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拳と弓

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2部分:第二章


第二章

「とにかく決まったから」
「決まったって待って下さい」
 麗はムキになって大次郎に言い返す。
「そんなことで納得は」
「そうだ、何なら生徒会に言って」
「だから止めなさいって」
 横から悠里が出て来て直樹を止める。
「これ以上生徒会に迷惑かけてどうするのよ。とにかく決まったから」
「頑張ってね。いいね」
「くっ、どうしてこんな女と」
「こんな人と」
 直樹と麗は互いを睨み合って歯噛みする。そんな姿を見て大次郎と悠里はこれからのことにかなり不安を感じてもいた。
「大丈夫だよね」
 大次郎は不安げな顔で悠里に問う。
「これで仲良くならないまでもましには」
「なってもらわないと困るわよ」
 悠里も眉を顰めさせて述べる。
「これ以上あの二人の騒動に巻き込まれたい?」
「まさか」
 それはすぐに首を振って否定する。
「もうこれ以上は。だから」
「そうでしょ?それじゃあ」
 大次郎の顔を見上げて言う。
「何があってもね。掃除上手くやりましょう」
「うん」
 二人は二人で必死だった。その不安な顔を見合わせている。その表情こそが二人のこれからのことに対する感情だった。不安に満ちていたのだ。
 何はともあれ掃除の時となった。最初はお互いかなり険悪なムードであった。
「向こう行けよ」
「そっちこそ」
 男子空手部と女子弓道部は相変わらず仲が悪い。わざわざ来て見守っている会長は不安げな顔で彼以上に不安げな顔の大次郎と悠里に尋ねてきた。
「大丈夫ですか、これで」
「とにかく最後までやりますから」
「安心して下さい」
 二人は何とか不安を隠して会長に答える。
「こうやって一緒にやっていけば」
「きっと」
「だといいですけれどね。何せ仲の悪さって伝統ですから」
 会長は二人のそうした言葉を聞いても全く安心できなかった。目の前でそれぞれの道着を着て掃除をしている部員達を見守っていた。見れば少しずつだが次第に協調するようになっていた。男子弓道部と女子空手部の面々がひそかにサポートにあたっていた。
「何か少しずつですかね」
 会長はその少しずつよくなってきていることに気付いて言ってきた。
「仲良くなってきていますね」
「はい、何とか」
 大次郎が会長に答える。
「少しずつですけれど」
「実際かなり不安でしたよ」
 悠里もその横にいた。不安げな顔がかなり和らいできていた。
「けれど本当に少しずつ」
「そうですね。何かいい感じです」
 会長の顔は笑顔になってきていた。彼等が仲良くなってきているのを見てほっとしていた。
「けれど最大の問題はどうなのでしょうか」
「あの二人ですか」
「ちょっとそれは」
 大次郎も悠里もここで顔を暗くさせてきた。
「相変わらず顔を見合わせませんし」
「どうしたものでしょう」
「というか見てみると」
 その二人を見ていると会長の顔がどんどん不安なものに戻っていく。その顔の先にあるものは彼の最大の頭痛であった。
「あの二人は余計に」
「そう見えますか?」
「見えます」
 会長は大次郎に答える。
「というよりはそうとしか思えません」
「やっぱりですか」
 大次郎も悠里もそれを聞いて顔を暗くさせる。何か二人は一触即発になろうとしていた。
「確かに他の皆は少しずつ打ち解けていっています」
 会長はそれは認める。
「しかしあの二人だけは。どうにかなりませんか?」
「どうにかしようと思って今があるんですが」
 それに対する大次郎の返事はかなり困った顔をしてのものであった。
「ちょっとこれは」
「そうですか。ここまでとは思っていなかったのですが」
「残念ですがそうです」
 睨み合う二人を見ながら答える。
「見ているだけで何か」
「ちょっと、まずいわよ」
 悠里も言ってきた。二人は睨み合いを続けている。周りもそれに気付いて緊張しだしている。
「止めに行きましょう、早く」
「そ、そうだね」
 大次郎は悠里のその言葉に頷く。そうして今彼等を止めに向かった。
 大次郎と悠里が来た瞬間だった。直樹と麗は同時に口を開いた。
「この際だから言っておく!」
「ええ、聞いてさしあげますわ!」
「ああ、やっぱり」
 会長は遂にはじまった二人の衝突を目の当たりにして嘆く声を出す。天を仰いだがそれでもすぐに大次郎達に続いて二人の間に向かった。
 
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