コスプレイヤー
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4部分:第四章
第四章
「どうしてって。コスプレの女の子見るのが俺の趣味の一つだから」
「そんな・・・・・・」
それを聞いて絶句する由比であった。
「そんなこと聞いてないわよ」
「聞いてるも何も」
啓太郎もまた狼狽していた。こんなことは考えもしなかったからだ。
「何でまた」
「あれっ、この彼って」
「ユイちゃんの知り合いなのかな」
「えっ、ええ」
由比は何とか落ち着きを取り戻しながら彼等の言葉に答えた。
「一応は。あっ、木戸君」
また焦った感じにすぐなってその彼等に答える。
「また後でね」
「あっ、ああ」
啓太郎もそれに頷く。何とかこの場を取り繕ったのだった。場を取り繕うととりあえず彼はその場を離れ由比もコンテストに向かった。コンテストで賞を取ってとトロフィーを手に入れた彼女のところにあらためて向かう。ちょうどお昼で会場の隅の階段のところに腰掛けてお弁当を食べていた。彼は丁度そこにやって来たのである。
「お昼食べているんだ」
「ええ、まあ」
見れば由比は階段の端で小さく座ってそのお弁当を食べていた。彼の方に顔を向けて答えてきたのだった。
「木戸君はお昼はどうしたの?」
「コンビニでサンドイッチとフランクフルトとか買って食べたよ」
「そうなんだ」
「うん、だからもうフリーなんだ」
こう由比に答えた。
「高見沢さんはこれからみたいだけれどね」
「そうよ」
恥ずかしそうな顔で彼に答えてきた。
「今から食べるのよ」
「そうなんだ。ところで」
ここで彼はふと彼女が今膝に置いて食べているそのお弁当を見た。青い丸い箱に中はお握りと卵焼き、人参にレタスにプチトマトといったメニューであった。見ればお店のものではない。
「手作り?」
「そうよ」
啓太郎の問いにこくりと頷いて答えてきた。
「いつも自分で作ってるのよ」
「そうだったんだ」
言いながら前に出る。そうして由比の隣に来た。といっても階段の端と端であるが。その隣に来たところでまた彼女に声をかけた。
「隣いいかな」
「ええ、いいわよ」
「それじゃあ」
彼女の許しを得て隣に座る。それからお弁当を食べ続けている彼女に対して問うのであった。
「ところでさ」
「何?」
「何時からやってるの?」
コスプレのことを尋ねてきた。
「中学生の頃からよ」
「随分前からなんだね」
「まあ。そうね」
やはりここでも恥ずかしそうに答えてきた。俯いた顔が赤くなっているのがわかる。
「何でまたしてるのかな」
「アニメとかゲーム。好きだし」
「そうだったんだ」
「そのキャラクターを見ているうちに自分もこんな格好がしたいなって思って」
「それではじめたんだね」
「そうなの」
またこくりと頷いてみせてきた。コスプレをはじめた理由としては非常によくある理由であった。簡単に言うとキャラクターへの憧れである。
「それではじめていみたら楽しいし皆が注目してくれるし」
「趣味になったんだ」
「今じゃ。何十着も持ってるわ」
こうも答えてきた。
「学校とは違って。とても楽しくて」
「学校とはねえ」
「やっぱり驚いたわよね」
今度は彼女の方から言ってきた。
「私がこんな格好してこんな場所にいるなんて」
「まあね」
その言葉は否定しなかった。彼も嘘をつくつもりはなかった。
「まさかと思ったよ。サイトを見た時には引っ掛かったけれどね」
「やっぱり。そうよね」
彼女もネットのことは知っている。だがまさか見つかるとは思っていなかったのだ。
「そこにも映っていたの」
「奇麗に映っていたよ」
由比の顔を見て微笑んでみせる。だが彼女は俯いたままであった。
「そこでわかるなんて」
「わかったのが嫌なの?」
「ええ。だってこれは」
由比は俯いたまま彼に話すのだった。
「秘密の趣味だから」
「そう、秘密だったんだ」
「学校ではそんなの絶対に言わなかったわ」
こうも言う。その言葉には真剣な響きがあった。その響きは啓太郎にも伝わった。
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