おぢばにおかえり
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第十九話 夏ですその一
夏です
テストが近付く夏です。天理高校も普通の学校と同じく年五回、中間と期末のテストがあります。それで今回は一学期の期末テストです。
「何かテストばっかり」
「しかも寮は相変わらずだし」
また寮生同士で朝の参拝前の集合の時に愚痴です。
「しかも暑いわよ」
「おぢばはねえ」
「暑いのはどうにかならないかしら」
私もこれは辛いです。何か前に蜃気楼が出るような暑さをここで実感したことがあります。真夏のお昼ですけれど。
「しかも寒い時はね」
「ロシアみたいよねえ」
「何かあの大統領思い出したわ」
プーチンさんですね。あの人の微笑みって凄く怖いんですけれど。それこそ特撮ものかアメリカ映画の悪の総帥とかスパイの長官みたいな。
「そうしたら涼しくなった?」
「全然。阪神勝ったら涼しくなるかも」
「昨日負けたわよ」
「やっぱり岡田監督駄目?」
また野球の話です。野球部も有名ですし女の子の間でもこうしたお話になります。それにしても本当に阪神ファンの多い学校です。岡山の子でも阪神ファンだったりします。
「駄目みたいよ、何か」
「何で星野さん辞めたのよ」
「そうよねえ。今年こそは日本一になって欲しかったのに」
「折角十八年ぶりだったのにね」
よく考えたら私達が生まれる前に最後の日本一だったんですね。それを考えると阪神ってチームは物凄く長い間弱かったんだってわかります。
「丁度三年の先輩達が産まれた時に優勝して。あっ、産まれる一年前に」
「そっからずっと弱かったからね」
「凄いわねえ、よく考えたら」
全くその通りです。流石は阪神です。
「うちのお兄ちゃんいっつもゲームで阪神弱いって言って怒ってたし」
「そうなの」
「実際滅茶苦茶弱かったじゃない。打線は打たないし守ったらエラーばかりだったし」
「大事なところでいつもホームラン打たれるし」
「そうそう」
神殿の西の砂のところで話をします。
「何で阪神のピッチャーっていいのが多いのに大事なところでホームラン打たれるのかしら」
「リードは。悪くないわよね」
「矢野さんのリードはいいでしょ」
それでもなんです。私も矢野選手のリードはいいと思います。
「それで何でここぞって場面でいつも打たれるんだろ」
「あれが不思議よね。風が出たりして」
阪神にとっては向かい風、敵には追い風。甲子園の風って凄く不思議です。
「敵のバッターが打った時に絶対に吹くのよね」
「そうそう、それでこっちの時はボールを追い返す感じでね」
「絶対におかしいわよね」
阪神には何かあるんでしょうか。そう思っていると。
「あれ呪いらしいし」
「呪い!?」
「ええ、ケンタッキーのおじさんいるじゃない」
あの白いタキシードの人ですね。
「あの人」
「カーネル=サンダースね」
「あの人の呪いらしいのよ」
また随分と訳のわからない呪いだと思いました。聞いていて。
「呪い!?」
「私達が産まれる前だけれどね。その日本一の時よ」
「その時ね」
随分と遡るものです。
「そう、その時。皆で道頓堀に飛び込んでいて」
「ええ」
これはもう恒例行事になってるっぽいです。阪神が優勝したら道頓堀に飛び込む。何故そうするかわからないですけれど皆します。あの汚い場所に。
「その時にケンタッキーのおじさんも一緒に入れたらしいのよ」
「えっ!?」
「嘘でしょそれ」
皆信じようとはしませんでした。当然です。阪神には全然関係ないですから。けれど話している彼女は真剣な顔で話すのです。
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