ヴァンパイア騎士【黎明の光】
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黒主学園、開校。
1
バタン。
派手な音を立てて、車のドアを閉める。
自然と眉根に力が篭もってしまう。緊張している証拠だ。
見上げた先には豪奢な建物が聳(そび)え立っていた。
それは一般の人間が出入りするには恐縮してしまうほどに巨大で、華やかな外観。
学園らしからぬその風貌をひと通り見渡してから、澪はため息を吐いた。
「……気合いを入れるのは良いんだけどな」
真新しい制服の襟をきゅっと締める。
朝から何度も直しているのだが、案外自分は不器用なのか。
ネクタイがきちんと締まる事はなく、何故か着崩したような形になってしまう。
不満げにそれを見下ろしてから、車の反対側に回ると澪はドアを開いた。
「姉さん」
後部座席のシートに身を沈め、すやすやと眠る少女。
澪の種違いの姉である樹里愛だ。
吸血鬼である樹里愛は朝に弱い。
本来は休んでいる時間のため彼女が眠ってしまうのも無理はないのだが、意識を夢の世界に手放しながらも日傘はしっかり握ったままである。
「……おい、姉さん」
細い肩を掴み、軽く揺すってみるものの目を覚ます気配はない。
困惑した様子で澪は頭を掻いた。
黒主学園は普通科と夜間部でクラスが分かれている。
普通科は名前の通り普通の【人間】たちが通うクラス。
――だが、夜間部は樹里愛のような吸血鬼が通うクラスなのだ。
入校式は合同で開催されるというのに、目を覚ましてくれないんじゃ話にならない。
澪は今度は先程より強めに声を掛けた。
「姉さん!」
………無反応。
予想通りの反応に思わず膝の力が抜けてしまいそうになるが、何とか踏ん張る。
姉の眠りは相当深いらしい。
普通科の生徒たちは夜間部の正体を知らないので、体調不良を装い救護室にでも運ぶべきか。
運転手はいるけれど、女である姉だけを車内に残すのは忍びない――
そう考えていた時、背後で砂利を踏む音がした。
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