おぢばにおかえり
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第十九話 夏ですその七
「この前他の学校の子」
寮生の一人が怒った顔で話しだしました。
「何て言ったと思う?」
「何て言ったの?」
繰り返しの質問になっていました。
「天校の女ってデブが多いな、なのよ」
「えっ、何よそれ」
「言っていいことと悪いことがあるじゃない」
皆それを聞いて憤慨です。天校っていうのは天理高校の略称です。愛称みたいになっていて皆随分昔から使っている予備方です。
「けれど気になるっていうのはねえ」
「やっぱり」
それでいて否定できないものもありました。
「私達やっぱり?」
「目立つかしら」
皆口々に言い合います。
「太いかしら」
「やっぱり」
「気のせいよ」
けれど自宅生の中ですらっとした娘が私達に言います。
「皆普通よ」
「普通かしら」
「全然そうじゃないわよ。脂肪率と体重調べればいいのよ」
「その二つなのね」
「そういうこと。その二つでわかるわよ」
こう私達に言います。
「それに皆のスタイル見たけれど」
「ええ」
「全然いいじゃない」
「そうかしら」
「いいわよ。だから安心して」
また私達に言います。
「奇麗な身体してるわよ」
「だといいけれど」
「やっぱりデブって言われたら」
「気にしない気にしない」
今度はこう言われました。
「そういうのはね」
「気にしないでいいのね」
「気にしたら駄目よ」
今度の言葉はこれでした。
「かえってよくないわよ。そんな言葉」
「そうなの」
「大体それって半被着てる時に言われる?」
「半被!?」
「そう、半被」
あの黒い半被です。天理教のシンボルとも言えるあれです。
「あれ着てる時は言われないでしょ」
「あれ、そういえば」
「そうよね」
ちなみにこの前大学生位の半被のお兄さんが右手で首の辺りをネクタイをなおすみたいな動作をしておられるのを見ました。村上幸平さんみたいでした。
「黒は痩せてるように見えるのよ」
「そうだったの」
「だからあれじゃない」
彼女はここでさらに言います。
「大阪のおばちゃんなんかね」
「ちょっとあれはねえ」
「かなりね」
違うと思います。あれは尋常なセンスじゃないです。
「豹柄とかないわよ」
「大阪って何でああなのかしら」
大阪の娘も言います。私は神戸ですけれど神戸のセンスはかなりいいと評判ですし私もそう思います。けれど大阪は、って感じの話になっています。
「とにかく黒はいいのよ」
「そうなの」
「そういえばそうよね」
皆納得しだしました。
「黒着てると痩せてるように見えるわよね」
「ううん、確かに」
「それを考えたら半被っていいのね」
「けれどあれよ」
それでもここでまた話が出ます。
「夏暑いのよねえ」
「確かに」
これが問題です。
「それがどうしてもね」
「困った話よ」
口々にこう言い合います。
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