| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

緑間が不遇過ぎるから全力で活かしてみた

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 次ページ > 目次
 

緑間が不遇過ぎるから全力で活かしてみた

 
前書き
 一発ネタにしたところ、台詞がなくなってしまいました。それでネタと呼んで良いのかわかりませんが……申し訳ありません。 

 
 高く高く弧を描いた橙色のボールが、寸分違わずリングを通過する。シュートが放たれたのは自陣ゴール下という、少しでもバスケットボールを知る者なら目を疑うような位置。しかしそれが当然であるかのように、シュートを決めた男は喜ぶ様子を微塵も見せずに素早くディフェンスの配置に付いた。

 10年に1人の天才が5人集ったとされる、「キセキの世代」と称されるその1人。それがこの男、緑間真太郎である。もっとも、その評価も既に過去のもの。10年に1人など生温い。特にこの緑間に至っては不世出の才を持つ者とされ、高校1年にして既に、これほどのプレイヤーは未来永劫存在し得ないとまで言われていた。
 それもその筈。味方には余裕を、敵には絶望を齎す彼の者のシュート成功率は、驚愕の100%を誇る。無論それはレイアップの類ではなく、更に言えば最早3ポイントシュートなどというレベルでもない。空恐ろしいことに、緑間のロングシュートはバックコートから放たれる。そんな常識を超えた代物でありながら、絶対に外れないという奇跡を、彼は成していた。
 それ故に最低でも緑間に関してのみ、相手はオールコートで付くことを余儀なくされる。その中でも現在の対戦相手、誠凛はそれが色濃い。打点・軌道共に高いそのシュートに対し、後からブロック可能な火神が緑間に張り付く。誠凛は徹底的な緑間封じを選択していた。
 そしてそれが功を奏したのであろう。最初の10分間、誠凛の火神は緑間に1本のシュートすら許さない。誠凛23点、秀徳16点と、彼らはリードした状態で第1クォーターを終えた。

 状況が変化したのは、第2クォーター。火神1人では負担が大き過ぎたため、現在の緑間のマークは木吉を合わせたダブルチームへと変化している。そんな中、フロントコートに入ろうとしている秀徳の選手へとパスが出された、このプレイによる。
 それを横目に確認した2人は、自陣へ戻るために反転し、走り出した。それも当然であろう。オールコートで緑間に当たっているとはいえ、彼らはゴール下の柱。2人が共に不在の状況では、誠凛のゴール下など高が知れている。何より秀徳には全国屈指のセンターである大坪がおり、他の3人では到底止められない。アウトナンバーを解消するためにも、2人はすぐさま戻る必要があった。
 しかし。そんな考えを嘲笑うかのように、彼らの横をボールが通り過ぎていった。実は先程パスを受けた高尾はそのまま走り込まず、フロントコート手前でボールを受けたのである。
 意表を突いたトリッキーなプレーではあるが、普通ならば意味のない行動としか言いようがない。後方へのパスなど、通常であればロングパスの布石に過ぎない。故にその際は基本的にボールではなく、パスの貰い手をマークすれば済む。つまりディフェンス側は自陣へ戻ることが最善手となり、それが先の展開を不利にしないことにも繋がる。
 しかしバックコートに緑間が居る限り、それは最低の悪手。放置した瞬間、彼はフリーのレイアップと同じ気軽さで遥か遠方からシュートを放つ。しかもそれが必中であるのだから、始末に終えない。
 再び反転し直し、火神は緑間への距離を詰める。しかし2人が自陣へ戻ろうとした直後に緑間は左後方へと流れ、自ら距離を空けていた。これではどれほど急いだとしても、到底間に合わない。
 最早この試合何度目になるかわからない、超高高度リリースによるシュートが放たれる。火神は懸命に手を伸ばすが、やはり届くことはない。長い滞空時間を経て、ボールは静かにネットを揺らした。

 そこから数分は正しく一方的な展開となる。同じ轍を踏まないよう、確かにフロントコートにボールが入るまで火神と木吉の2人は緑間を意識し続けた。しかしこれが完全に裏目。誠凛は大坪に連続得点を許してしまう。
 ただでさえ一旦は4対3のアウトナンバーになる上、その3人のうち伊月、日向2人のポジションは1番と2番。水戸部1人では大坪を止めることができない。2人が戻るまでの僅か数秒を堪えることもできなかったのである。
 無論それだけならまだ何とかなろう。しかし相手は緑間を擁する秀徳。彼のシュートが存在する以上、誠凛は相手より多くシュートを決める必要がある。にもかかわらず、緑間の攻撃以外までが決定率100%の速攻では話にならない。第1クォーターの貯金も既に尽き、じりじりと点差は開いていく。今後誠凛が1度でもシュートを落とせば、戦況は大きく秀徳へと傾くであろう。

 堪らず誠凛はタイムアウトを取った。そして監督の相田が作戦の変更を伝える。それは緑間のマークの変更。端からシュートをブロックしようという考えが間違っていたことを彼女は告げる。
 バックコートから打つ緑間の超長距離砲にはある程度の溜めが必要となる。そして本来ディフェンスとはシュートを打たせないもの。シュート体勢を取らせないことを第一とすれば、実は誰が付いても大差ないのである。
 緑間をブロックできるが故に、超長距離砲は弾数に制限があるらしいが故に、彼女はついこの2人をマークに付けてしまった。しかしそれでは先程のように、アウトナンバーを作り出した相手の攻撃に耐えることができない。完全な失策であった。
 縦の高さだけでなく横にも速く、チーム1瞬発力のある火神はそのままで良い。しかし木吉に関しては頂けない。彼は何時もの通りゴール下に陣取っているほうが、相手にとっては何倍も嫌な筈。オールコートでダブルチームをつけるにしても、もう1人は視野の広い伊月で良い。
 緑間には極力ボールを持たせず、持たれた場合はとにかく張り付き、最優先でシュートを抑える。代わりにドリブルで単身突破されやすくなるが、問題はない。溜めの長くなる超長距離砲であれば、後ろからでも火神が間に合う。それは既に第1クォーターで証明されている。
 故にこの布陣がベスト。相田はそのように考えを改めていた。

 しかし、そんな誠凛の策も結局は無為に終わってしまう。木吉がゴール下に戻るや否や、秀徳の攻めが変化する。アウトナンバーでのアーリーオフェンスは行わなくなり、彼らは通常のセットオフェンスへ移行していた。それも当然であろう。誠凛がこの形を取るということは、ボールが何処にあろうと緑間へのダブルチームが行われるということ。常に4対3となるのであれば、秀徳が攻め急ぐ必要など何処にもない。何よりこの状況下では、ターンオーバーさえされなければ逆転されることはない。つまり今の秀徳に求められるのは確実性。彼らはそれを忠実に実行していた。
 そしてここからが誠凛にとって本当の地獄となる。秀徳がアーリーオフェンスを行わないということは、即ち緑間以外のメンバーもバックコートに残るということ。つまり緑間へのスクリーンが可能となっていた。
 このスクリーンプレイ、ダブルチームをかけている2人だけではとても対処できない。それが可能ならばマンマークのままにしている。自然、誠凛は全員でオールコートプレスを強いられることとなった。
 超長距離砲に関して、オフェンスの緑間はあくまでも余裕があれば打つ。それだけで良い。しかし対するディフェンスは違う。間を空ければ最後、そのシュートは確実に決まり、点差は更に広がる。故に死に物狂いで彼を止めなければならない。それほどの意識差がありながら、誠凛の体力が最後までもつ筈はなかった。

 第3クォーター終了間際、誠凛は切り札を投入するも、時既に遅し。他の者の体力は既に尽きかけている。使う側の彼1人がこの状況で十分に活きる筈もなく、誠凛はそのまま敗北を喫した。

 そしてその冬。秀徳高校はWC優勝を成し遂げることとなる。立役者となったのは勿論、シュート率100%のオールコートシューター緑間真太郎である。
 無論、苦戦もあった。流石の緑間とて、同じ「キセキの世代」と呼ばれる者が相手となれば1on1では分が悪くなる場合もある。しかしその「キセキの世代」であろうと、40分間常にスクリーンをかけられながらオールコートでマンマークし続けられるかと言えば、答えは否。終盤になれば必ず運動能力は落ちる。そこから始まる蹂躙は、圧倒的の一言に尽きた。
 これ以上詳しく語ることもない。ともかく、秀徳高校には緑間という稀代の天才が居た。それで十分であろう。



 後にバスケットボール協会はルールの改正を検討することになる。緑間真太郎の存在により、バックコートにもシュートの禁止を適用するか否かを協会は考え直さなければならなくなっていた。
 しかしスローイン時と違いディフェンスが付ける以上、流石にそれは納得がいかないと抗議が殺到してしまう。そもそもこれでは緑間だけが痛手を被るのは明らかであり、公平でもなかった。
 結果せめてもの妥協案として、スリーポイントラインの頂点からサイドラインへ向けてに新たな線が引かれた。そしてルールが変更され、バックパスが2段階に用意されることとなるが、それはまた別の話。 
 

 
後書き
 シュート率100%のオールコートシューター、緑間は強過ぎます。正直、言うまでもありませんけれど……。この超とんでも設定には、流石に何処から突っ込めば良いのかわかりません。本場アメリカにいた筈のアレックスがドン引きするのも当然でしょう。
 彼はそんな、ただでさえ敵味方観客全てが顔を覆う程の究極チートを持っています。それでいながら1on1のスキルも高い(ドリブルで抜けるのはオールレンジシュートの所為もあるとは思いますが)、そんなプレイヤーです。更に話題に上った欠点が全て失われているという現実。WC予選では最初から最後まで、体力の尽きることなくオールコートで打ち通しました。何より、タイトにマークされても結局フォームは崩れず、彼のシュートが触れられることなく落ちることはありませんでした。
 そんな化け物が居ながら、どうして勝てないのか。監督もチームメイトも緑間を活かしてあげて下さい。
 相手にすると5人でのゾーンが絶対に組めず、いるだけでディフェンスプランを崩壊させる。それが緑間です。対戦相手は緑間専用戦術の採用を余儀なくされます。これはもう、彼の所為でルールが変更されるレベルでしょう。……正直、他に対策が思い付きませんでした。あくまでネタなので、最後が適当なのはお許し下さい。

・非常にどうでも良い補足。
 たまにコート端でスクラムを組めば良い(図1)みたいな意見を見ますが、これは意味がありません。そんなことをしても、実際は図2のようになって失敗します。
_____
|緑○×   緑:緑間
|○○×   ○:他OF
|×××   ×:DF
図1 緑間を守れそうな図

_____
×緑○×   緑:緑間
|○○    ○:他OF
|×     ×:DF
図2 むしろ緑間が動けないの図

 無論ボールマンの場合はバイオレーションをとられますが、他のプレイヤーがコートから出ても何の問題もありません。1人でも直接接触していれば緑間のシュートは打てず、逆に味方が邪魔になります。 
< 前ページ 次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧