女の子らしさ

第二章

「それと同じことよ」
「同じって？」
「だから。あんたいつも小さいとか言われてるじゃない」
「ええ」
　ここで言い加えもする茉莉也だった。
「他には男の子みたいだとかも」
「わかってないからそんなことを言うのよ」
　優しい笑みを浮かべて茉莉也に告げてきていた。
「あんたのよさがね。わかってないから言うのよ」
「私のよさ、ですか」
「若しかしたら自分でもわかっていないかも知れないけれど」
　こんなことも言う。ふとそうも思ったからである。
「それでもわかっていたら絶対に言わないわよ」
「わかっていたらですか」
「そしてわかっていない相手は気にする必要はないのよ」
　言葉を替えてきた。今度はこうした言葉であった。
「そうした相手はね」
「そうなんですか」
「自分でもわかっていなかったら見つければいいだけよ」
　こうも彼女に話すのであった。
「それだけだからね」
「はあ」
　だが茉莉也は優のその言葉を聞いてもこう言葉を返すだけしかできなかった。言われてもどうしてもわからないことだったからだ。今の彼女には。
「そうなんですか」
「そのうち見つかるわ」
「見つかればいいですけれど」
「それか見つけるか」
　こうも言う優だった。
「いいわね。どっちしろ見ることが大事なのよ」
「見るんですね」
「わかったら帰りましょう」
　ここでも優しい優の言葉であった。
「今からね」
「はい。じゃあ」
　茉莉也は先輩の言葉に応えそのうえで学校に帰る。この日はこれで終わった。しかしこの日だけが終わったのではなく日常はまだ続いていた。
　その日常においても茉莉也は変わらない。相変わらずその背のことや外見のことを言われていた。
「これで女ってよ」
「嘘だろ」
「なあ」
「何が嘘なのよ」
　ムキになった顔で言い返すのもまた変わらなかった。
「全く。私の何処が男の子なのよ」
「だってよ。髪型にしろな」
「顔だってな」
　そうした場所を次々に言われていく。言うのはまたしても同じ部活の男連中であった。
「短くて癖も悪いしよ」
「眉だってしっかりしてるしな」
「目の感じだってな」
「しかもだよ」　
　彼等の言葉はそれに留まらなかった。
「胸だってないしよ」
「身体つきもまんまじゃねえかよ」
「胸がなくても女の子よ」
　同じ反論を繰り返すばかりの茉莉也だった。
「これは誓って言うわよ」
「誓うのはいいけれどよ」
「実際に御前ってよ」
「女の子には見えねえよ」
「背は男にしちゃ小さいけれどな」
　ついでにまた背のことも言われるのだった。背についてもかなり小さい彼女だった。男で流石に一五〇ないというのもまずないことである。
「それでもよ。あんまりにもよ」
「女の子らしくねえよな」
「だよなあ」
「女の子らしくね」
　そう言われて考える顔になる茉莉也だった。
「女の子なのね」
「まあちょっとは女の子らしくしてみなよ」
「色々やってみたらどうだよ」
「わかったわよ。じゃあやってやるわよ」
　半分売り言葉に買い言葉であった。
「誰が見てもそういうふうにね」
　そう決意してだった。実際に女の子になろうと決意した。そうしてまずは化粧をはじめてみた。そのうえで髪をまとめるのであった。
　髪の毛をのばしてそれには留まらなかった。服装にも気を使うのだった。