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女の子らしさ

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7部分:第七章


第七章

「それじゃあ」
「女の子だよ、時任は」
 彼は温かい声でその茉莉也に告げた。
「だから俺も好きなんだよ」
「有り難う」
 その言葉をにこりと笑って受け止める茉莉也だった。彼女の今の笑顔は紛れもなく女の子のものであった。それ以外の何者でもなかった。
 このことをまた部活の帰りに優に話す。すると彼女はこう言うのだった。
「あんたらしくってのはこういうことだったのよ」
「こういうことだったんですか」
「だって。男か女かなんてのはもう決まってるから」 
 茉莉也への言葉である。
「生まれてそれで。あんた自分を男の子だって思ったことはないわよね」
「それは一度も」
 なかった。自分は女だと常に思ってきた。それは真実だった。
「ないです」
「それじゃあ女の子なのよ。自分でずっとそう思ってるならね」
「そうなんですか」
「そうよ。だからあんたは女の子」
 茉莉也に顔を向けての言葉である。
「他の誰がどう思っていてもね」
「そういうことだったんですか」
「だからそれぞれなのよ。女の子だって」
 優の言葉は続く。そのまま彼女にかけられていって。
「私だって女の子だしあんただって女の子なのよ」
「刑部君私を女の子らしいって言ってくれたのは」
「そういうことよ。あんたの女の子を見ていたのよ」
 だからだというのだった。それは今まで彼女に話していたことの答えでもあった。
「ずっとね。見ていてわかっていたのよ」
「私が女の子ですか」
 まだ信じられなかった。彼の言葉も今の優の言葉も。しかしここで彼女は言葉に出してみたのだった。
「そうなんですね。女の子なんですね」
「その彼氏と幸せにやりなさい」
 次の言葉はこうしたものであった。
「いいわね」
「はい」
 優のその言葉に明るく頷く茉莉也だった。
「わかりました」
「それぞれよ」
 ここでまた言う優であった。
「何でもそうだけれど女の子ね」
「そうみたいですね」
「明るくて活発な女の子もいるわ」
 目を微笑まさせて茉莉也に言葉をかけ続ける。
「私だって昔は男みたいだってよく言われたし」
「先輩もですか」
「中学校の時はもうね。私力も強いし背も高いし筋肉もあるしで」
 それはその通りだった。全体的に引き締まった身体をしている優である。だからそう言われていたというわけである。
「男そのものってもね」
「言われてたんですか」
「けれど」
 ここまで話してまた茉莉也に対して言う。
「茉莉也は私のことどう思ってくれてるのかしら」
「私はですか」
「ええ。どう思ってるの?」
 微笑んで彼女に問うてきたのである。
「私のことは。どう思ってくれているのかしら」
「とてもしっかりとして。性格だって」
「女らしいっていうのね」
「はい、格好いい女らしさです」
 彼女が優に感じているのはそれだった。その顔立ちも日に焼けた顔を見ても。彼女にとっては全てがそうした格好よさなのであった。
「とても」
「有り難う。そう言ってくれて」
「本当ですよ」
 このことも告げる茉莉也だった。
「先輩は本当に」
「最初にそう言ってくれた人がいて」
 頬笑みながらの優の言葉は続く。
「私ね。そこではじめてわかったのよ」
「女の子らしさですか」
「それぞれだって。色々あるんだって」
 わかったというのである。そうしたことが全て。
「わかったのよ」
「そうだったんですか」
「今もその相手とね」
 話をさらに続けていく。今見ている茉莉也に対して。
「続いてるけれどね」
「先輩にとって大切な人なんですね」
「そうよ。だから茉莉也も」
 自分のことを話したうえでさらに彼女にも告げていく。
「その人のこと大切にしてね。貴女の女の子らしさに最初に気付いてくれたその人をね」
「はい!」
 最後に明るく返事をする茉莉也だった。赤い夕焼けが二人を照らす。その中で笑顔で言い合うその顔はどちらも確かに女の子のものだった。


女の子らしさ   完


              2009・9・24
 
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