おぢばにおかえり
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第十九話 夏ですその十
「テストが終わったらおぢばがえり」
「それで夏休み」
何はともあれ夏休みはもうすぐです。
「実家に帰ることもできるし」
「もう一踏ん張りね」
そう言い合いながら話を終えます。それから参拝を終えて登校です。夏のこの時はあっという間に終わってテストも終わりです。何か本当にあっという間でした。
テストと終業式も済んで寮に戻ると。お部屋に長池先輩がおられました。
「おかえり」
「おかえりなさい」
制服姿で何か色々と書いておられます。何なのでしょうか。
「あれ、何を」
「手紙書いてるのよ」
こう私に説明してきました。
「お手紙ですか」
「家族にね。先に伝えたいことがあって」
「御家族にですか。何かあったんですか?」
「私暫く詰所にいないといけなくなったのよ」
何か事情がありそうだな、とお話を聞いて思いました。
「ちょっとね」
「そうなんですか」
「ええ。それでこうして先に手紙を送っておくの」
「携帯がないからですね」
「そうなの。携帯ないのってやっぱり辛いわね」
口を波線にさせています。その御顔見て本当に辛いんだな、ってわかります。
「すぐに伝えられないから」
「そうですよね、やっぱり」
「実はね、詰所の方から御願いされたの」
その事情のことも私にお話してくれました。
「何日かお手伝いして欲しいって」
「おぢばがえりの準備のひのきしんですか?」
「そう、それなのよ」
やっぱりそれでした。天理教の一大イベントですから人が必要なんです。
「うちの大教会今年は特に盛大にするからね。それでなのよ」
「そうなんですか。先輩のところは」
「ちっちのところはどうなの?」
今度は私に尋ねてこられました。
「私のところですか」
「だってあれじゃない。ちっちの奥華は大きいから」
大教会にも大きいところと小さいところがあります。私のところは分教会が二七〇以上ある大きい方の大教会です。凄いところになったら五〇〇以上の分教会がある大教会もあります。
「凄いのになるんでしょ?やっぱり」
「はい、毎年夏になったら凄い人が集まります」
「でしょうね、やっぱり」
「先輩のところも毎年なんじゃないんですか?」
「そうだけれどちっちのところ程じゃないわよ」
そうらしいです。やっぱり私のところが大きいんでしょうか。
「それで今年は特に人が多く集まるみたいで」
「人手が足りなくて、ですね」
「準備にもね。提灯に字を書かないと駄目だから」
天理教では提灯がよく使われます。それぞれの教会の名前を書いたりして詰所や神殿のところに飾ります。それが結構大変なひのきしんだったりします。
「私は書くの担当なのよ」
「先輩が書かれるんですか」
「ええ。だから不安なのよね」
こう言って溜息を出されます。
「上手く書けるかしら」
「先輩なら大丈夫ですよ」
私は本当にそう思いました。先輩ならって。けれど御本人はそうは思ってはおられませんでした。また溜息を出されて言われるのでした。
「だといいけれどね」
「不安なんですか」
「皆が見るのよ、私の字を」
提灯に書くのですからこれは当然です。
「その時何て言われるのか」
「ですか」
「ええ。今から練習しないとね」
「先輩も色々と大変なんですね」
「しかも私三年だし」
絶対に忘れられないことでした。
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