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大海原の魔女

作者:てんぷら
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幼少期
  一話 魔法少女?

 


 雲一つない広い空。
 
 鳥以外に飛んでいるのは箒に乗った二人の『魔女(ウィッチ)』・・・一人は、まあ私なんだが。


「余所見をするんじゃない、箒から墜ちるよ。」
 もう一人は魔法の師匠であるお祖母様だ。ここブリタニアでも数少ない、魔力が衰えない魔女なのである。

 そんな彼女の頭部には獣耳、臀部には尻尾。何度見てもすごい姿だが、魔法を使う際には使い魔の一部が発現するのだ、
 この【ストライクウィッチーズ】の世界では。


「ダイヤ(Dia)、少し速度を上げるよ。」
「分かりました。」
 お祖母様は私をミドルネーム,ダイアナ(Diana)の愛称で呼ぶ。
 気恥ずかしいので、母さんたちのようにファーストネームのエレン(Ellen)でいいのだが。
 

 こうして空を飛んでいると、頭がすっきりして色々思い出してくる。
『俺』が ‘‘エレン・D・サーストン”という少女に生まれ変わったばかりの頃を。

 ◆◆◆◆◆◆◆
 


  ・・・いつからだろうか、 この薄暗みにいるのは。もうずっとここで微睡んでいたような気がする。


 ・・・だが、だんだん意識がはっきりしてくる。この夢から目覚めつつあるのだろうか。




  突然、強烈な光に包まれた。目が焼けるように痛く、おもわず悲鳴をあげてしまう。



「○○○○○○○!」

 声が聞こえる。
 どうやら英語のようだが、上手く聞き取れない。

「よく****!」
「ええ、------------。…………にも早く#####。」
 
 光に慣れてきた。声が聞こえる方へ目を向けてみる。

 







  そこにはかなり大きな男女がいた・・・巨人だろうか?
・・・いや、自分が小さくなっているというのか!?

 驚きのあまり声が出なくなる。

「おや、泣き止んだね。」
「泣き疲れたのかしら。」
「まあ産まれたばかりだからね。」

「ほら、私がお母さんですよ。こちらが
 お父さん。」
「…そうだ、この子の名前を決めてあげないと。」

 耳も慣れてきたのか、なんとか聴き取れた。

 …どうやら自分は赤ん坊になっているようだ。
・・・なぜだ。


「どんな名前がいいと思う?」
「そうね、女の子だから‘‘エレン”はどうかしら?」
「いいじゃないか。」

 ちょっと待て、女の子だと、俺が?






 ドアが開く。誰か来たようだが。

「その子かい?」
「そうですお義母様。エレンと名付けました。」
「もう名前を付けたのか、あたしも色々考えてきたのに。」
「じゃあミドルネームは母さんが決めてください。」

 入ってきたのは、この体の祖母のようだ。


「ジョゼフが赤ん坊の頃はやんちゃなうえ夜泣きばかりして眠れなかったが、この子は大人しそうだね。」
「恥ずかしいこと言わないでくださいよ母さん。」

「それよりこの子を『視て』いいかい?」
「はい。お願いしますね。」

 何をする気だ?


  祖母の頭から獣耳が生え、目が妖しく輝いた。
 ・・・何だこれ。

「かなりの魔力を持っている。幼いうちから修行すれば稀代の魔女になれるかもしれないね。」

 ・・・魔力?魔女?
 
「子供用の箒を用意しといてくれ。」
「機械式の物も手に入りますよ。大戦時の旧式ですけど。」
「あんなガラクタに乗せるな!最近の若者はちゃんと箒で練習しないから、質が下がっているんだ。だいたい先の大戦で役に立ったといっても、機動性が悪いやら魔女の負担が大きいやらで死傷者続出だ。あんたの姉たちだって…」
「…僕以外の研究者の前で言わないでくださいよ。二度と多くの犠牲を出さないために、ストライカーユニットを改良しているのですから。」


 ・・・話が重いな。
 それにしてもストライカーユニット、か。
 となると ここは【ストライクウィッチーズ】の世界なのか?少女たちが宙を舞いネウロイという敵と戦う、あの?
 

 母親が口を開く。
「暗い話はお仕舞いにしましょう。」
「…そうだね。それよりこの子の使い魔を準備しないと。」
「お義母様、気が早いですよ。赤ちゃんの仕事はまず成長することですよ。」
「ああ、 早く大きくおなり。」


 ◆◆◆◆◆◆◆


「ぼーっとしてるんじゃないよ!」
 考え事をしていたら、怒られてしまった。


「今日はこのままカンタベリーまで行くよ。」
「…遠くないですか?」家から20km以上離れているぞ。

「それくらいこなさないと、修行にならないだろ。」
「私は朝早くから魔法薬調合のアシスタントをさせられて、へとへとなのですが。」
  人と話すときも頭の中でも『俺』ではなく『私』を使うようにした。もっともブリタニア語では、どちらも『I(アイ)』になるのだが。

「なのですもナスもない!つべこべ言わずついてきな。」


 ◇ ◇ ◇


 三時頃ようやく家まで帰ってこれた。
 ブリタニア南部,ドーヴァー近くの田舎にあるカントリーハウスだ。


  門の前に母さんが立っている。彼女は扶桑人だがブリタニア人の父さんと結婚している。
 
「ただいま。」
「おかえりなさい。ところでお義母様は?」
「先ほど別れた。町に用事があるらしいよ。」
 

「あっ、姉さん。」振り返ると二人の妹が。
 妹は三人いるが、今見えるのが三女のルナと四女のクリスティ、見えないのは次女のフェイだ。

「ただいま、フェイはどうした?」
「林でかくれんぼをしていたら見つからなくなって…」
「お母さんたちに探してもらおうと…」

「わかった、今魔法で探す。」


 魔力を活性化させると、ヘッドバンドの横から金色の羽が生える。
 使い魔の『妖精さん』の羽が発現したのだ。
 

 妖精 ・・・彼らは何処にでもたくさんいる。海にも空にも森にも町にも、家の中にだって存在する。
 だが、多くの人には見ることすらできない。

 私が彼らと出会ったのは産まれて数日後のことで、目が覚めたら目の前に飛んでいたのた。あのときは驚いたな…

 最初に会った妖精さんが、私の使い魔になっているイージスだ。


 続けて固有魔法を発動させる。

 固有魔法『ネットワーク』
 これを使えば、周囲の妖精さんたちと意思を伝え合ったり知識や感覚を共有することができる。


 林にいる妖精さんに『アクセス』し、問いかける。

  (妖精さんたち、近くに小さな女の子がいないか?)
『いーえ』
『のー、あい でぃどぅんと』
『しらないです』
『だれですかー』
『そんなことよりまかろにたべたい』
『んー、さっきみた』
『みっかまえになら』
『ちくわ大明神』
 誰だ今の

 とりあえず、先ほど見かけたという妖精さんのところへ行こう。


 ◇ ◆ ◇


 私はかくれんぼが苦手です。いつも妹たちにすぐ見つかってしまいます。
 だから今日は気合入れて、高い木の上にかくれていました。


「で、降りられなくなったわけか。」
 助けにきてくれたのはお姉さま。クールでなんでもできる、私が大好きな人だ。
 
 安心したら涙が出てきました。

「もう、泣くな。ほらこのハンカチで涙を拭け。」
「だって私、見捨てられたのかと」
「そんなことないぞ。ルナとクリスティは母さんたちを呼びに行ったんだ、フェイを探す為に。」
「二人とも怒ってないかなぁ…」
「母さんも怒っているかもしれないな。フェイだけおやつ抜きかも。」
「ひえぇ!」
「冗談だ。」
 
 お姉さまに背負われて木からおりました。


「お姉さま。」
「何だ?」
「 ありがとうございます。」
「 どういたしまして。」


  ◇ ◆ ◇


 帰ってティータイムを楽しんだ後、私はバスルームにやって来た。だがお湯に浸かりに来たのではない、 魔法の練習だ。

 
・・・・・・・・・


 今、私はバスタブに満たした水の上に立っている。箒のような補助具を使わないので、なかなか難しい。



  こんな修行を続けるのは、この世界に来てから色々考えたからだ。

  なぜこの世界に転生したのか?
  どうして『俺』は女になったのか?


  そして わたしにできることは何か?

『原作』ではこのブリタニアは陥落しなかった。しかしこの世界でもそうなるとは限らない。

 原作通りの未来になっても、多くの人々の命が失われることに変わりはない。ひょっとしたら自分の家族も空襲で亡くなるかもしれない。

 
 
 自分の力を 大切な人を守るために、私は行動することに決めたのだ。

 
 

 
後書き
一部の登場人物にはモデルとなった艦娘がいます。分かりにくいかもしれないので設定に書きました。


設定

主人公
エレン・ダイアナ・サーストン…TS転生者で前世はエンジニア。
名前の由来
エレン…金剛型の設計の基となった戦艦『エリン』と、進撃の巨人の主人公から。(エレンは女性の名前らしい。)
ダイアナ…艦娘の『金剛』(ダイアナ←ダイヤモンド←金剛)
サーストン…金剛の設計者,ジョージ・サーストン卿から


サーストン家…ブリタニア南東部に古くから続く魔女の家系。宮藤家と同じように、この一族の魔女は魔力が衰えない。


一家の構成
・祖母…ヴィヴィアン [特殊な魔眼の持ち主]
名前の由来…湖の貴婦人 ヴィヴィアン
父…ジョゼフ[研究員] 名前の由来…適当
・母…成美(なるみ)
名前の由来…大日本帝国海軍大将 井上成美
・長女…エレン
・次女…フェイ
モデルの艦娘…比叡(ヒエイ→フエイ→フェイ)
・三女(双子)…ルナ
モデルの艦娘…榛名(ハルナ→ルナ)
・四女(双子)…クリスティ
モデルの艦娘…霧島(キリシマ→クリスマ→クリスティ)

・主人公の使い魔…イージス[妖精さん]


妖精… ‘‘さん”をつけろよデコ助野郎。
妖精にはグレムリンやピクシーのようにイタズラする者も多い。(例:船の羅針盤を狂わせる)
だがそんな彼らでも仲良くなれば、機械の整備を手伝ったり,ドラ猫を捕まえたりしてくれる。
主人公が妖精‘‘ さん”と呼ぶのは、彼らの機嫌を損なわないためでもあるのだ。
 
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