ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜
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第五十三話 無力
前書き
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「どこまでも目障りな奴らめ!ええい、忌々しい」
ジャミが苛立った声を上げながら輝く息を放った。
フバーハを唱えることで威力を軽減して、お返しにとメラゾーマを撃った。
「メラゾーマ!」
でもジャミもメラゾーマを撃って、私のメラゾーマと相殺させた。
アベル、ピエール、ジョー、ゲレゲレが剣と爪での連携攻撃をジャミに喰らわして、ジャミがアベルを蹴りつけようとしたのを、ドラきちが眩しい光を放つことで狙いを外させた。
「バギクロス!」
ジャミがバギクロスをまた使ったけど、そのバギクロスはさっきまでの巨大さと力強さが失われていた。
ビアンカの体から放たれた青い神秘の光がジャミの力を弱めてくれたお陰だ。
「バギクロス」
だから、アベルと私の2人がかりでのバギクロスでも破れなかったジャミのバギクロスは今は私一人のバギクロスで相殺できるレベルにまで弱くなっている。
バギクロスも突破されたジャミが悔しそうに顔を歪めていた。無理もないと思う。
だってジャミがあそこまで強かったのはゲマっていう奴に力を与えられていたから。
それが急に無くなったから、ジャミはもう強くない。急に弱くなっちゃったから、どうしていいのかわからなくなっている。
「ハァ!」
アベルが雄叫びをあげて、ジャミの体を貫いた。
ゴポッと音をたててジャミは口から血の塊を吐き出した。
「く、くそ……。この俺がやられるとは……。だが、そこの女がかつての天空の勇者の血を引いていることがわかった……」
ジャミのその言葉で、私達全員の間に衝撃が走った。
アベルの父、先代グランバニア国王のパパスさんがアベルのお母さんのマーサさんを助けるために追い求めていた天空の勇者。
その行方はわからなくなっていたけれど、まさかビアンカがその血を引いていたなんて……。
「申し訳ございません……。ですが後は頼みます……、ゲマ様」
ジャミは最後にそれだけ言うと、床に崩れ落ちた。
「ええ。後は私に任せなさい、ジャミ」
どこからか男にも女にも聞こえる声が響いた。
声の主を探して辺りを見渡すと、ジャミがさっきまで座っていた玉座の前に影が集まっていた。
影はしばらくして、一人の人物の姿を作った。
青白い肌に黄色の瞳。紫色のローブを頭から被っていて、蜘蛛のような青白い指は骸骨のような巨大な鎌の柄をいじっていた。
「久しぶりですね。アベル」
「お前は……ゲマ!」
アベルが怒りと憎悪を剥き出しにして、勢いよくゲマに斬りかかったけど、あっさりと鎌で受け止められる。
「まだまだですね。なす術もなく無様に敗れた幼少の頃と比べれば随分と腕は上がりましたが」
ゲマが鎌を水平に振るう。
それだけでアベルの体はメタルキングの剣ごと吹き飛ばされた。
「さて、まさか予想外でしたよ、そこの女がかの天空の勇者の子孫だったとは」
アベルの傷をベホイミで回復しながら、私はゲマから意識を外さないようにしていた。
ゲマがいつ何を仕掛けてきても対応できるようにするためだ。
「ここで殺してもいいのですが……どうせ私が動かなくてはならないのなら『このやり方』の方が良いでしょう」
ゲマが手を翳すとアベルとビアンカの足元から黒い光が放たれた。
光は2人の体に吸い込まれていきながら、段々輝きを増していって、ついには目も開けられないくらい強くなってーー。
光が収まったのを感じて恐る恐る目を開くと、そこには……そこには石になった2人の姿があった。
「アベル!ビアンカ!」
慌てて私は変わり果てた2人に駆け寄って、体を叩いて。呼びかけた。
どうすればいいのかわからない、こんな時どんな魔法を使えばいいのかわからない。
そんな私に追い打ちをかけるように、ゲマの無慈悲な、それでいて愉しそうな声が聞こえてきた。
「ミレイ、と言いましたね。あなたのその力は我々にとって邪魔になる。だから、芽は早めに摘んでしまわないと」
ゲマがまた手を翳すと、私の足元にも黒い光が現れた。
「私も、石化させるの?」
できるだけ、ゲマに不安を感じ取られないように様に言ったけど、ゲマは私の不安なんか簡単に見透かしたみたいで、嫌らしく笑っていた。
「石化させてもいいのですが……何も石化ばかりが手段ではありませんよ」
どういう意味かをゲマに聞こうとしたけど、足元の黒い光が強くなった。
その瞬間、凄まじい不快感と脱力感が私を襲った。
とにかく気持ち悪い、目の前の景色が歪んで、体が浮くような変な感覚がする。
それに、指の一本にも力が入らない。体がバランスを失って床に倒れたけど、立ち上がれない。
「安心してください。もうそろそろ終わりますよ」
異常なまでの不快感と脱力感の中でゲマの声だけが鮮明に響いた。
そして、ゲマの言葉通り、急に不快感と脱力感はなくなった。
でも、何か違和感を感じる。
不気味な何かを感じながらも、体を起こしてゲマの方を見ると、ゲマの手にさっきまではなかったはずの黒い球体が握られていた。
「その黒い球体は何?」
聞いたけど、ゲマはニヤニヤと笑っているだけだった。
「さて、もう様も済んだことですし、私はそろそろ帰りますよ」
ゲマが両手を広げると、アベルとビアンカが浮かび上がる。
2人を取り返すために、私はゲマに意識を集中させて、唱えた。
「メラゾーマ!」
でも……メラゾーマは発動しなかった。
試しに他の魔法も唱えてみたけど、どれも発動しなかった。
最初は魔力が切れたと思ったけど違う。
私は、ゲマに魔法を奪われたんだ。
私の目の前でゲマとアベルとビアンカは消えて……後には私達だけが残された。
それからどのようにしてグランバニアに帰ってきたのかは覚えていない。
気がついたら私は自分の部屋で壁に寄りかかっていた。
私はビアンカを助けることが出来なかった。
私は魔法を敵に奪われた。
自分の仲間を助けられないで、自分の力を奪われた人間に『影響』なんて消せるわけがない。
所詮、私は特典に頼るっていただけの弱い人間なんだ。
そんな私なんて、元の世界に帰る資格もこの世界で戦う資格もないーー。
「ごめんなさい、アベル。ごめんなさい、ビアンカ。ごめん、ごめん、ごめん、ごめん」
私は暗い部屋の中で2人に謝りながら泣き続けていた。
いつの間にか外からは雨の音が聞こえていた。
後書き
デモンズタワー編一先ずは終了しましたが、力を奪われたミレイがこの先どうなるか。
後少しで青年時代後半突入です。
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