同窓会

第五章

「食べるのがね」
「近藤さんってしゃぶしゃぶ好きだったんだ」
「すき焼きよりもそっちの方が好きなの」
　今度はこんなふうにも言うのだった。
「あっさりしていてね。だからなの」
「そうだったんだ」
「周子君もそうかしら」
「いや、俺はどっちでもいい」
「そうなの。どちらでもいいの」
「すき焼きも好きだししゃぶしゃぶも好きだ」
　こう話すのだった。彼はここで。
「酒だって飲めるしな。何でもな」
「何かそういうところは変わらないわね」
　景子はここで笑ったのだった。一圭はその笑顔を見て内心驚いた。
　その笑顔は彼が見たことのない笑顔だった。晴れやかで曇りのない。いつも顔を合わせるとお互い難しい顔になっていたのでかなり驚いたのである。
「えっ・・・・・・」
「どうしたの？」
「あっ、いや」　　
　言葉を出してきたので慌てて言葉を打ち消した一圭だった。
「何でもないけれど」
「そうなの」
「ああ。何でもない」
　こう言って自分の言葉をさらに打ち消すのだった。景子はその彼に対してさらに言うのだった。
「そうなの。それでも」
「それでも？」
「周子君らしいわね」
　こうも言ってきたのだった。
「何でも好き嫌いがないっていうのは」
「好き嫌いが」
「食べ物だけじゃないみたいだしね」
　今度はこのことを話したのであった。
「皆と今も仲いいみたいだし」
「見てたんだ」
「見えたの。覗いたわけじゃないわよ」
「それはいいよ」
　別に覗いたからといってどうでもよかった。そうしたことに別にこだわったりはしない一圭である。その心も広いのだ。優しいだけではないのだ。
「別にさ」
「そう。よかった」
　それを聞いて安心したような笑みになる景子だった。しかし話はそれで終わりではなかった。
　不意に言葉を変えてきた。その言葉は。
「ねえ」
　まずはそこからだった。
「覚えてるわよね。高校の時のこと」
「高校の時か」
「そうよ。入学してすぐに喧嘩したわよね」
　彼の横で空を見上げながらの言葉だった。
「あの時。派手に」
「それからも何度もあったよな」
「あの時も。それからのことも」
　ここで一圭に顔を向けてきたのだった。身体もだ。彼に対して身体全てを向けてそのうえでこう言ってきたのだ。
「御免なさい」
「えっ・・・・・・」
　この店に来て一番驚いたことだった。彼女に謝罪されてた。驚くどころか心臓が飛び出そうになるのを何とか抑えてそのうえでその景子に顔を向けて唖然とさえしていた。
「御免って」
「いつも私がつっかかってそれで貴方に迷惑かけて。御免なさい」
「迷惑って」
「正直言ってね。最初のことがずっと心の中に残っていたの」
　そうだというのである。その最初の喧嘩のことがだ。
「嫌な奴だって思ったりもしたわ。それは周子君もそうよね」
「まあそれはね」
　嘘をつけない一圭である。それでそのことを言葉に出すのだった。
「そうだよ。嫌いだったよ」
「高校卒業してから考えることもあったわ」
　また述べる景子だった。
「三年間ずっと喧嘩したけれどあれは自分が悪いのか相手が悪いのか」
「そんなこと考えてたんだ」
「周子君が悪いんじゃなくて私が悪かった」
　夜の中でその顔が白く照らし出されていた。それはさながら自然に映し出されているようだった。月も星もない中でそうなっていた。