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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第八話 少女アニエス

トリステイン王国の首都であるトリスタニアには王城と貴族の屋敷が多く立ち並ぶ貴族街と、平民たちの住む下町の間に大きな川が流れている。
マクシミリアンは定期的に王宮を抜け出しては、件の川を始めとする水場を重点的に殺菌消毒を行っていた。

そして今日も身代わりのスキルニルを置いて王宮を抜け出していた。
ちなみにスキルニルとは古い魔法人形の事で人間の血を元にその人間の外見、性格を完全に複製するマジックアイテムだ。
マクシミリアンはミランを通じて、ブルドンネ街の古物商からスキルニルを購入していた。
代金は今まで作った秘薬を売って少しづつ貯めておいた貯金を利用した。
値は張ったものの、ささやかな自由を手にいてることができた。

(おかげでミランには苦労かけた・・・)

奔走してくれたミランに感謝しつつマクシミリアンは目的地へ向かった。

あらかじめ用意しておいた粗末な平民の服を着て秘薬の入った大き目の木製の箱をリュックサックのように背負う。
大き目の箱には『秘薬アリマス』と書かれた(のぼり)が一つ立っていた。

『奉公先で散々こき使われて秘薬売りの行商をさせられる平民の少年』

と、いう設定でトリスタニアの貴族街を歩くマクシミリアン。
当然、貴人とばれる様な演技はしない。
途中、顔見知りの貴族や貴族の屋敷に出入りする平民らとすれ違っても何の反応も無かった。

「何処をどう見ても、ただの行商人だ」

上手くいったと内心、ほくそ笑んだ。

石畳の敷かれた貴族街をさらに下町方面に進み貴族街と下町の境界線の橋を渡る。
川沿い眺めながらを歩いていると後方から誰かが走って来るのを感じた。
止まって振り返ると金髪を短く切った少女が全力疾走で近づいてくる。

マクシミリアンは邪魔にならないように慌てて道の端っこに移動した。

二人がすれ違う瞬間、お互いの目が合った。

(可愛いをいうよりも綺麗な感じ。けど青い目が妙にギラギラしてて怖いな)

すれ違った少女を勝手に品定めする。

「それにしても速いな。どれくらい全力疾走してるんだ? 疲れないのか?」

少女は、あっという間に見えなくなった。





                      ☆        ☆        ☆ 





目的地の空き地に到着すると、先客がいた。
誰かと思ったら先ほどすれ違った少女がストレッチをしている。
少女がやたらと熱心にストレッチをしているため、空き地に入るかどうしようか、一瞬迷ったが意を決して少女に話しかけた。

「こんにちは、ちょっと失礼させてもらうよ」

「え?」

少女は驚いたようにマクシミリアンを見た。

「別にいいよね?」

「え、うん、別に良いけど」

許可が出たため、堂々と空き地に入った。
少女はストレッチを止め、ジッとマクシミリアンを目で追っている。
この空き地やってきた目的は先日作った秘薬と空き地の向かい側にある川の水で初の広域魔法を発動させようとしていたのだが。

(大量の水を使った大規模魔法だから、集中するためにあまり人のいる所じゃ使いたくないんだよなぁ)

イメージもしっかり出来ているから失敗する事は無いと自信を持っているが。
万が一、失敗してもよい様に周りに被害が及ばないこの空き地を選んだのだが。

あきらめて、他の場所を探す・・・と、いう案を考えたものの不採用にした。

「・・・・・・」

(他の適当な場所は知らないし・・・・・・どうしたものかなー)

マクシミリアンはどうするべきか唸っていると、背後から何かが近づいてくる気配を感じた。

「ん? 何か用?」

「えっと、何してるかと思って」

への字口をしながらも近寄ってきた少女は戸惑いながらも答えた。

「休憩をかねて弁当を取ろうかと思ってね、それでこの空き地にやって来たんだ」

「そう・・・」

街の住人にとってマクシミリアンは『知る人ぞ知る』と言った存在なのだが、少女の前では正体の事は伏せることにした。

(仕方ない、適当にあしらって、早いとこ帰ってもらおう)

ちなみにこういった時のためにカモフラージュ用の弁当を用意してある。

「ところでキミ、何て名前?」

「えっと、アニエスだけど」

「アニエスね うん、いい名前だね」

「・・・ありがと」

はにかんだ笑顔にマクシミリアンも思わずほっこりとした。

(最初は何処か陰気な娘だと思ったけど、中々どうしていい娘じゃないか)

「貴方の名前は何?」

「僕? 僕の名前は・・・」

『マクシミリアン』と、言うと、いろいろ問題があるかと思って。

「・・・ナ、ナポレオンだよ」

・・・と、偽名を使うことにした。

「そう、珍しいけどいい名前なんじゃないかしら」

「ははは、ありがとうアニエス」

「ふふふ」

(・・・それにしても、咄嗟に出た名前とは言え『ナポレオン』とはね)

マクシミリアンは思わず口元を歪めた。



                      ☆        ☆        ☆ 




当初は追っ払う目的だったが、以外に会話は弾んだ。

「ところでアニエスは・・・」

「ん?」

マクシミリアンとアニエスは二人、空き地に置いてある木材に腰を下ろして弁当の黒パンを頬張っていた。
アニエスは当初、半分にした黒パンの片方をマクシミリアンに勧められたがこれを断った。
マクシミリアンも『一人で食べるのは味気ない』と半ば無理やり押し付け、アニエスも仕方なく付き合うことにした。

「この空き地で何やってたんだ?」

「何って、身体を鍛えていたのよ」

「身体を? 何で?」

「・・・別に、貴方には関係ないでしょ」

「え?」

「言いたくないの」

「あー・・・ええっと」

「・・・・・・」

「うん、確かに・・・もう聞かないよ」

何やら危険な雰囲気を感じたマクシミリアンは引っ込むことにした。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

会話が途切れて沈黙が空き地を覆った。
人があまり寄り付かない事もあって遠くで人々の喧騒が聞こえる。

(どうしたものか)

と、いろいろ思案していた所。

「・・・ごめん」

アニエスが謝って来た。

「え? アニエス?」

「・・・本当に言いたくなかったから。ごめんなさい」

「あー・・・何だ、僕も気にしてないから」

「うん、ありがとう」

「人間、誰しも秘密があるものさ。ま、いいって事よ」

こういったやり取りで微妙な雰囲気も何処かに吹き飛んでしまった。



その後、黒パンも食い終わり二人はいろいろと駄弁っていると。

「もう帰るよ。ナポレオン」

そう言うとアニエスは立ち上がりパンパンと尻を払う。

「あら、もう帰るのか?」

「まぁ・・・ね、ナポレオンもこんな所で油を売ってたら、店の人に怒られるんじゃ?」

「おおっと、それはいけない。僕もそろそろ仕事に戻らないと」

「それじゃ、ナポレオン、また会えるかな」

「そうだね、きっと会えるよ」

「うん、わたしはこっちだから・・・じゃあね」

そう言って、アニエスは走り出し路地裏へと消えていった。

「・・・・・・」

再び静寂が空き地を覆った。

「・・・またな、アニエス」

ぽつりをつぶやくと、空き地の隅っこに置いてある木箱へ足を進め、無色透明の液体が入った秘薬瓶を取り出した。

(だいぶ時間を食ってしまった。今日はまだ寄る所があるから早いとこ済ませてしまおう)

今度は川の側まで進んで秘薬瓶の栓を抜くと、たちまち白い煙がもうもうと吹き上がった。
次にマクシミリアンは秘薬の中身を川に流して、何処からとも無く杖を取り出しルーンを唱え始めた。

「イル・ウォータル・・・」

イメージはトリスタニアに降り注ぐ霧雨。

(王宮の噴水や他の水場の水量ではトリスタニア全体を補えないから・・・ね)

そうしてルーンを唱え終え、杖を天高く掲げた。
すると川の流れがピタリと止まり、次に止まった川から大量の『(もや)』の様な物がトリスタニア上空まで上って行き空を覆った。

靄はやがて霧雨に変わり、トリスタニアへと落ちていった。






                      ☆        ☆        ☆ 




アニエスにとってメイジとは敵だ。
彼らは突如として現れ、両親を友人を隣人をそして故郷を焼いた。
故郷ダングルテールの事は、今でも・・・そしてこれからも、そう、一生アニエスの心から決して離れない出来事なのだ。
あの日以来アニエスの内側に灯った黒い火は、自分一人だけ生き残って以来、生きる屍も同然だった幼いアニエスにとって生きる力になった。

(故郷を焼いたメイジを見つけ出して恨みを晴らす)

そう、心に決めた。

(他人の手を借りず、自分の手で・・・)


平民がメイジに対抗する方法を探すために強くならなければならない。
そう思ったアニエスは、自分を養女として引き取って養父になったメイジの男の部屋に忍び込んだ。
切っ掛けは養父がトリステインの王子の家庭教師として王宮に出入りしている事を、養母から聞いたからだ。

「武器か何か有ればいいんだけど」

武器になりそうな物は無かったが、変わりに授業内容の書かれた羊皮紙を盗み見ることが出来た。
そこに書かれていた内容・・・・・・『基礎をしっかりと固める』

(そんな都合のいいものなんて無いか)

この日からアニエスは徹底的に基礎体力から鍛えることにして今に至る。




そして9歳の時、いつもの様に足腰強化のジョギング・・・と、いう名の全力疾走をしていた時に一人の少年と出会った。

(・・・何処の田舎者だろう。でもカッコいいかも)

アニエスはその少年を始めて見たときの印象はあまりよい物ではなかった。
だが、アニエスもやっぱり年頃の女の子、よく見ると少年の整った顔立ちに胸がときめいたし、同年代の友達も欲しかった。
アニエスに友達がいない原因。それは近所の子供たちは狂ったように走るアニエスを怖がって誰も友達になろうと思わなかったからだ。
・・・むしろ近づこうともしなかった。

やがてアニエスは好奇心に負け少年に近づいていった。

アニエスとナポレオン・・・と、名乗ったマクシミリアンの交流は、途中、微妙な雰囲気になったが、すんなりと仲良くなることができた。

(嫌われると思ったけど、よかった)

トリスタニアに移り住んで始めての友達にアニエスは少しの間、復讐を忘れることができた。



ナポレオンと別れた後、アニエスは迷路のような路地裏を全速力で走り抜け、自宅あるブルドンネ街を目指した
途中、何度も通行人と激突しそうになるも、持ち前の運動神経と反射神経で避けながら駆け抜けた。
ちなみにこれも修行の一環だそうだ。通行人にとっては、はた迷惑この上ない。

「あれ?」

思わず、アニエスは足を止め空を見た。
空は雲ひとつ無く太陽が燦々と輝いているのに何処からとも無く霧雨が降り注いだからだ。
言うまでもなくマクシミリアンの殺菌殺虫魔法だがアニエスの知るところではない。

(なんて気味の悪い天気)

近くの家の軒下で雨宿りしようと足を進めると、一番会いたくない人とばったり出くわしてしまった。

「あ」

「ああ、アニエスか」

養父のミランだった。
思わずアニエスは口をつぐみ目をそらす。

「こ、こんな所で偶然だな」

一方、ミランも杖に体重を掛け、腫れ物に触るかのようにアニエスに話しかける。

「・・・・・・」

黙り込むアニエスにミランは何かと話題を振るが、のれんに腕押し・・・その全てを沈黙で返される。

(わたしなんて放っておけばいいのに)

アニエスはミランを本気で嫌っている訳ではない。

(メイジは敵だ。敵でなくてはならない)

自分自身に暗示を掛ける様につぶやく。

ミランの様な奇特なメイジは希少だ。
何時しか、アニエスはメイジを憎む事で心の平静を保っているという面倒な状態になっていた。
だが一方で、アニエス自身もミランの様なメイジは滅多にいない事も理解していたため、アニエスの心の中ではメイジへの憎しみとミランへの謝罪と後悔でぐちゃぐちゃになって、混乱にさらに拍車をかけていた。

(いっそ、そこら辺にいるメイジと同類なら、こんな思いしなくてすむのに)

霧雨はいつの間にか止んでいた。




                      ☆        ☆        ☆ 





ミランこと、ジャン=ポール・ド・ミランは、魔法衛士除隊後は王太子の魔法の家庭教師的な地位だったが。
その忠勤振りからマクシミリアン直属の家臣になり、シュヴァリエに復帰、ジャン=ポール・シュヴァリエ・ド・ミランに名を改めた。
家臣になった頃からマクシミリアンの魔法の授業は水魔法にみに変更しており、しかも水魔法の授業のほとんどの時間は秘薬作りになってしまった。
たまに剣の修行があるぐらいで、割と暇になってしまったかと思われた。

しかし、ミランに息つく暇はなかった。
今度は優秀な人材を捜索する仕事が舞い込んだからだ。
おかげで家を空けることが多くなったが、妻のマノンは程好く実った胸をたたいて。

「家の事は任せて!」

と、元気良く送り出してくれた。

マノンとの間にはまだ子供は授かってないが夫婦仲は大変良好だ。

夫婦仲こそ良好だが、問題が無いわけではない。
数年前に引き取った養女のアニエスの事だ。
引き取った当初からミランには中々懐こうとせずミランの憂鬱にさせた。
マノンには良く話しかけているのを見かけるが、ミランが近寄ると顔も合わせようともせずに、そそくさと何処かへ逃げるように去っていった。
後日、マノンに嫌われた原因は何か相談してみたら、どうもアニエスはメイジが嫌いらしい。
マノン自身もミランとアニエスの仲を気に病んでいたため、さらに掘り下げて聞いてみたが結局アニエスは詳しいことは教えてくれなかった。

数週間振りにトリスタニアへ帰ってきて、突然の霧雨に辺りを見渡し雨宿りしようと近くの軒先に向かうと、アニエスとばったり出くわしてしまった。

「あ」

「ああ、アニエスか」

アニエスも驚いた顔でミランを見ている。

(何か話しかけないと)

慌てて、アニエスに話題を振るも沈黙で返される。

(どうしたものか)

以前、さらに踏み込んで接しようとした時、アニエスに激しく拒絶され、それ以来、腫れ物に触れるような対応しか出来なくなってしまった。

ふと気付くと霧雨は止んでいた。
ミランは空を見上げると、アニエスはその隙をつく様に逃げ出した。

「アニエス!」

アニエスはあっという間に見えなくなり、路地裏の軒下に一人残される形になった。

「・・・情けない」

がっくりと肩を落とす。
追おうにもこの足では追いつけそうもないし、アニエス自身、9歳とは思えなくなるほど恐ろしく足が速くなりフライで追っても追いつけない可能性が高かった。

(それにこれから寄らなければならない所もある)

アニエスを追うことを諦める事にしたミラン。
いつもの明朗活発さは鳴りを潜め、何処か暗い雰囲気が辺りに漂っていた。







                      ☆        ☆        ☆ 





トリスタニアに局地的に降った霧雨は止み、川はいつもの様な緩やかな流れを取り戻していた。

その光景を見届けたマクシミリアンは空き地に戻ろうとすると、空き地に人影を見た。
最初は『アニエスが戻ってきたのか?』と、思ったが、よく見ると平民風の服を着た痩せた老人の男だった。

「流石は殿下、お見事ですな」

老人がしわがれた声でマクシミリアンを称える。

「・・・? ええっと、どなたでしょう?」

「えへへ、こいつぁ、失礼。この格好じゃ分からなかったですな」

「?」

老人は両手で顔を撫で始める。
すると顔か粘土細工のように、ぐにゃりと崩れた。

「ううっ!?」

あまりのキモさにマクシミリアンは顔をしかめた。
顔の変形だけでなく、身体もボキボキと音を立てて変形している。

「う、うげぇぇぇぇぇ!?」

あまりの酷さにマクシミリアンは口に手を当ててうずくまった。幸い、戻してはいない。

「うぐ、思い出した。こいつはクーペ・・・ジョゼフ・ド・クーペ!」

何とか立ち直り老人の方を見ると、老人の変わりに長身の青年が立っていた。

「どうですか? 思い出していただけましたが?」

「ああ、イヤでも思い出すよ、これは」

先ほどのしわがれ老人声から打って変わって、さわやか青年声のクーペはニコリと笑った。

(声まで変わるのか)

マクシミリアンがクーペを家臣に迎えたのは数ヶ月前のことで、腕利きの密偵が欲しかったマクシミリアンはミランを通して出会ったのだが、その時は今のような青年の風体をしていた。

「信用できませんが信頼できる奴が居まして・・・」

と、要領を得ない言葉で、ミランに紹介された。

クーペは隣の大国のガリア王国から流れてきた元貴族・・・と、いう触れ込みでやって来た。ついでにクーペ直属の密偵団も一緒になってやって来たため、『ガリアのあからさまな謀略では?』と、疑わざる得なかった。

(クーペとその密偵団は喉から手が出るほど欲しい・・・)

しかし、謀略を疑って手が出せない。

(逆に考えれば、本当に仕官しにやって来たのでは?)

その後、散々迷って、マクシミリアンはクーペとその一党を家臣に加えることにした。

クーペは密偵頭として密偵団を各地に放って情報集をさせつつ、自身も変身の秘術を使って密偵として動いている。
フェイス・チェンジという顔を変える風と水のスクウェアスペルが有るが、クーペの変身は魔法なのか非魔法なのか、それすら分からない、まさに秘術と呼ぶにふさわしかった。
その気になれば幼女から老人までなんにでも変身できるそうだ。
クーペの本当の顔はもちろんの事、年齢、性別、家族構成など誰も知らない。

(・・・化け物め)

内心、つぶやくしかなかった。

「・・・所で、何しにやってきたんだ?」

マクシミリアンはクーペに聞いてみた。ちなみにクーペは先ほどの老人姿に戻っている。

「へえ、先方の皆様方はすでに到着されてまして。へぇ、それと殿下にご機嫌伺いを」

「うん、そうか、ちょっと遅れてしまったか」

「まぁ、皆様方、久々のトリスタニアですので羽を伸ばしていると思いますがね」

「早いに越したことは無い。早速、出発しよう」

「へぇ、お供します」

マクシミリアンは少々早足で次の目的地へ向かう。後ろにはクーペも着いて来ていた。

十数年前、トリステインの国政を牛耳り辣腕を振るってトリステインを大いに富ませたエスターシュ大公。
その後、大逆罪に近い罪で失脚し、官職や財産を剥奪されエスターシュ大公も自身の領地から一歩も出ることを許されなくなった。
大公の下にいた貴族の大半は他の有力貴族に吸収される形でエスターシュ派は事実上消滅した。
だが、吸収されずにトリステイン各地に散らばって細々と暮らしていた者たちもいた。
マクシミリアンはそんな彼らに目をつけ、ミランやクーペら密偵団を使って、彼らを探し出し、口説き落とした。

(残り物には福がある・・・と、いうけど。最後まで吸収されずに残った彼らこそ『本物』にちがいない)

以前、トリステイン王国発行の貴族名鑑なる、全トリステイン貴族を記録した文章を見る機会があったが、エスターシュ時代に若くして要職に就いていた貴族が、今現在、貴族名鑑の何処にも載っていない事から見て、吸収されていない事が分かった。

(それも一人や二人ではない。オレに彼らが使いこなせるか・・・)

彼らが自分の器に入りきるかどうか、一抹の不安を残しつつ、マクシミリアンとクーペは早足でその会合場所へ向かった
 
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