ぼくだけの師匠
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第1章~ぼくらを繋ぐ副作用~
02.師匠の自宅
弟子の件を断れないまま時は過ぎた。
断っていれば未来は良くも悪くも変わったのだが。
断れなかった弟子 菊地原はメモを見つめながら歩いていた。
メモは師匠である如月可憐という人物からもらったもので、如月の自宅までの地図だった。
本人の性格の表れなのか、地図はやたらと細かく読みにくい。
菊地原にしてみれば地図より女性の家にあがることに抵抗感がある。
それを押さえ込んだのは如月の外見。
どうみても男にしかみえないのだ。
一人称が「私」ならまだどうにか女性らしく感じられるのだが。
しかも風間と同い年らしいが、菊地原より背が高い。女としてみるには材料が足りなかった。
「ここ?」
菊地原は足をとめた。
地図通りならどうやらこの一軒家らしい。
師匠に家に呼び出されるなんて普通はあり得ないはずだ。
菊地原はおかしなことがあるに違いないと覚悟をしてインターホンを押した。
しかし、反応はない。
仕方がないので扉に触れた。
なんと不用心なことに開いていたのだ。
「おじゃましま~す」
玄関に顔を出してきたのはYシャツ姿の如月だった。
昼寝していたのか服が乱れたままだ。
男性が来ることを気にしている格好ではない。
「やば、寝てた。菊地原、コーヒー飲むか?紅茶は・・・ないな。」
慌ただしく行動を開始する。
菊地原は靴を揃えて端に起き、堂々とリビングに向かった。
リビングとキッチンには仕切りがなく、如月が冷蔵庫を開けている姿がよく見えた。
テレビは付いていないが、代わりにタブレットが付いていてランク戦のデータが再生されていた。
「ランク戦気になるか?過去のやつ見せてやろうか?」
「いやだ。それより何するの?」
菊地原は余計なことを言わせなかった。
面倒が起きたら菊地原はうんざりするしかないのだ。
如月としては楽しんで欲しかったらしい。ランク戦データで。
キッチンの床をいじりだす如月を立ったまま眺める菊地原。
如月は床の扉をあける。普通なら野菜や調味料が保存されているはずだ。
しかし、そこには地下に続く階段があった。
下は暗くて見えないが広い空間があるのだろう。
菊地原は下をのぞきこんだ。
「電気つけてこい。下にある」
「え?なんでここにスイッチないの?」
毎回暗い中を階段で下がり、暗い中を階段で上る。
あまりにも危険行為だ。
菊地原は入ることを躊躇っていると、容赦なく如月が突き落としてしまった。
「うわあぁぁぁぁ!?」
まっ逆さまに落ちた菊地原は頭から床に触れた。
暗闇の中、感覚を頼りに立ち上がり、壁に手をついた。
「この人でなし」
「電気ついたか?」
如月は話を聞かずに言うものだから、菊地原は仕方なく電気のスイッチを探した。
手探りで壁を触り、出っぱりを押した。
明かりがつき、眩しさに菊地原は目を閉じた。
慣れてから目を開けると、そこには本部にある訓練室があったのだ。
自宅に呼ばれた時点でおかしいことではあるが、訓練室があることも充分におかしい。
如月は電気がついたことを確認してから、階段を使い地下に潜ってきた。
菊地原の驚きようを見て、説明を始めた。
「本部で要らなくなった部品をかき集め、作ってみたんだ。
本部にある訓練室より小さめだが、かなり質はいいはずだぞ。
改良もしてあるから、それなりに使えるはずだ。」
「一般人にはできないよね、普通。」
「エンジニア経験があるんで、そこからもらった。オペレーターもやったことがある。」
菊地原は首をかしげはしなかったが、不思議に感じた。
要らなくなった部品からここまでやるエンジニアがなぜオペレーターになり、そしてオペレーターすらやめて戦闘員になったのか。
如月には聞かなかった。
それが自分には関係ないからと言うことだけではなく、失礼だと理解していたからだ。
そこまで深い仲ではない。聞く必要はない。
「よし。モールモッドを5分間斬り続けるか。
訓練室に入れ、菊地原!!」
菊地原はやはり聞けばよかったと後悔した。
いきなりモールモッド5分間耐久試練なんてやりたいものではない。
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