冬虫夏花
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7部分:第七章
第七章
「身体にはビールよりずっといいのよ」
「それ飲んでるから沖縄人は長生きなのか?」
「あとこういったのも食べるからよ」
見ればテーブルの上にはピザやソーセージだけが置かれてはいなかった。その他には足てびちやミミガーやゴーヤチャンプルもあった。そーきそばもある。
「どれもね。身体に凄くいいから」
「それに美味いしな」
「やっぱり沖縄よ」
ミトンで箸を器用に使いながら食べての言葉だ。流石に今はマフラーで口を覆ってはいない。首には巻いているが。
「沖縄料理が最高よ」
「そうなんだ。だから」
「そうよ。ここのお店って沖縄料理もあるのね」
「何でも店長が沖縄出身らしくてね」
「あっ、ウチナンチューなの」
沖縄の人は自分達をこう呼ぶ。それに対して本土の人をヤマトンチューと言う。だがどちらにしても同じ日本人である。民族が違うだけである。それもかなり混血しているので同じ存在であると言ってもいい。実際のところはそんな関係なのである。大した違いは全くない。
「そうだったんだ。だからこんなに美味しいんだ」
「本場の味?」
「ええ、間違いないわ」
また言う真紀だった。言いながらその沖縄料理をどんどん食べていく。
「これはね」
「そうなんだ。じゃあ気に入ってもらった?」
「とても」
満面の笑顔で答える。答えながらまた食べる。
「美味しいじゃない」
「そうだったんだ。それじゃあまたここに来る?」
「そうね、またね」
言いながらどんどん食べていく。それは篤もだった。
「俺も結構沖縄料理好きだし」
「じゃあ丁度いいわね」
「この泡盛って」
ビールを飲み干した後のそのグラスに泡盛を入れてみた。そして飲むとであった。
胃の中が一気に熱くなった。ビールのそれとは全く違っていた。
その熱さを感じてだ。彼はまた言った。
「凄いね」
「そんなに凄いの?」
「凄いなんてものじゃないよ」
こう言うのである。
「もうね」
「美味しいでしょ」
「美味しいだけじゃなくて身体が一気に熱くなってきたよ」
「そんなに熱くなってきたの?」
「とてもね」
そう言いながら着ていたセーターを脱ぐ。そうして白いブラウスになるがここで真紀がその彼に対して言うのだった。
「あっ、シャツには」
学校のマークを指差すのだった。ビデオカメラがあってそれでチェックされているのはわかっているのでそれで指差して教えたのだ。
「いいわね」
「そうだよな。じゃあ」
「ばれたらあれだからね」
「だよな。流石にな」
「そうよ。それは気をつけないとね」
「わかったよ。それじゃあな」
セーターを着なおす。そうして暑くなってきたのは我慢した。
しかしであった。篤はここであらためて真紀のその重装備を見るのだった。それは彼のセーターどころではない。完全装備である。
「それにしてもよ」
「それにしても?」
「安座間ってそれで平気なんだな」
「そうだけれど」
「泡盛飲んでるよな」
見れば今も飲んでいる。それも確かめた。彼女は相変わらずどんどん飲み続けている。その一杯飲んだだけで熱くなるそれをである。
「熱くないのか?」
「寒いけれど」
彼女の返答は今もこれだった。
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