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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  On the stage

あぁあぁ、あんのクソガキ。

こんなに身体ぁ痛めつけやがって。そりゃぁ気ぃ失うだろうぉがよ。

ったく、もうちっと穏やかに生きられねぇもんかねぇ。

……いや、無理か。

そもそもヤローがんなメンドくせぇ性格してたら、俺はこうしていないだろぉしなぁ。

くっく。

今頃アイツどんな顔ぉしてっかねぇ。想像しただけで笑えてきやがった。

だいたい、アイツぁお人好しすぎんだって。狂楽を助けたのだって、昔だったら眉一つ動かさずに《捌いて》ただろぉに。

いったいどこで変わっちまったのかね。

いや、違うか。

どこで、じゃねぇのか。どこでも、か。

人は変わる。変わっちまう。

それはガキが成長して大人になるよぉに、普遍的で遍在的なモノなのかもなぁ。

明確な変換点、転機があった訳じゃねぇ。アイツは今こうして喋ってる間にも、どっかが伸びたり大きくなったり、その反対に何かを失ってるってことか。

……何かガラにもねぇこと考えちまったなぁ。

何ですか何なんですかねぇーこれはよぉ。走馬灯ってヤツかぁ?

笑えねぇなぁ。

……チッ。

てかさっきから何なんだ耳元でキーキーキーキー。うっせんだっつの。

あぁ?

あぁ、あの嬢ちゃんか。

何だよ、んなクッシャクシャな顔で喚かれてもわかんねっつの。だいたいお前ぇ昔もおんなじよぉな顔して俺のこと引き留めたよなぁ。

かっか、懐かしいねぇ。

あん時ぁ愉しかったねぇ。ヒトの命なんか紙クズより軽く吹き飛ばされたしなぁ、かっかっか。

……あぁ。

わぁったわぁった。今起きる。










「レン!良かった!気が付いたんだね!」

閉じられていた目蓋がうっすらと開かれ、その合間から青い静謐な光が見え隠れしたのを見、ユウキは思わず涙ぐみそうになった。

肩を叩いても揺すっても微動だにしないから、仮想世界であることも脳裏からスッ飛んで、本当に死んでしまったのではないかと思い始めていたのだ。

少年は軽く瞬きをした後、ゆっくりと上体を起こした。

首に手を当て、グギリと鈍い音を響かせてから。

言い放つ。

「あー……うっせぇなぁ」

「…………………………え?」

一瞬、少女のような桜色の可愛らしい唇の狭間から出た言葉が、正しく認識されなかった。

というか、何の言語か分からなかった。

ラグでもないのに固まるユウキのことは放って置いて、少年は――――少年の姿をしたモノは立ち上がり、身体のあちこちをぐるぐる回しだす。

ぺっ、とツバを吐き出すと、遠くから鳴り響いてくる戦闘音に感化されたように、《獰猛》な笑みを浮かべる。

「いいねぇ、久しぶりだねぇ。んなピリピリした空気ぁよぉ。…………よっし」

パン、と。

自らの両手で気合いを入れるように、少年の姿をしたモノは己の頬を張る。

乾いた音は、不思議と耳に残った。

そして。

「やるか」

その言葉。

その一句をきっかけに。

空気が。

大気が。

空間が。

怖れをなしたかのように、一気にその粘度を跳ね上げた。

鈍重な時間の中で、唯一己の時間を手に入れ、進んでいる《ソレ》は、粗野で野卑な笑いを浮かべながら一歩を踏み出す。

だが、その背中に。

絶対にこのまま行かせてはならない、と。

そんな思いが込められた、しかし弱々しい声が届く。

「ま、待って」

「……ぁあ?」

出鼻をくじかれた、とでも言うように、途端に不機嫌そうに口をひん曲げ、極めて億劫そうに少女のような少年の形をしたナニカが振り返る。

その表情にさえ肩を震わせ、だが折れない意思を秘めた瞳を片時も曇らせることなく、少女は口を開いた。

「あなたは……誰?」

「あ~?……はっ、オイオイ。前に一回会っただろぉが。つっても、あん時ぁロクに自己紹介もしてなかったかぁ?」

「前……?」

記憶を辿らせるが、レンにこんな言葉遣いをさせる存在などいない。

そんなことがあったら……あったら……。

「あ……。笑う棺桶(ラフコフ)討伐戦の時の――――」

あの時の情景を思い出して再度身を震わせるユウキに、にやりと笑った少年は戦場へと向き直る。

その後ろ姿にあの時と同様の何かを覚えた少女は、向かわせまいと言葉を紡いだ。

「何を、するつもりなの?」

「……アイツを止める」

「………………」

思わず二の句がつけなくなるユウキを追い詰めるように、突き放すように、少年の姿をしたモノは続ける。

「これぁ、俺が……俺達がやらなきゃぁいけねぇことなんだよ」

かかっ、くかかかかっ、と。

乾いた哄笑を響かせながら、《鬼》は呟く。

独り言のように。

思わずとでも言う風に。

狂怒は、言う。

「やっと……終われる」

直後。

轟音と烈波がユウキの顔を叩き、一瞬後に目を開けた時には。

その場には、誰もいなかった。










全身を躍動させながら、一匹の獣は地を駆けていた。

いくら少し休んだとはいえ、心意が仮想体に与えるダメージはそうそう簡単に消えたりはしない。

痛む関節や突っ張る皮膚、肉が悲鳴を上げ、鈍痛と激痛が交互に警鐘を鳴らしてくる。

移動速度も遅い。

主人格(レン)ならば、こんな状態でもかなりの速度を叩きだすのだろうが、あいにく狂怒の知識にそんなものはない。日頃、少年の走りをしっかりと見ておけばよかった、と今更ながらに思う。

一歩が、重い。

足裏を地面につけるたびに五寸釘でも撃ちこまれたかのような衝撃が脳髄を揺らす。視界も安定しない。赤っぽい色が縁を覆い、先の爆発のせいか右目の焦点が微妙に合わない。

だが、それを越えて。

鬼は一歩を踏み出す。

―――兄様。

「おぉ狂楽かぁ?こぉいう形で手前ぇの声聞くのは初めてだなぁ。レンはどうした?」

―――どうしたもこうしたもないよ。暴れて手が付けられない状態。仕方ないから《部屋》の中に置き去りにしてきた。

「く、かっかか!そりゃぁ傑作だぁ!クーデターってヤツかねぇこりゃ?」

走りながら高らかに笑う小さな影に、脳裏の声はなおも囁く。

―――兄様、本当に……。

「………………」

ゴッ……ゥンン、という鈍い轟音と、遅れて地を這ってきた衝撃が頬を叩く中、遥か先――――山麓地帯の合間をわだかまる闇を切り裂くような閃光が立て続けに光った。

それが紛れもない戦場を表すものだと、確信する。

「……お前ぇには、本当にすまねぇと思う。だが、これぁやっぱり、俺らがカタぁつけなきゃいけねぇんだよ。他でもない。《災禍の鎧(オヤジ)》から生まれた欠片として、俺達は戻らなきゃいけねぇ。(たす)けねぇといけねぇんだ」

―――…………………。

いっそうの加速をする矮躯が、すでに岩肌に変わった地面を蹴り飛ばす。

限界以上の稼働を推し進められた全身の各所から力が一気に抜けていくのを感じる。

だが――――

「ッ!!?」

その身体を。

真後ろから抱きすくめる、腕があった。

「……なッ、お前ぇ……」

《絶剣》ユウキ。

完璧に先を越された状態にもかかわらず、追走し、あまつさえ加速中の鬼を担ぎあげたのは、強い意志を秘めた一人の少女だった。

静かに、しかし少年では出せない安定した走りを見せるユウキは、強い意思を持つ少女は、強い意志が込められた言葉を放つ。

「君が誰なのかは関係ない。だけど、レンの身体を使っている以上、協力くらいさせてよ」

「……ハッ」

上等、と。

吊り上げるように歪んだ口角の合間から軋るような声を出し、次いで狂怒はただ一言。

もう見えてきたマークⅡの巨体をしっかりと見据え、宣言するように言葉を放つ。



「投げろ」



同時。

ユウキは駆けていた脚を岩盤に埋没するほどに力を込めて急制動をかけ、放り出された少年に対し、瞬間的に出した光り輝く長剣――――《絶世(デュランダル)》の刀身の腹を差し出した。

その上にふわり、と小さな足裏が乗せられたのを視覚の度外で感じ取った瞬間――――

撃発。

雷速のごとき迅雷の速度で薙ぎ払われた剣身は、その上に乗っていた矮躯を砲弾のように吹き飛ばした。

大気を薄いゼリーのように引き裂いて、音さえも置き去りにした小柄なアバターは一直線に巨人へと突き進む。

狂怒は笑っていた。

白い壁がそびえる。その絶望的なまでの防御力を知っていて、それでもなお、屈することなく高らかに嗤っていた。

「あぁあぁあぁ!最ッ高にサイコーだよ!仲間(クソッタレ)ども!!」

その声に気付いたか、はたまた最初から信頼していたのか、マークⅡのタゲを取っていたキリトとミナが即座に離脱する。

キリトのほうはほとんど外傷は見受けられないが、ミナのほうはアバターのあちこちに小さなダメージエフェクトを煌めかせている。とくに酷いのは右二の腕の裂傷で、真紅のパーティクルが彼女の動きに合わせて零れ落ちていく。だがミナは確かな足取りで戦場を後退していった。目配せのようにこちらを見たのは気のせいだっただろうか。

キリトは、スッ飛んできた少年に驚きもせず、交差するように離脱していく。

その無言は、一匹の鬼の口角をさらに吊り上げた。

レンには、もう武器と言えるモノはない。彼の得物である饕餮(とうてつ)は、《災禍》の依代になるにあたって壊れてしまった。

狂怒には、もう技と呼べるモノはできない。彼の心意技――――《天墜》は太陽光を心意によって捻じ曲げるといった特性上、夜である今は満足のいく威力は期待できない。

だが。

―――まだ、残ったモノぁある!!

その思考がトリガーになったように。

じわり、と。

アバターの素体――――リアルな皮膚に似せた仮想体そのものが、黒く染まっていく。

そう。

―――得物ぁ壊れても!技ぁ撃てなくても!一度成った《災禍》は残ってるよなぁ!?

《冥王》レンは、例え未完成であれ、不完全であれ、不充分であって中途半端であれ、それでも一度、《災禍の鎧》と成った。

その後、《核》である初代をフェイバルに叩き込んだのだが、それで跡形もなく綺麗に消えるほどに《災禍》は甘い存在ではない。

その欠片は、その痕は、後遺症のように残っているものなのだ。

―――ソレを《欠片》である俺が利用するのぁ、えれぇ皮肉なモンだがなぁ。

自嘲のようにごちながら、狂怒は黒腕を振るう。

今度こそ、全てを終わらせんがために。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました。そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「久々の口調だね」
なべさん「割と心の中では会話なりなんなりしてて忘れてたけど、ユウキと会話するレベルまで降りてくることは超久しぶりだね。文中でも言ってたけど、ラフコフ戦以来よな」
レン「それに一瞬で合わせるユウキねーちゃんもどうかと思うけど」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
――To be continued―― 
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