誰かを傷付け
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3部分:第三章
第三章
「ただ言っただけなのに。そのまま」
「そのままってね」
「あんなこと言ったら香里奈もどれだけ傷付くか」
「傷付くの」
言われて少し考えた顔になるのであった。
「あれで」
「とにかくよ。謝りなさいよ」
「そうよ。早く」
皆怒ってさえいた。
「今すぐによ」
「行きなさいよ」
「それだったら」
言われてそれにとりあえず頷いた彩夏だった。
そのまま言われるまま香里奈を探しに教室を出た。しかし彼女は何処にもいなかった。下駄箱に行くと彼女の靴がなくなっていた。代わりに上履きが入っていた。
「帰ったの」
彩夏はそれを見てすぐにわかった。
「だったら仕方ないわね」
こう思うだけで教室に戻った。そうしてその何でもないといった様子で皆にこの下駄箱のことを話した。皆それを聞いてさらに不機嫌な顔になった。
「これはまずいわね」
「ええ、大変なことになるかも」
その顔には不吉なものさえあった。
「家に帰ってるのかしら」
「携帯に連絡しましょう」
「そうね。まずはね」
こう話してすぐに携帯に連絡を入れる。着信はあったが返信はない。皆それを見ていよいよ不吉なものを本格にさせた。だが彩夏だけは別だった。
「まさかと思うけれど」
「学校も出たし」
皆は言い合う。その顔で。
「何があってもおかしくないわね」
「探そう」
一人が言った。
「このままじゃ何があってもおかしくないわ」
「そうよね」
「何がって何が?」
彩夏だけがわからなかった。
「どうなっているのかしら」
「あんたは来なくていいから」
「好きにしたらいいわ」
皆は一向に気付かない彩夏にはこう返すだけだった。
「もうね。教室にいていいから」
「じゃあね」
「じゃあねって」
やはり気付いていなかった。
「何なのよ」
「私は駅の方に行くから」
「私はあの娘の家に行くわ」
「私は商店街に行くわ」
皆は彩夏を無視してすぐに話し合いはじめた。そのうえで教室を出た。そのうえで探し回りやっと。泣いて俯いている香里奈を守るようにして教室に戻って来たのだった。
「ほら、もう泣かないでね」
「泣かなくていいから」
泣いている彼女の肩に手を当ててそうしながら話していた。
「落ち着いて」
「何とかなるし」
言いながら教室に入ってだった。そして彩夏の前に来ると。
「もうあんたはいいから」
「何もしないでいいから」
睨んでさえの言葉だった。
「最低」
「もうあんたなんか知らないから」
「知らないって」
言われてもわからない彩夏だった。だが彼女は放っておかれそのままだった。それから彼女はクラスの女の子の誰にも相手にされなくなった。
やがて香里奈はその彼氏と和解した。彼氏の話は誤解だったのだ。その女子大生とは何と彼の叔母で母親の妹だったという。それで親しく付き合っていたのだ。それがわかった彼女は気持ちを落ち着かせた。しかし彩夏に対しては顔を向けることすらしなくなった。
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