世界中で俺が1番恋した色
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水
俺は日付が変わったあと、ようやく眠りにつくことができた。
目の前に白い世界が広がっている。同年代の少年が笑顔でこっちを見ている。
「葵花、久しぶりやな」
「こ、岬橙……」
「昨日久しぶりに紅乃と葵花に会えた。二人とも昔と全然変わってない。いつもの2人がおった。」
「俺、岬橙に謝らないといけないことがある。岬橙、今まで行けなくてごめん。」
「こっちこそ謝らんといけん。急に2人の前から消えてしもうて悪かったな。2人には迷惑かけたと思う。2人が俺のこと考えてくれたのは痛いほどわかった。でも、俺はもう現実の世界で2人に会うことはできん。俺は、お前ら2人が幸せになることを祈ることしかできない。だから、お前らは俺の分まで幸せになってくれ。」
「約束するよ。絶対お前の分も幸せになる。だから、これからも紅乃と俺のこと見ててくれよ。」
「さすが、葵花。変わってない。もう時間が来たみたいだわ。最後になったけど、葵花、紅乃をよろしく頼んだで。」
そう言い残すと、その存在はスーっと消えてしまった。
俺は、来年も絶対に紅乃と墓参りに行くと心に決めた。
その時だった。
真っ白だったここが真っ青に変わった。
透き通るような青色だ。
少女の元気な笑い声が聞こえる。
頭の中の一番奥深くの記憶がえぐり取られる感じがした。
呼吸が早くなるのが分かる。
急に頭が痛くなった。
倒れてしまった。
ここで目が覚めた。夢とはいえ、岬橙に会えた。岬橙は全く変わっていなかった。俺が知ってる岬橙がそのまま大きくなった感じである。
紅乃をよろしく頼んだという言葉が俺の心に重くのしかかっている。
俺は、紅乃に何かしてあげられているのだろうか。寧ろ、紅乃が俺に色々してくれるのである。
さて、どうしようかと考えていると再び頭に激痛が走った。
俺がさっきから気になっているのは、「青色」の正体だ。よく思い出せないがどこか懐かしい記憶である。
俺は、カーテンから少し光がこぼれているのに気が付いた。寒い中で意を決して布団を出る。リビングへ行くと、既に母が朝食を作り終えて、テレビを見ている。星占いのコーナーが始まった。俺は6位とイマイチピリッとしない順位だった。
そうこうしてるうちに家を出る時間になった。今日はいつもと比べて軽い荷物を前カゴに無造作に放り込み、学校へ向かった。学校に行くのはとても久々な気がする。
蒼空さん。岬橙の所へ行っても、常に気になっていた存在だ。
すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。そして、他愛もない会話をして、学校に向かったのである。
今日は遅刻ギリギリくらいなってしまった。
小走りで校舎に入ると、碧がいた。
「おはよう。葵花。なんか久しぶりだね」
「なんか色々迷惑かけたな。」
「全然そんなことないよ。」
碧は本当に優しいなと改めて思わされた。俺と紅乃が休んでる間に2人のプリントをまとめて、それぞれの家に持ってきてくれたのは碧である。
教室に入った。その瞬間にチャイムが鳴ってホームルームが始まった。
1日いきなり早退して、1日欠席したからクラスの人からどんな目で見られるのか心配になったが通常通りで安心した。
蒼空さんの席はある。俺にはやはり存在が確認出来ない。だが先生が出席確認で欠席者がいないと言ったので蒼空さんは出席している。
1時間目はLHRだ。
授業の準備も特に必要ないので、男子と中身のない会話をしていた。
チャイムが鳴って、みんながそれぞれ席についた。日直が号令をし、1時間目が始まった。
「えーっと、今日は席替えをしたいと思います。」
先生のこの言葉を聞いて、男子が騒ぎ始めた。
先生が前から順番にくじを回していった。くじが回ってきた。あまり席は気にしないタイプなので、直感で引いた。次の人にくじを回す。
くじの開封の時間がやってきた。28番、一番後ろだ。所謂あたり席だ。あまり席を気にしないので、特に嬉しいと思わなかった。
席移動が始まった。みんながイェーイとか最悪とか口々に言いながら座った。
俺は、隣の席を見た。
誰もいない!?
クラス全体を見回した。
他に空席はない。
ということは、俺の隣は蒼空さんだ。
俺は衝動的に逃げようとしてしまった。
すると教室の右後ろから声が聞こえてきた。
「葵花、ここで逃げたら、ずっと逃げ続けることになるよ!そんなことはさせない!私が絶対にこの教室か出さない。これは、岬橙との約束でもあるから」
紅乃だった。
彼女の目は少し潤んでいて、真っ直ぐこちらを見ていた。
「ありがとう」
俺は、そう言って自分の席に座った。また紅乃に救われた。岬橙と約束したのに。俺は紅乃に何もしてあげられてない。
その時、蒼空さんの方から強風が吹いてきて、一瞬だけ蒼空さんの姿が見えた気がした。
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