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仁王

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第一章

                 仁王
 運慶は平家により大仏をはじめとして多くの堂が焼かれた東大寺からだ、ある依頼を受けていた。
「仁王等をですか」
「はい、そうした像をです」
 東大寺から来た僧侶がだ、運慶に話した。
「運慶殿に造って欲しいのです」
「拙僧に」
「運慶殿ならと思いまして」
 彼の腕を見込んでのことだというのだ。
「お願い出来ますか」
「わかりました」
 運慶は申し出自体は快諾した、僧侶はその快諾の言葉を聞いて晴れやかな顔になった。
 しかしだ、運慶はその彼にこうも言ったのだった。
「ただ、仁王即ち金剛力士を造るとなりますと」
「何かありますか」
「観て造りたいです」
「観て、ですか」
「はい、金剛力士は強く逞しい仏です」
 金剛力士のこのことをだ、彼は言うのだった。
「ですから強く逞しい御仁の身体を観てです」
「その御仁の身体をですか」
「仁王の身体にしたいのです」
「成程、強き御仁の身体をですか」
「そのままです」
「仁王の身体にしたいと」
「阿形吽形共に」
 仁王のうちのどちらもというのだ。
「寺の門を、即ち仏門の入口を護るのに相応しく」
「そうですか、ではです」
「はい、そうした方をです」
「見つけてお連れします」
 運慶の前にとだ、僧侶は約束してだった。
 そしてだ、暫くしてだった。
 僧侶は東大寺の高僧達に運慶の快諾と彼の注文のことを話した、すると高僧達はその話を受けてだった。
 すぐにだ、こう言ったのだった。
「わかった、ではな」
「そうした御仁はこちらで用意しよう」
「そして運慶殿の前にだ」
「その御仁を送ろう」
「御主と共にな」
「それでは」
 僧侶は高僧達の言葉に応えた、そしてだった。
 僧侶の前にだ、その御仁が来た。それは大柄でしかも筋骨隆々の見るからに逞しい、顔まで仁王そっくりの男だった。
 男は僧侶にだ、名乗ってから述べた。
「侍だ」
「おお、そうですか」
「何やら仕事とのことだが」
「はい、実は」
 ここでだ、僧侶はその侍にだった。ことの事情を話した。侍はその事情を全て聞いてからだ、その大きな口を開けて笑って言った。
「仏像を造る為に拙者の身体を観てか」
「像を造られたいとのことなので」
 他ならぬ運慶がだ。
「運慶殿のところに行かれてです」
「服を脱いでじゃな」
「はい、そして構えを取られればです」
「いいのじゃな」
「左様です」
 こう侍に話すのだった。
「お礼はお話した通りです」
「随分弾んでくれるが」
「こちらのお礼です」
 仕事をしてくれたそれのだ。
「ですからそのことはお気遣いなく」
「そう言ってくれるか」
「ではこれより」
「うむ、運慶殿のところに参ってな」
「拙僧も一緒です」
 僧侶はこのこともだ、侍に話した。
「案内等をさせて頂きますので」
「ではな」
「はい、これより参りましょう」
 こうしてだった、僧侶はその侍を運慶のところまで連れて行った。運慶はその侍を観て僧侶に会心の声で言った。 
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