仁王
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第四章
「こうした体格をしていたんだよ」
「こんな凄い身体してたんですか」
「ガチムキだったんですね、鎌倉武士って」
「ギリシア彫刻より凄いですけれど」
「無茶苦茶強そうで」
「本当にヘラクレス以上ですよ」
「毎日武芸に励んで戦争にも出ていたしね」
先生は何故鎌倉武士達が仁王のモデルになった様な身体であるのかをだ、学生達に対して授業での口調そのままで話した。
「思い鎧、具足や兜を着けて」
「ああ、義経さんみたいに」
「あの人みたいにですね」
「あのごつい鎧兜着て馬に乗って戦っていた」
「だからですか」
「しかも玄米やお魚や山の獣の干物とか野菜のお漬物tか硬くて栄養のあるものを食べていて」
彼等の食事のこともだ、先生は話した。
「けんちん汁というか寄せ鍋みたいなものも食べていて」
「栄養も摂っていたんですね」
「強い身体になる様な」
「そうだよ、顎も強かったしね」
「ううん、じゃあ」
学生の一人がだ、こんなことを言った。
「俺達も鎌倉武士みたいに武芸に励んで鎧着て戦に出て」
「そしてだね」
「玄米とか食べていたら」
「うん、君達もだよ」
「こうした凄い身体になれるんですね」
「そうした生活を毎日していたらね」
鎌倉武士の様な生活をというのだ。
「なれるよ」
「そうですか、ただ」
ここでだ、その学生は。
自分のその痩せた、ガリガリと言っていい身体をブレザーの制服の上から見て苦笑いになって先生にも他の学生達にも言った。
「今の生活だと無理ですね」
「運動をして筋肉をつけても」
「ここまではですね」
「なれないよ」
「そうですね、じゃあ玄米食って鎧兜着けて」
「毎日武芸をしたらね」
「こうした凄い人になれますね」
こう言うのだった、その逞しい仁王像を見てだった。
「俺も」
「まあね、ただもう鎧兜はないからね」
今の時代にはとだ、先生はその学生に笑って射た。
「そのことは頭に入れておくんだよ」
「というかこんな身体になるってな」
「尋常じゃないからな」
他の学生達は唸って言った。
「鎌倉武士ってな」
「こんな凄い身体してたのかよ」
「ちょっとやそっとでな」
「なれないな」
「うん、僕もね」
先生自身もだ、こう言った。
「こんな体格になるのは無理だよ」
「というか先生最近お腹出てきてません?」
「中年太りなんじゃ」
「そのままいきますと」
「ちょっとまずいですよ」
「そうなんだよ、痛風とか糖尿病とか高血圧とかね」
そうした不吉な病名をだ、先生は苦笑いを浮かべて出した。
「怖くなってきたよ」
「じゃあ先生も鎧兜着てみます?」
「それで毎日武芸に励んで玄米食って」
「仁王みたいになりますか」
「少なくとも中年太りは何とかしないとね」
中年太りなぞ言葉すら知らないであろう仁王を見て言うのだった、仁王の身体はガリガリだの肥満だのとは全く縁のない見事なものであった。
仁王 完
2015・8・22
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