極彩色の花達
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4部分:第四章
第四章
暫くしてまた来て買う。それを何度か繰り返すうちに二人と紳士は顔見知りになった。やがて店の中で楽しく談笑するようになった。ここで未来がふと言ったのだった。
「ここにいると」
「いると?」
「どうなのですか?」
「落ち着きますね」
こう亮治と紳士に話すのだった。
「とてもね」
「それは何故ですか?」
紳士がそれに問うた。
「お花に囲まれているからでしょうか」
「はい、だからです」
まさにその通りだと答えたのだった。
「それで」
「ああ、それはですね」
ここで紳士は言ってきた。
「覚えているからですよ」
「覚えているからですか」
「そう、だからなのですよ」
こう言ってきたのである。
「覚えているからです」
「覚えているからって」
「一体何を」
亮治だけでなく未来もそれに問う。
「それがよくわからないんですけれど」
「何を覚えているんですか?」
「中にいた時のことをです」
紳士はにこりと笑って二人に言ってきたのだった。
「その時のことをです」
「中!?」
「中っていいますと」
「人は最初何処にいますか?」
紳士は二人にここから話してきた。
「最初は何処に」
「!?」
「何処にって」
それを言われても首を傾げるばかりの二人だった。
「ええと、それは」
「何処なんでしょうか」
「ですから。生まれる時です」
話しはそこに及んだ。
「生まれる時は何処にいますか?」
「ええと、それは」
「やっぱり」
そう言われるとだった。二人も答えることができた。そしてそこは。
「お腹の中です」
「お母さんの」
「そうですね。そこですね」
「ええ、そうです」
「そこですけれど」
「そこの記憶なのです」
そうだと話すのであった。
「そこの記憶が残っているからなのです」
「お腹の中の記憶がですか」
「あるからなんですか?」
「これは無意識の中で覚えているものでして」
紳士の話は続く。
「お母さんのお腹の中にいた時。赤ちゃんはずっと夢を見ています」
「夢をなんですか」
「寝ているその間に」
「そうです。夢を見ていまして」
「まさかその夢の中で見ているのは」
「その」
「そうです。お花なのです」
まさにそれだというのだった。紳士の言葉ではだ。
「こうした派手で美しい花達に囲まれている夢を見ると言われています」
「じゃあ俺はそれを覚えているから」
ここで亮治は完全にわかったのだった。
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