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硝子の心

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5部分:第五章


第五章

「それじゃあね。行こうよ」
「行こうよって?」
「もうお昼じゃない」
 そのにこりとした笑みでまた清香に話した。
「だから。食べに行こう」
「あっ、そうね」
 言われてそのことを思い出す清香だった。確かにもうそんな時間だった。思い出せば自然とお腹も空いてきた。身体は自然であった。
「それじゃあ。食堂で」
「おうどん食べよう」
 静香はにこにことしてまた清香に言ってきた。
「それでいいわよね。おうどんで」
「うん。じゃあ」
「鴨なんばうどんに親子丼ね」
 丼もなのだった。
「私それがいいわ」
「じゃあ私はきつねうどんにかきあげ丼かしら」
 清香は気付いていなかったがもういつも通りの顔になっていた。明るい顔で陽気に静香と話している。もうさっきまでの落ち込んだものは完全に消えていた。
「その二つね」
「きつねにかきあげね。それもいい組み合わせね」
「静香はあれなのね。鶏づくしね」
「私鶏好きなのよ」
 だからだというのである。
「清香も好きよね、鶏」
「ええ、まあね」
 完全に静香と同じ表情になって言葉を返していた。
「味も好きだしカロリーも少ないし」
「そうなのよ。ダイエットにいいから」
 話は今度は如何にも女の子らしい話になっていた。女の子ならばどうしてもスタイルのことを意識しなくてはならない。当然ながら静香も女の子なのだ。
「だから余計にね」
「鶏なのね」
「そうなのよ。だからなのよ」
 やはりこれであった。
「だから鶏なのよ」
「私もかきあげ止めようかしら」
 そして勿論清香も女の子である。ならばこう考えるのも自然な流れであった。
「太るし」
「じゃあ何にするの?」
「玉子丼かしら」
 それにしようかというのである。
「やっぱり」
「いいんじゃない?それで」
 静香も清香のその考えに賛成した。
「じゃあまずは何につけても」
「そうね。食堂に行って」
「食べましょう」
 こうして二人で仲良くかつ明るく食堂に向かうのだった。そこにはもう先程までの落ち込んだ清香はいなかった。皆そんな彼女を見て言うのだった。
「なあ、ひょっとして」
「ああ、そうだな」
「そうね」
 それぞれお弁当やパンを食べながら話をはじめていた。
「静香ってひょっとして」
「高梨のことわかってるのか?」
「だよな、あれは」
 真剣な顔で話をしていた。食べながらであるが。
「それで注意するのと同時に励まして」
「気持ちを落ち着かせたのね」
「今までの清香だったら」
 ここで皆これまでの彼女のことを思い出すのだった。何か言われればもうそれだけでどこまでも落ち込んでしまう彼女のことをだ。
「あれでもう泣きながら早退するのに」
「それを止めるなんてな」
「やり手?」
 静香への評価である。
「静香ってひょっとして」
「そうかもな」
「あれはね」
 皆今は教室にいない彼女のことをこう評価しだしていた。
「とにかく高梨は落ち込まないで済んだな」
「あの娘のおかげでね」
 それは確かだった。彼女はいつものように落ち込むことなく話は奇麗に収まった。それだけは確かであった。そしてこれはこの時だけではなかった。
 
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