笑顔も贈りものも

第一章

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　笑顔も贈りものも
「凄い美形よねえ」
「何時見てもね」
「全く」
　学校の中で女の子の視線を集めているのは中村秀典だった。細めの髪が実に多い奇麗な茶髪を格好よく伸ばしているのは何処かホストめいている。細面にある目は一重でありやや切れ長だ。その視線の光は強くまるで冷やした刀身の様である。色は白く背は百七十八近くありスタイルはすらりとしている。声は低く澄んだものである。それが学校中の女の子の垂涎の的中村優典である。
「ああした人が彼氏だったらねえ」
「まあ私彼氏いるけれどあの美形には参るわね」
「全くね」　
　黒い詰襟の最早オールドファッションと言っていい制服姿もよく似合っている。その愛想のない制服も彼が着ればモデルのファッションになってしまう。
　そんな彼だからいつもラブレターを受けていた。そして告白する女の子も多い。しかしであった。
「御免、悪いけれど」
「残念だけれど」
　こう言っていつも断る秀典だった。
「僕は君とはね」
「気持ちに添えられないから」
　誰も彼を恋人にすることはできなかった。女の子達はこの事態についても話すのだった。
「ゲイ・・・・・・じゃないわよね」
「まさか。それはないでしょ」
「幾ら何でもね」
　この可能性は流石に否定された。
「変な漫画の見過ぎよ」
「そういう趣味あったらもっと派手な噂になってるわよ」
「そうそう。火のないところにはっていうから」
「だからね」
　同性愛の可能性はこれで否定された。しかしであった。
「それにしてもね。好みが五月蝿いのかしら」
「そうじゃないの？やっぱり」
「だから誰が告白してもね」
「駄目っ」
　きっぱりとした否定の言葉も出された。
「もうね。誰が告白してもね」
「駄目なの」
「本当に誰の告白にも動かないのよ」
　まさにそうだというのである。
「難攻不落っていうかね」
「何でなんだろうね。それって」
「好みとかかしら、やっぱり」
　その秀典について皆であれこれ話す。しかしどうしてもわからなかった。
　そしてだ。ここで一人の少女がいた。眼鏡をしていて髪はおかっぱだ。顔は大人しく切れ長の奥二重の目をしており口の大きさは普通だ。鼻の高さもそうした普通のものである。制服はブレザーを普通のスカートの丈にしている。短くもしておらずソックスも清楚な白だ。かなり地味である。
　その彼女にだ。周りの女の子達が声をかけてきたのだ。
「ねえ敦子」
「どう思うかしら」
「えっ！？」
　その少女霧島敦子は彼女達の言葉に応えて声をあげた。皆の中にそのまま入ってそこにいたのである。ただ皆の中にいるだけであった。
「どうって」
「だからどう思うの？」
「中村君のこと」　
　皆彼女にも彼のことを尋ねるのだった。
「どんな美人が告白しても駄目で」
「それに贈りものをしても駄目なのよ」
「何をしても駄目なのよ」
　このことを彼女に一斉に言うのであった。
「本当に何をしてもね」
「どう思うかしら、これって」
「あんまりよね」
「ええと」
　敦子は戸惑いながらも。それでもとりあえず言葉を出したのであった。
「それはその」
「何ならあんたも告白してみる？」
「それはどうなの？」
「中村君にね」
「好きなのはわかってるわよ」
「それはね」
　これは彼女達が既に察していることだった。
「だからね。どうなのよ」
「告白してみたら？」
「どう？」
「私は」
　そう言われると戸惑った。そのうえで皆に返すのだった。