真田十勇士
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巻ノ二十五 小田原城その十五
「しかしな」
「政は、ですか」
「領地は治められてもな」
「天下を見ることはですな」
「それが出来る者が少ない」
「今は弥八郎殿がおられますが」
「あ奴だけじゃからな」
困った顔での言葉だった。
「だからな」
「天海殿が来られれば」
「有り難い」
「では召し抱えられれば」
「是非な」
天海、彼をというのだ。
「そしてその言葉を聞きたい」
「さすれば」
「弥八郎だけでは足りぬ」
天下を見てそのうえで政が出来る者がというのだ。
「徳川も大きくなった」
「今では」
「三河一国から三国を手に入れてな」
「さらに甲斐、信濃ともなれば」
「天下を見据えてじゃ」
「そうして政を考えねばならぬのですな」
「だからそうした者も欲しい」
こう服部に言うのだった。
「それ故じゃ」
「天海殿は欲しいですか」
「当家にな、それに他にもな」
「天下の政を見られる方がですな」
「欲しいな」
家康は服部に話した。
「是非」
「そうですか」
「うむ、しかしな」
「しかしとは」
「まだ欲しい」
家康は欲も見せて語った。
「人がな」
「天下を的確に見られる方がです」
「そして謀も出来る」
家康はこうも加えた。
「当家では謀は弱いからな」
「そちらが出来る方もですか」
「どうしても必要じゃ」
「それで弥八郎殿の他にも」
「欲しい、天下を見られて政が出来てな」
尚且つ謀にも秀でた者がというのだ。
「是非な」
「その二つを併せ持っているとなりますと」
「どうしても少ないな」
「天下広しといえど」
「しかし欲しい、もう少しな」
家康はこう言いつつだ、天海が来るのを待っていた。天下を見据えて動く必要を感じているからこそのことだった。
巻ノ二十五 完
2015・9・25
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