三角定規×2
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1部分:第一章
第一章
三角定規×2
はじまりはありきたりなものだった。
所謂痴話喧嘩である。惚れたはれたというのにすらまだいかないような。
「嘘よ、そんなの」
「だから嘘じゃないって」
いささか背の高いはっきりとした顔立ちの女の子が自分より少し背が高く茶色にした髪を長く伸ばしているやや面長の優しい顔立ちの相手に言っていた。
女の子は制服のスカートを短くしており奇麗な足を見せている。胸も大きく腰も締まっておりその制服の上からも見事なスタイルがはっきりとわかる。黒い目の光がとりわけはっきりとしている。
男の子の方は目も口もしっかりとしている。細くした眉は奇麗にへの字になっている。そしてスタイルもすらりとしている。そんな二人が教室で言い争っているのであった。
「何で千里ちゃん以外の女の子とそんなことをさ」
「だってお姉ちゃんから聞いたのよ」
「万里さんから?」
「そうよ、だから間違いないわよ」
こう返す住本千里だった。
「貴匡君が街で女の子と歩いてたってね」
「女の子って」
それを聞いた秋山貴匡はまずは困惑した顔になってしまった。
「僕が女の子と!?」
「しらばっくれるのね」
「女の子って誰とか」
その困惑した顔で千里に言い返すのだった。
「一体さ」
「だから貴匡君の浮気相手でしょ」
言葉は半分決めつけだった。
「貴匡君のね」
「それ何時のことだよ」
「昨日よ」
昨日だというのである。
「八橋中学の女の子とよ。しかも中学生となんて」
「中学生!?八橋中学!?」
それを聞いてすぐに表情を一変させた貴匡だった。
「あのさ、それで間違いないよね」
「ええ、そうよ」
その通りだと返す千里だった。
「お姉ちゃんはっきり言ってたわよ。証拠写真もあるって」
「証拠写真って」
「これよ。携帯で写メールしたものだって」
言いながら出してきたのは彼とその中学生の女の子が写っているまごうかたなき写真であった。見ればツインテールで可愛い顔の女の子である。二人並んでにこやかに街を歩いている。
「この娘に間違いないわよね」
「ってそれ妹だけれど」
ここでこう返した貴匡だった。
「その娘って」
「えっ!?」
「えっ!?じゃなくてさ」
驚いた声をあげる千里に対してさらに話す。
「妹だよ。妹の祥子」
「妹さんって」
「会ってるじゃない、一回か二回」
このことも話した貴匡だった。
「僕の家でさ」
「そうだったの!?」
「そうだったのじゃなくてほら」
今度は貴匡の方から携帯の写真を出した。そこにはその中学生の女の子と二人が貴匡を中央にして楽しく笑っている姿があった。
「ちゃんと一緒に写ってるでしょ」
「確かに」
「何で覚えてないんだよ」
「それはまあ。ちょっと」
形勢逆転だった。千里は急にしどろもどろになってしまった。そのしどろもどろの調子で貴匡に対して釈明をするのだった。かなり苦しい。
「私、人の名前と顔覚えるの苦手で」
「それでなんだ」
「御免なさい、お姉ちゃんも事情知らなくて」
「万里さんが知らないのはいいよ」
流石に彼女の姉までは、ということである。
「けれどさ、何で千里ちゃんが知らないんだよ」
「御免なさい、ちょっと」
「ちょっとじゃないよ、本当に」
貴匡はその眉も目も思いきり顰めさせていた。
「何でこんなの覚えてくれないんだよ」
「何ていうか」
「全く。それでそんだけ騒いで」
「騒いだのは仕方ないでしょ」
今まで弱っていたがここでまた勢いを取り戻した千里だった。その顔を少しきっとさせてそのうえで貴匡に対して反撃に出るのだった。
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