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噂につられ

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5部分:第五章


第五章

「いるの?本当に」
「ああ」
「ひっ」
 彼が肯定の言葉を出してきたのでいよいよ声が怯えた。
「何!?じゃあやっぱり」
「ほら、こっちだ」
 急に何か誘い出した賢治であった。
「こっち来い。ほら」
「ちょっとあんた」
 玲子は彼が誘っているのを見て慌てて止めようとする。
「何寄せてるのよ。そんなことしたら」
「だから安心しろって」 
 それでも賢治の声は落ち着いたものであった。
「見えねえのならそれでいいからさ」
「いいからって」
「よし」
 ここで鞄から何かを出してきた。それは肉のようであった。
「それ何?」
「夜食に持って来たんだ」
 こう玲子に答える。
「ビーフジャーキーさ。丁度よかったぜ」
「よかったって何でよ」
 玲子は今の賢治の言葉に首を傾げさせる。
「妖怪なんか寄せて」
「本当に妖怪だと思うか?」
 賢治は楽しそうに笑ってまた玲子に言ってきた。
「本当に」
「何が言いたいのよ」
「ん!?じゃあ」
「これかえって邪魔かな」
 賢治の様子を見て伸介も勝也も懐中電灯を消してしまった。続いて朝香も。
「あたし達も何か見える頃かしら」
「ああ、馴れてきたんじゃねえの?」
 賢治は彼等にも言う。既にビーフジャーキーを手に屈んでいる。
「そろそろさ」
「それで何がいるのよ」
 玲子は怪訝な顔で賢治に問う。
「妖怪にそんなものあげて」
「何で妖怪に!?」
 しかし賢治の返事は何を言っているんだといった感じであった。
「ビーフジャーキーなんてあげるんだよ」
「それじゃあ何よ、一体」
「懐中電灯は止めてくれよ」
 賢治は笑ってこう言ってきた。
「頼むからな」
「!?何で?」
 玲子にはわからない言葉だった。
「妖怪なんでしょ、それなのに」
「だから妖怪じゃないわよ」
 横から朝香がクスクスと笑いながら言うのだった。
「そんな物騒なのじゃ」
「わからないんだけれど」
 玲子は朝香のその言葉を聞いてさらに首を捻った。
「妖怪じゃなかったら何よ」
「もう少しじゃない?」
 また横から言う者がいた。伸介であった。
「そろそろ樋山さんも」
「そうだね」
「そうだねって」
 勝也も頷いたのでついつい問うた。
「だから何なのって。さっきから全然わからないし」
「猫よ」
 くすくすと笑いながら朝香が答えてきた。
「猫がいるのよ」
「猫!?」
「そろそろ見えてきたでしょ」
 夜に馴れてきたのではと言われた。
「目が。どう?」
「そういえば」
 言われればそうだ。目が結構馴れてきた。そうすると賢治がそのビーフジャーキーを猫にあげているのが見えた。見れば黒猫である。
「よしよし」
「じゃあ校庭に出た妖怪って」
「そうね、この猫だったみたい」
 朝香はその黒猫を見て言う。こうして種がわかれば実に何でもない話だった。
「意外だった?」
「ええ」
 玲子は朝香のその言葉に頷く。
「本当に何が出るかって思ってたから。けれど実際は」
「猫一匹。けれど」
 ここで勝也が言う。
「この猫ノラ猫みたいだね」
「ああ、そういえば」
 伸介が彼の言葉に頷く。見れば首輪がない。それによく見れば毛並みも乱れている。そうしたところを見ていけばこの猫がノラ猫であるのがわかるのだった。
 
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