遊戯王ARCーⅤ 〜波瀾万丈、HERO使い少女の転生記〜
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激闘、マイアミチャンピオンシップ!
二十四話 ー開幕、舞網チャンピオンシップ!!ー
『舞網チャンピオンシップに出場してもらう』
ランサーズに正式入隊を果たし、初の指令。真澄と本戦で戦おうと約束していただけに、願ったりかなったりなのだがーー
マイアミチャンピオンシップ本戦1日目、閑散とした公園のベンチでひとり、優希は頭を抱えていた。そしてその原因は、対戦カードにあった。
第一試合 【無所属】 神崎 優希 vs 【遊勝塾】 柊 柚子
「なんでよりによって、柚子と当たっちゃうかな〜」
盛大に一人言を漏らすとハァーと大きく息を吐き出す。
喧嘩別れのような流れで、遊勝塾を辞めてしまっただけに今彼女らと会うのは非常に気まずい。それにペンデュラムカードを使ったことから、私が赤馬 零児の狗になったと思われているだろうからなおのこと辛い。
実際には、ランサーズ……もとい防衛戦力のひとりという事だが、長官が赤馬 零児であるのでその下にいる私はあいつの部下と変わりない。
しかし、これでは意図的に遊勝塾の皆を避けていた私の努力が完全に無駄じゃないか。 出ない、という手段もあるにはあるがそれで得た勝利など柚子のプライドが許さないだろうし、あのハリガネマフラーノーソックスが恐い。 八方塞がりの状況下に、肩を落とした。
「姉ちゃん!」
「えっ⁉︎」
その時、自分の名前を呼ぶ声に顔を跳ね上げると、目の前に怒ってますと表情で表したマイ・ブラザーが立っていた。その剣幕に思わず冷や汗が頬を伝う。
「……こんなとこで何してんのさ」
「いや、別に……」
「……もうすぐ試合でしょ?」
「う、うん……」
咄嗟に顔を伏せ、弟の責めるような眼差しをやり過ごす。だが代わりに痛痛しいほどの沈黙が周りを支配する。どうにかこの状況を打開する案を捻り出そうとするがうまく思考が纏まらない。
考えれば考える程に、遊勝塾のみんなが私のことを恨んでいるのではないかと思ってしまい辛くなる。そして、もうこの場から逃げ出そうと思い始めていた矢先、だんまりを続けていた徹が口を開く。
「…………怒って、ないから」
「……へ?」
「みんな、姉ちゃんが突然辞めた事、怒ってないから」
みんな……遊勝塾のメンバーの事だろうか。
「……そんなわけ、ないよ」
だって、私は遊矢の オンリーワン を使って彼を倒した。そればかりか、遊勝塾を辞め、赤馬 零児に下ったのだ。
私を許すなんて虫のいい話あるわけがない。そんなの、あっていいわけがない。
けど、私の弟は諭すように、慰めるように言葉を発した。
「姉ちゃんがどう思ってるかは勝手だけどさ……。遊矢さんや柚子さん、それに塾長たちだって心配してるから。戻って来て欲しい。それが難しいなら、今まで通り笑って欲しい」
元気ないのは、姉ちゃんらしくないよ、消えそうな徹の声にハッとさせられる。
「弟まで、心配かけるなんて……姉失格だね」
「今に始まったことじゃないから」
「酷くない!?」
棘のある言葉を向けてくる徹だが、つい先ほどまでの辛そうな表情はなく嬉しそうに笑っていた。それにつられて私も思わず頬が緩む。
「このやろっ、と」
「わわっ⁉︎いたいいたい!」
「〜〜〜♪」
徹の頭を捕まえ、ぐりぐりと強めに撫でてやると痛い痛い嫌がるも表情は楽しそうだ。もうしばらく、撫でて楽しんだ私はすたっと立ち上がり伸びをして凝り固まった体を解す。
「んんー!弟成分、補充完了!」
「なんなのさ、それ」
「姉っていう生き物はねぇ、弟成分を補充しなきゃ死んじゃうんだよ!」
ボサボサになった髪の毛を気にしつつ、半目で睨んでくる徹にニシシと笑い返す。なんだよそれ、と言葉を漏らすも徹はかねがね嬉しそうだ。
「ありがと、徹。私、今までどうかしてたね」
「今ごろ気づいたの?家でも母さんや父さんも姉ちゃんが病気かと心配してたし」
「何気に酷いな、あの人たち」
確かに元気が無く私らしくなかったのは確かだがそれを病気のせいにするとは……
両親の思考にげんなりとしつつも影ながら心配していてくれた事に嬉しく思う。
「さて、ちょっくら柚子ずとやりあってくる!」
「いってら〜。ほどほどにねー」
「応!」
ひらひらと手を振る徹をちらっと確認しつつ、会場へと駆けていく。
◆◇◆
デュエルが行われるメインスタジアムには客席全てが埋め尽くされるほどの人が集結し、デュエルが開始されるのを大会特有の騒々しさの中で今か今かと待っていた。
そんな中、司会進行役を務めるニコ・スマイリーはダラダラと冷や汗を流していた。
というのも、試合開始間近でありながらも柚子の対戦相手である優希が依然として姿を見せないからである。
まさか第一試合から不戦勝が決まるなんてことありませんよねぇ〜?などと内心心配しつつ、表情では営業スマイルを浮かべ優希が来るまでの場を繋いでいた。
『えー、第一試合開始まで残るところ五分となりました。このまま、神崎 優希選手が現れないとなると柊 柚子選手の不戦勝が決定します』
仕方なく不戦勝の可能性を説明すると予想した通り会場からはブーイングが起こる。
第一試合からデュエルが行われる事なく勝敗が決まるなどマイアミチャンピオンシップ始まって以来の問題だ。それにニコ・スマイリーの経歴にも傷がつく。
額からは滝のような汗が流れ、落ち着きがなくなっていたスマイリーは右往左往と忙しなく動く。
そして、残り一分。もう駄目だと諦めかけたその時、タッタッタッとデュエルコートへと向かって駆けてくる音が聴こえて来た。
そして待ちに待ったその人物は客席へと通じる出入り口から現れると勢いそのままに二階の客席から戸惑う事なくジャンプした。
「トウッ!」
いきなり現れたと思いきや幅のある客席を飛び越えるという大ジャンプ。デュエルコートに颯爽と現れた優希にオオオッ!と観客から拍手が送られる。
「あはは、間に合った?」
「優希……遅いわよ、バカバカ、馬鹿!」
「……ごみん」
存分に待たされた柚子は怒ってますと態度で示すが表情は嬉しそうに笑っている。
だが、いくら柚子たちが許してくれようと私は彼女らに言わなければならない事がある。
「ごめん!勝手に塾を抜けて……!」
「…………優希」
頭を下げて誠心誠意謝罪をする。これが私がやらねばならないこと。これはけじめだ。そうでもしなけりゃ前には進めないから。
「……許さないわよ、馬鹿!あなたは私が倒す!だから、優希も本気で私と戦ってよね!!」
「柚子ず……」
「柚子ずっていうなぁ!」
「……あぶなぁ⁉︎」
激昂した柚子がどこからか取り出したハリセンを全力で投擲してくる。それを上半身を反らす事で躱すと再び柚子へと向き直る。
「わかったよ。私の持てる全力で柚子を倒す!」
「私だって、強くなったんだからね!」
柚子が私に向かって熱い言葉を返す。 そして、それに感化されたのか『熱血だぁ!』と客席からは相変わらず暑苦しい塾長の声援と『塾長、煩い!』と年少組の容赦ない言葉が聴こえてくる。そして、客席の最前列に見慣れたトマトヘアーを見つけた。
『優希!俺は気にしてなんかないからな!だから、お前のエンタメを俺に魅せてくれ!』
「……遊矢」
親指を立て、サムズアップで返すと向こうも同じように返してくる。
「ありがと……みんな」
誰にも聞こえないようにぼそりと呟くと柚子と向き合い、一定の距離を保つ。それが合図となり、ニコ・スマイリーは声高らかに宣言する。
『さて!両者の準備が整ったところで、本日初のアクションフィールドを決めましょう!
空中のホログラムに一枚のカードが写し出される。
『アクションフィールド【無限架橋】、発動!!』
デュエルコート全体が虹色の光へと包まれ、殺風景な風景を変化させていく。それとともに私たちの足元がせり上がり、幾つもの廊下かが、階段が形成され結合し足場を作っていく。
「ーーー闘いの伝統に集いしデュエリスト達が!
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!フィールド内を駆け巡る!」
初めにお決まりの口上を叫んだ柚子に続くように次の台詞を叫ぶ。
『見よ!これぞデュエルの最終進化系!』
会場全体が一つとなって口上を叫ぶ。
『アクションーー』
「「 決闘 !!」」
[優希]LP4000
VS
[柚子]LP4000
そのデュエル開始の宣言と共に空中からアクションカードがばら撒かれる。そして、それを目で追いつつデッキからカードを五枚ドローする。
『先に五枚ドローをし、先行を取ったのは優希選手だぁ!』
「私の先行!手札から『ゴブリンドバーグ』を召喚し、効果発動!手札から『召喚僧 サモンプリースト』を守備表示で特殊召喚!」
赤いカラーリングの飛行機に乗ったゴブリンとそれにぶら下げられたサモンプリーストがアクションフィールド内を飛行する。
それを横目で追いつつ、あらかじめ目星をつけておいた場所へと走る。
「あった!一枚目!」
『おおっと!優希選手、早くも一枚目のアクションカードゲット! さすがは、遊勝塾の塾生だっただけはあります!』
「アクションマジックをコストにサモンプリーストの効果発動!」
即座に今取ったカードをデュエルディスクに叩き込み、サモンプリーストの効果を発動させると、紫色に輝く召喚陣が形成され、影のような戦士が優希の側へと並び立つ。
「デッキからレベル4『E・HERO シャドーミスト』を特殊召喚!さらにシャドーミストの効果で速攻魔法『マスクチェンジ セカンド』を手札に加える!」
『おおおっ!?開始一ターン目と言うのに早くも優希選手のフィールドには三体のモンスターが並んだぁ!なんというスピードだ!』
「す、凄い!優希お姉ちゃん!」
「し、痺れるほど早ぇぜ……」
客席で観戦している年少組からも驚きと関心のこもった声が聞こえる。
「さすがね、優希」
「ふふふ、まだ私は満足してないんだけどね!
レベル4のゴブリンドバーグとサモンプリーストでオーバーレイ・ネットワークを構築!」
「来るッ!!」
アクションフィールド【無限架橋】の中央、足場も何もなく奈落のようにぽっかりと空いた空間に紅い残光が煌めく渦が形成され、二体のモンスターが吸い込まれていく。
「その魅惑の容姿で敵を惑わせ!エクシーズ召喚!咲き乱れよ、大輪の華!ランク4!『フレシアの蟲惑魔』!」
渦の中央から植物の蔦が伸び、アクションフィールドの下層部部に絡みつき、その一箇所からは見るも鮮やかな紅い大輪が花開く。そして麗しい美少女が花の玉座に鎮座し、観客達へと笑みを振りまく。
『ウォォォォォォォォォォ!!!』
『可愛いぃぃぃぃ!!』
「うわぉ……」
フレシアがニコリと笑みを振りまき、会場がさらにヒートアップする。特に男共が。馬鹿共が!!と内心でほくそ笑むとカードを二枚伏せ、ターンを終了する。
「さぁ、柚子ずのターンだよ!」
「だ・か・ら!柚子ずって言うな!私のターン、ドロー!」
激情しながらもターンを開始する柚子
素良に教えを請いていたことからおそらく融合召喚を学んだんだろう。だが、私のフィールドは盤石。そう簡単に崩せるものではない。
さぁ、どう来る!!
「相手のフィールドにのみモンスターが存在する時『幻奏の音女ソロ』は特殊召喚できる!来て、幻奏の音女ソロ!」
ラララ〜と歌声と共に柚子の隣へとモンスター、幻奏の音女ソロが現れる。
「さらに手札から『幻奏の音女セレナ』を召喚!セレナの効果により私はもう一度『幻奏』モンスターを召喚出来る!さらにセレナは『幻奏』モンスターを召喚する時、二体分の生贄にすることが出来る!」
「ダブルコストに、召喚権追加とかインチキ効果もーー」
「あんたが言うなぁ!!」
「ーーヒェ!?」
お決まりの台詞を言おうとしたところで柚子の怒号が飛んで来て全てを言い切れずに終わる。
その間にも柚子はデュエルを進めており、ソロやセレナの歌声に調べを合わせるかのように美しい旋律が響く。
「セレナをリリースし、『幻奏の音姫 プロティジー・モーツァルト』をアドバンス召喚!」
『来た来たぁ!柚子のエースモンスター!』
『よっしゃー!熱血だーー!行けー、柚子!』
煩い!お父さん!と頬を赤く染めつつ叫ぶ柚子はプロティジー・モーツァルトへと命令を出す。
「プロティジー・モーツァルトの効果!手札から『幻奏の音女 ソプラノ』を特殊召喚する!」
今までの三体とはまた違う、透き通る美声が響き新たな幻奏の音女がフィールドへと現れる。
『す、凄いぞ!優希選手に続き、優希選手も三体のモンスターをフィールドへと並べた!さらにその内一体はレベル8の最上級モンスターだ!
よほど興奮しているのかやたらと実況が熱いスマイリー氏。だが正直私も柚子がここまでやるとは思わなかった。どうやら彼女の評価をもう一段階上げなければならないらしい。
などと次のアクションカードを求めて廊下を走ったり曲がったり階段を上ったり下ったりして、フィールド内を文字通り駆け回っていると柚子も駆け足でデュエルしているのが目についた。そして、一度此方に強い視線を送るとモンスター達へと指示を出す。
「ソプラノは特殊召喚された時、墓地から『幻奏』モンスターを手札に加えられる。私は『幻奏の音女 セレナ』を手札に加えるわ!そして、バトルよ!プロティジー・モーツァルトでフレシアを攻撃!」
プロティジー・モーツァルトがタクトを振るい、真空波が下の方で獲物を待つフレシアを狙う。
「計略だ!!オーバーレイ・ユニットを一つ使用しフレシアの効果発動!デッキから『落とし穴』通常罠を墓地に送り、その効果を発動する!」
「んなっ!?デッキから!」
驚きを露わにする柚子に対し、私は容赦なく効果を発動させていく。
「私が発動させるのは『狡猾な落とし穴』!プロティジー・モーツァルトとソプラノを破壊する!」
巨大な花から伸びた蔦がモーツァルトとソプラノを絡め取り、拘束する。そして、待っていましたと言わんばかりに『フレシアの蟲惑魔』の本体である巨大なラフレシアがグパァと大きな口を開き、二体を食そうとする。だが、そう簡単にはやらせてくれず、ギリギリでアクションカードを手に取った柚子は戸惑うことなくそれを発動させる。
「アクションマジック『ミラーバリア』!プロティジー・モーツァルトの効果破壊を無効にするわ!」
「だけど、ソプラノは破壊させてもらうよ!」
モーツァルトは透明なバリアに護られ事なきを得るがオペラはそうはいかず、巨大な口を開いたラフレシアに丸呑みにされてしまう。そしてバリボリと骨を砕くような咀嚼音がフィールド一帯に響き、美少女到来に喜んでいた男どもはいきなりのスプラッターな演出と邪悪な笑みを浮かべるフレシアを見て青ざめてしまっている。
「プロティジー・モーツァルトは破壊されず、戦闘は続行される!いけ、プロティジー・モーツァルト!」
「くっ……フレシア!」
蔦から脱したモーツァルトは再びタクトを振りかざし、真空波を発生させるとフレシアを切り刻む。もうすこし働いてもらいたかったが破壊されてしまったので仕方ない。
「まだ私の攻撃は残ってる!ソロでシャドーミストを攻撃!」
「手札一枚をコストにし、速攻魔法『マスクチェンジ セカンド』発動!シャドーミストを墓地に送る!」
ソロのボイス攻撃を躱したシャドーミストは黒い獣のような覆面を被り、その体影に溶け込ませ、その姿を変貌させる。
「闇に生きる英雄よ!その拳で悪を砕け!変身召喚!来い、『M・HERO ダークロウ』!」
私の足元の影が揺らぎ、現れたのは獣を連想させるマスクを被った痩躯の英雄。その姿はダークヒーローと呼ぶに相応しい。
「墓地に送られたシャドーミストの効果により、デッキから『E・HERO エアーマン』を手札に加える」
「くっ、ソロの攻撃力じゃ届かないわね……私はカードを一枚伏せてエンドよ」
潔く諦めた柚子はカードを伏せターンを終える。互いのフィールドで最も攻撃力が高いのは柚子のプロティジー・モーツァルトだがたかだか2600。
ーーだが、私のHEROの前には塵芥に等しい!
「いくぞ、柚子酢!」
「柚子酢!?」
「ドローッ!エアーマンを召喚し、効果発動!デッキから『E・HERO ブレイズマン』を手札に加える。さらに手札から『俊足のカバ バリキテリウム』を特殊召喚!」
豪ッと強い風が吹き、颯爽と私のフィールドに現れたカバ。しかし、ただのカバではない。
背中には赤く真紅のマントを羽織り、グリーンのグラサンをかけた英雄チックなカバだ。カバキテリウムは堂々と二体のHEROの横に並ぶとふんっと鼻息を吹き出し、柚子と幻奏の音女たちに向かい威嚇して見せたーー
「私はカバキテリウムの効果で墓地から『幻奏の音女 ソプラノ』を守備表示で特殊召喚するわ!」
ーーが、再び現れたソプラノに観客の視線を全て奪われ、がくりと肩を落とした。
エアーマンに肩を叩かれ、慰められているバリキテリウムに苦笑いしつつ、次なる一手を打つ。
「風属性レベル4モンスター、エアーマンとバリキテリウムの二体でオーバレイ・ネットワークを構築!」
『おおっと、優希選手早くも二度目のエクシーズ召喚だ!今度は一体どんなモンスターが出てくるんでしょうか!』
銀河を彷彿とさせる光の渦が形成され、そこに赤いマントを翻しバリキテリウムが颯爽と突っ込んでいく。そして、その後を追うようにエアーマンが呑み込まれーー
「雷光纏いて、現れよ!エクシーズ召喚!舞え、『電光千鳥』!」
ーー膨大な光が溢れ出し、その中を緑色を放つ光が駆ける。そして、空を自由に駆ける電光千鳥から一筋の雷撃が放たれ、柚子の伏せカードを穿つ。
「雷光千鳥はエクシーズ召喚時、相手の伏せカードをデッキボトムに戻す!」
「そんな!?」
「さらにオーバーレイ・ユニットを一つ使用し、電光千鳥の効果発動!プロティジー・モーツァルトをデッキトップに戻す!」
驚愕している柚子に追い打ちをかけるように雷を迸らせた電光千鳥の特攻がプロティジー・モーツァルトを跡形もなく消し飛ばす。早くもエースモンスターを失い、柚子顔が悔しげに歪む。
『そんな柚子お姉ちゃんのモンスターが……!』
『し、痺れるほど、強ぇぜ』
「いっや、ほぉぉぉぉーー!」
「「「んなぁ!?」」」
形勢逆転に戦慄している最中、私は橋の欄干へと足をかけ飛び降り、体に強烈な重量を感じつつも両腕両足を広げ、態勢を整え降下していく。
「ちょっ!?飛んだぁ?!」
『おおっと、優希選手まさかのダ〜イブッ!そして、電光千鳥の背中に着地し上空へと飛び去っていきました!流石、エンタメを学んでいただけはあります!』
「よっと、サンキュー」
そして、狙い通り雷光千鳥の上へと着地を果たした私は電光千鳥の背中の上で立って見せた。そして、上空を旋回し態勢を整えると電光千鳥の視線が柚子を捉えた。
「さぁ、バトルだ!電光千鳥で幻奏の音女 ソプラノを攻撃!」
「っぁ⁉︎」
電光千鳥は高く嘶くとバチバチと音を立て、緑色の閃光を体から発しフィールドを明るく照らす。そして、千鳥から放たれた雷撃はソプラノを穿ち破壊する。
「さらに、ダークロウでソロを攻撃!」
「ーーーキャァ!?」
柚子:LP4000→3200
背後から現れたダークロウの一撃が容赦なくソロへと叩き込き、そして影へと溶け込むようにして消えていく、攻撃の際の衝撃の余波が柚子へと襲いかかり、このデュエルにおいて初のダメージが発する。
「くっ、だけど幻奏の音女 ソロは戦闘で破壊され墓地に送られた時、『幻奏』モンスターを特殊召喚できる!」
「無駄だよ!ダークロウが存在する限り、相手の墓地に送られるカードは全て除外される!」
「そんな!」
ダークロウの一撃ですでに満身創痍のソロは健気にも最後の旋律を奏でようとする。だが、ダークロウが足元の影から現れるとソロの首を捕まえると一切の慈悲なく、奈落のような闇へと叩き込んだ。
「ちょっとぉ!なんてことすんのよ!それでもヒーローなの!?」
「だってダークヒーローだし。とりあえず邪魔者は容赦なく蹴散らすスタンスで行くのでよろしく!」
「よろしくじゃないでしょ!」
ウガーと怒り、ハリセンを振り回す柚子を上空から眺めつつ、その片手間にアクションカードを探す。そして会場はやはり外道プレイにブーイングが起こるも、一方で「いいぞ、もっとやれ!」などと肯定的な声援もある。よくも悪くも観客達はデュエルへと釘付けになっている。
「仕方ないわね……」
怒っていた柚子も優希の思惑に気がついたのか、ふぅ、とため息を吐くと表情を和らげる。
「私はこれでターン、エンド。さぁ、見せてよ。柚子ずの本気を!」
「柚子ずって言わないで!言われなくても見せてあげるわよ!私のターン、ドロー!」
ドローカードは虹の軌跡を描き、奏者を彩る。ドローと共にクルリと華麗なターンを決めて見せた柚子は三枚の手札を確認し、よしと小さく意気込んだ。
「『幻奏の音女 セレナ』を召喚!そして今召喚したセレナをリリース!至高の天才よ、再び舞台へ!『幻奏の音姫 プロティジー・モーツァルト』をアドバンス召喚!」
美しい旋律と共に再び天才の音楽家が舞台へと上がる。
プロティジー・モーツァルトは、上空を旋回する私をしっかりと見据え、そのタクトを振るう。
「プロティジー・モーツァルトの効果発動!手札から『幻奏の音姫 タムタム』を手札から特殊召喚!そして、タムタムの効果発動!デッキから『融合』カードを手札に加える!」
「だけど、その瞬間ダークロウの効果発動!相手の手札をランダムに一枚、除外する!」
ダークロウの指銃が柚子の手札を刺し貫く。これで柚子の融合を潰した……はずだった。
「融合カードなくちゃ、融合召喚は行えない!残念だったーー」
「……それは、どうかしら優希!」
「ーーなにっ!?」
柚子の手札は一枚。ダークロウの効果で除外されるのは、今手札に加わった『融合』のはず。だが、ディスプレイに表示されたカードを確認し、驚愕させられる。
「アクションカード!?」
『お見事、柚子選手!アクションカードを身代わりに、キーカードを死守しました!』
二分の一というギャンブルに勝った柚子は得意げな表情を浮かべて見せる。そして、両腕を天高く掲げーー
「お楽しみは、これからよ!!」
ーー声高らかに叫んだ。
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