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5部分:第五章


第五章

「すいません」
 国友とエースが先生とナインに謝る。
「俺達のせいで」
「いや、さっきのは仕方がない」
 だが先生はそう言って二人を許した。
「今のは俺も抑えたと思った」
「そうなんですか」
「ああ。御前の投げたボールは何も悪いところはなかった」
 そうエースに告げる。
「いいストレートだったぞ。それを打たれたんならな」
「はあ」
「仕方がない。だから気にするな」
 また彼に言う。
「いいな」
「すいません」
「だから謝る必要はないんだ」
 先生はまた二人に言葉を述べた。
「言っているだろ、悔いのないようにしろ。わかったな」
「それじゃあ」
「いいか」
 ここで皆に言うのだった。
「最初に戻っただけだ。いいな」
「最初にですか」
「そうだ。後は一点だけ取れ」
 そうナインに告げる。
「それだけでいいからな」
「わかりました。それじゃあ」
「ああ、向かって行け」
 今度はハッパをかけた。そうしてナインをグラウンドに向かわせて自分はそれを見守り続けるのだった。試合はそのまま延長戦に入りなおも流れていく。
 その中で達明は今までにも増して試合に集中するようになった。見事な動きでゴロもライナーも処理してバントも決める。しかし彼一人でどうにかなるわけでもなく試合は延長戦に進んだ。
 延長戦になっても激しい攻防が続く。やがて達明達のピンチになった。
 ツーアウトだがランナーが三塁にいる。一打で敵に追加点が入るという場面だった。
 気が抜けない、達明は思った。何が何でもミスをしてはいけない。そう思って守備についていた。
「絶対に」
 彼は心の中で呟く。
「絶対に守るんだ、それで裏の攻撃で」
 勝つつもりだった。それを狙っていた。その為にも今は何があってもミスはできない、それを何度も心の中で呟きながら相手のバッターを見ていた。
 そのバッターが打った。打球は達明の方に来た。国友はそれを見てすぐに立ち上がり彼に指示を出してきた。
「久保田!」
 立ち上がりながらマスクを放り投げる。そうしながらの言葉だった。
「バックホームだ!」
「バックホーム」
 見れば三塁ランナーが突っ込んできていた。彼もツーアウトなので思い切った行動に出てきていたのだ。それは彼にも見えてきた。
「いいか!早く!」
「は、はい!」
 達明はすぐにそれに頷く。そうして打球を処理してホームに投げる。ところが。
 打球が逸れた。高かった。国友はそれを見てジャンプした。ボールは何とか逸らさなかった。だがそれでホームを離れてしまった。そうしてその隙を衝かれたのだった。
 三塁ランナーがホームインする。一点だった。追加点を入れたのは敵のチームだった。
「しまった・・・・・・」
 追加点が入ったのは達明にも見えていた。他ならない自分の送球のせいだったからだ。
「俺のせいで・・・・・・」
 思わずその場にしゃがみ込んでしまった。もう何と言っていいかわからない。
 何も言えず何も考えられなくなった。試合は結局その一点が決勝点となってしまった。達明の学校は敗れ彼等がここで終わりとなってしまった。
 達明もナイン達も泣いていた。しかし先生は気丈なのか泣いてはいなかった。
「よくやった」
 こう言うのだった。
「御前達の試合、見せてもらった。よくやったじゃないか」
「そうでしょうか」
「ああ、そうだ」
 また彼等に言う。
「いい試合だった、それでいい」
 実は先生も負けて悲しい。けれどそれを必死に隠していたのだ。泣いている生徒達を励ます為にも。
 
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