたいならその武器を使って運命に足掻け」
「そうすれば自ずと道は開くからさ」
女の子は涙を流し。
男に抱きついた。
男は女の子の頭を優しく、優しく撫で決心した。
この女の子を守る。
その決心は後に男の人生を運命を狂わしい困惑させる。
それは始まりの終わり。終わりの始まりでもあった。
男の名前はユネス・ランガード。
この国でこの世界で一番、魔力を保有するゴーレム乗りだ。
これはそんな男のちんけな物語。
女の子を守る為に、国を守り。女の子の為なら国をも滅ぼす、そんな男の物語
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