弱点
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5部分:第五章
第五章
「そうそう、これがいいのよ」
「もう最高」
「いきなりそう来る?」
「このお化け屋敷わかってるじゃない」
彼女達にとっては素晴しいものだった。素直に喜んでそのうえでだ。中を進んでいく。
進むと血塗れの包丁を持った化け猫に動く雪女、それに口が耳まで裂けたろくろ首に人の生首、背筋には蒟蒻が来てひやりとする。中身は真っ暗で何時何処から何が出て来るかわからない。陽子はその中をだ。仲間の一人の手を掴んで進んだ。
そうして一行が外に出たその時だった。四人は。
「いやあ、よかったよかった」
「テーマパークの遊園地でもこうはいかないわよ」
「こりゃ通が演出したわね」
「見事見事」
心から楽しめてにこにことしている。しかしであった。
ここで四人は陽子を見る。
「ねえ、陽子ちゃんもでしょ?」
「楽しんだでしょ?」
「どう?気分は」
「やっぱり最高?」
しかしだった。その陽子はというと。
一人の服の袖を掴んだまま気絶していた。そうしてずるずると引き摺られていた。そうして外まで出ていたのであった。口から魂が出ている。目は真っ白になっていて顔面蒼白である。死んでいた。
四人はそんな彼女を見てであった。わかったのだった。
「怖かったんだ」
「まさかと思うけれど」
「そうだったんだ」
「お化け屋敷が」
「で、出た・・・・・・」
その死人が喋った。
「お化けが、幽霊が・・・・・・」
これで、であった。あることがわかったのであった。
陽子は怖がりである。それも極端な、だ。このことはすぐに校内に知れ渡った。そうしてだ。皆口々にだ。こう話をするのだった。
「あれでねえ」
「あの娘の弱点だったんだ」
「そうだったのね」
「意外っていうかねえ」
「しっかりした娘なのに」
それでもだというのであった。
「怖がりだったのね」
「そういえば怪談とか聞こうとしないし」
ここでこのことが思い出された。
「お化け屋敷も何か入りたくなさそうだったし」
「そうした事情だったんだ」
「つまりは」
「けれど」
それでもだとだ。ここで誰かが言った。
「何かそうしたところがあるってね」
「悪くないわよね」
「可愛いっていうか?」
「人間味があってね」
「いいんじゃないかな」
その弱点がだ。肯定されるのだった。
「人間完璧だとどうもね」
「そうそう。面白みがないっていうか」
「どうにもならないわよね」
「かえってね」
そうだとだ。話されていくのだった。そして本人はというと。
そのことが、お化け屋敷で気絶したことが悔やまれて仕方なかった。文化祭が終わってもだ。クラスでも部活でも沈み込んでいた。
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